〔病院情報〕
病院紹介シリーズ21「医療相談開発部(心理部門)」
 


 医療相談開発部心理部門が病院のどこにあるかということは、病院外の皆さんには意外に知られていないかもしれません。病棟や外来から一番遠い病院訓練棟2階の北東の端、廊下の突き当たりに事務室があるので、初めての方にはなかなかわかりにくく、外来の患者さまにはご迷惑をおかけしていますが、並びにある面接室3室は野外訓練場に面してとても静かな環境に恵まれています。部屋の北側は全面がガラス窓になっていますので、春にはクスノキの若葉や八重桜の花を、秋にはハナミズキの紅葉や柘榴の黄葉をと、四季折々に一幅の絵のような風景を眺めてただくことができます。
 さて、占有面積からすると病院内で最小部門の観はありますが、平成13年度から開始された高次脳機能障害モデル事業の一翼を担って、病院開設当初1名であった常勤職員は現在は3名となりました。この伸び率は病院一を自負しており、今年度も頼りになる非常勤職員とともに日々の臨床業務に取り組んでいます。
 モデル事業以前の心理部門は、知能検査を主とした心理検査の実施や発症後に生じた不安や心理的葛藤などの主訴に対する心理面接が臨床業務の中心でしたが、現在では高次脳機能障害の評価法の一つとして神経心理学的検査が位置付けられ、心理検査の有用性が再認識されたことにより、検査依頼件数が急増してきました。それらの依頼に迅速に対応し、他部門へ情報提供を的確に行うことは重要な課題です。
 また、検査後は結果をご本人やご家族にわかりやすく説明し、病院での訓練をスムーズに進めるとともに、退院後の暮らしに必要な生活の枠組みへ生かしていくための長期的視野に立った支援も必要になってきています。患者さまのライフサイクルの展開に対応した柔軟な支援がスペシャリストとしての心理職に求められています。
 病院から職場や学校へ、また、さらに学校から就職へと各ライフステージでの環境の変化に起因する混乱を最小限にし、ご本人の不安や葛藤への対処を支援することは、ご家族との根気のいる協働作業でもあります。年齢や価値観も様々なご家族に向けての病状の理解や対応方法に関する教育的支援や、ご本人以上に葛藤を抱えているご家族への心理的支援も我々の重要な臨床業務と捉えて実践しています。
 さらに病院の他部門と連携した家族学習会の取り組みでは、高次脳機能障害者のご家族が講義を聴いたり、グループ形式で話し合う中で、ご自身で悩みを整理され、エンパワメントされることを支援し、「教えられる側」から「体験を語る側」へ、そして「助言する側」へとステップされるのを見守る役割を務めています。見守りながらも、ご家族全体がどのような状況にあっても成長していかれるしなやかな力強さを目の当たりにし、逆に職員の方が学ばせていただいていると感じることが多々あります。
 もちろん、心理部門に来室される患者さまは高次脳機能障害を有する方のみではありません。頸髄損傷、切断、視覚障害、聴覚障害など様々な障害を有する方に対しても、心理面接などを通じてリハビリテーションが円滑に進むように側面的な支援をしています。
 また、後進の育成のために臨床心理士を目指す大学院の学生を実習生として毎年受け入れていますが、当院のように常勤の臨床心理士が複数名勤務している病院は多くはないため、臨床実習先として重要な役割を果たしています。心理部門の職員が保有している臨床心理士という資格は、文部科学省が監督する財団の認定資格であって国家資格ではないため、心理検査以外の臨床業務が病院の収益に直接つながらないことは大変残念な状況です。このことは病院に勤務する臨床心理士が増加しない大きな理由でもありますが、スクールカウンセラーなどを通じて社会的な知名度の上がってきた臨床心理士が、医学の分野でも活躍の場をより多く与えられるようにと願うばかりです。
 今後、病院では建替え等の大規模で長期的な事業を控え、ますます院内の他の部門との有機的な連携が必要になってきていますが、センター全体の将来構想の中の「ミッション」、そして、病院の「ミッション」を意識しながら、臨床家として自己研鑽に励み、日々の臨床業務を丁寧に積み重ねることが我々心理部門の「ミッション」であると考えています。