〔国際協力情報〕
西太平洋地域WHO指定研究協力センター
作業グループ会議(香港)
更生訓練所長  江藤 文夫



 表記の会議が、昨年12月10-11日に香港で開催され、出席しました。
 西太平洋地域のリハビリテーションに関するWHO指定研究協力センターとしては、中国武漢の同済医院リハビリテーション科、広州の中山大学病院リハビリテーション科、香港リハビリテーション協会(香港復康会)、フィリピンのネグロス西洋リハビリテーション財団、そしてわが国立障害者リハビリテーションセンターの5箇所がWHOからの指定を受けています。しかし、この5センター間で意見交換をしたり、役割分担したりするための公式の会合は、少なくともこの数年間は開催されたことがありません。そこで、昨年6月にマニラで開催されたCBR(community-based rehabilitation)に関するWHOのワークショップの席で、香港復康会とWHO西太平洋地域事務局(WPRO)から協力センターがいくつかの領域で一緒に作業するための会議を開くことが提案されました。その後、10月になって香港復康会が主催してWPROから財政支援が得られることになり、急遽会議が実現することとなりました。今回の会議にはこれら5センターの代表と現在WHO協力センターの指定を申請中である韓国の国立リハビリテーションセンターにも参加が呼びかけられました。
 会議の目的は、西太平洋地域での協力と資源を共有するための有用な方法を開発し、協力センターのネットワークを強化することです。具体的には、(1)この地域での各協力センターの概要と実際の活動を互いに理解すること、(2)3つの重要な国際文書(国連障害者権利条約、編纂中の障害とリハビリテーションに関する世界報告書、CBRガイドライン)と我々の現在の活動への影響について討議すること、(3)今後1年間に協働して行う活動を具体的に定めること、(4)各センター間のコミュニケーションと情報共有を増やす方法について合意すること、などでした。
 会議は、市の中心部にある社会サービスカウンシルの会議室で行われました。出席者の紹介に続いてWHO-WPROを代表してMrs. Remedios Paulino、次いで主催者の香港復康会会長Dr. David Fangのスピーチで始まり、午前中のプログラムとして各協力センター及び韓国からの報告が行われ、最後に香港復康会からケースマネジャーのMr. Andrew Kwokにより「変化が重要」と題してCBRを中心に活動の歴史が紹介されました。引き続いての意見交換では、社会の事情は異なるものの、各国に共通して高齢者の問題の重要性が話題となりました。また、このセッションは香港のリハビリテーション関係者に公開で行われ、香港の活発なリハビリテーションの状況がうかがえました。
 午後は、会場を変えて行われ、協力センターの協働事業の討議に向けて、はじめにWHO事務局からMr. Chapal Khasnabisが、障害とリハビリテーションに関する世界報告書の準備状況について、またCBRガイドラインの改訂作業について講演しました(写真1)。世界報告書の最終版については権利条約同様に英語、フランス語、スペイン語、中国語等に翻訳されて完成予定で、さらに視覚障害者のためのフォーマットを含めて2010年12月の世界障害デーまでには刊行されるということでした。CBRガイドラインと協力センターにおける意義については、これまでの経緯を含めて話がありました。ガイドラインは2010年10月に刊行される予定で、様々な言語に翻訳される必要がありますが、正本は英語のみとのことです。
 休憩をおいて、西太平洋地域におけるCBR活動の枠組みに関する現状報告が事務局のMrs. Paulinoよりありました。マニラでのCBRワークショップで開発されたCBR活動のための西太平洋地域フレームワークは、その後の非公式な相談を経て整理され、活動の6領域と目的、細目事項が定められ、その実行のための拠点としては西太平洋地域のWHO加盟国、WHO事務局、WHO協力センターの3つが想定されています。
 この報告を基調として、各センターが中心になって展開すべき活動について討議されました。香港で長年活動してきた世界作業療法士協会の前会長のMrs. Kit Sinclairが討論の推進役となってブレインストーム・セッションがもたれ、それぞれのセンターが前述のフレームワークの活動領域に結び付けて、協力すべき活動を列挙するよう求められました。ここでは非常に多くの提案がなされましたが、列挙された活動や行動の項目を整理して、翌日の会議では3つの優先すべき課題をプロジェクトプランとして決定し、各協力センターの役割分担が定められました(写真2)。
 最終的に合意された協力のための優先領域としては、(1)CBRにおける最善の実践事例を収集・編集して情報提供すること、(2)支援技術のアウトカムに関してQOLや利用者満足度の探究、(3)病院とCBRとの間でエビデンスやマニュアルの情報普及システムの構築と強化、が設定され、日本は(3)を中心に協力することとなりました。また、各自のコミュニケーションを図るためのe-mailレター等の発行は香港のセンターが担当することとなりました。
 公式プログラム終了後の午後は、先進国都市部におけるCBRの現場見学として、出席者全員でCommunity Rehabilitation Network(社区復康網絡)のセンターを訪問しました。この施設は香港中を網羅する香港復康会のコミュニティサービスの一部として1994年に開設され、主として慢性疾患の人々を対象として、疾患の自己管理、相互援助(互助)、エンパワーメントを目的として、保健介護セクターと連携していて、医院からの退院前プログラムや健康教室などを通して慢性疾患のための多様な地域ケアを提供していました。
 なお、次回の協力センター会議は、2010年4月15-16日に武漢で開催される中国国内セミナー(武漢と香港WHOにより1989年に開始されたリハビリテーション研修プログラム20周年記念)に合わせて開催し、プロジェクトの中間報告を含めて検討することとなりました。



(写真1)会議風景。CBR Matrixについて説明するWHO本部のMr. Chapal Khasnabis。   (写真2)出席者の集合写真。後列左から、Dr. Huang Dongfeng(広州)、Dr. Xu Tao(武漢)、Dr. Wan-Ho Kim(韓国)、筆者、Mr. Chapal Khasnabis(WHO、ジュネーブ)、Mrs. Sheila Purves(香港)、Dr. Luis G Sarrosa(フィリピン)、Dr. Andrew B. Sanchez(フィリピン)。前列左から、Dr. Huang Xiaolin(武漢)、Dr. Zhuo Dahong(広州)、Mrs. Kit Sinclair(香港)、Mrs. Remedios Paulino(WHO、マニラ)
(写真1)会議風景。CBR Matrixについて説明するWHO本部のMr. Chapal Khasnabis。   (写真2)出席者の集合写真。後列左から、Dr. Huang Dongfeng(広州)、Dr. Xu Tao(武漢)、Dr. Wan-Ho Kim(韓国)、筆者、Mr. Chapal Khasnabis(WHO、ジュネーブ)、Mrs. Sheila Purves(香港)、Dr. Luis G Sarrosa(フィリピン)、Dr. Andrew B. Sanchez(フィリピン)。前列左から、Dr. Huang Xiaolin(武漢)、Dr. Zhuo Dahong(広州)、Mrs. Kit Sinclair(香港)、Mrs. Remedios Paulino(WHO、マニラ)