〔国際協力情報〕
帰国研修員レポート
 


 平成16年度に中国から研修に来られた研修員に現在の活動について報告していただきました。事故により頸椎を損傷し、その後、障害がある人々のために自らの生きる道を切り開いていった外科医の方です。


張 栩(チョウ ズ)“車いすでの生活と夢”

 私の事を知っている人々は、四肢まひで“何かをすることが不可能”な私に過去12年間にいろいろな事が起きたことをご存知でしょう。幸運なことに私は2004年の秋に国立障害者リハビリテーションセンターを研修員として訪問する機会を得ました。私の中では、日本は清潔で美しく、人々は暖かく、礼儀正しいというイメージを持っています。国立障害者リハビリテーションセンターでの研修により、障害がある人々に対する総合的リハビリテーションについて多くの知識を得ることができ、それは中国における自分の現在の仕事に大いに役立っています。
 私は張 栩( Zhang Xu)と申します。中国の北部の鞍山(アンシャン)市に住んでいます。以前は鞍山で外科医師として仕事をしていましたが、突然の災難により運命が変わりました。1997年の5月に医療支援活動のために滞在していた中東イエメンで川に飛び込んだ際に頚椎を損傷し、完全損傷の四肢まひ状態になったのです。
 私は生きる意味を見出せなくなりました。そんな時に、日本の新潟医療福祉大学の作業療法の専門家である矢谷令子先生が私が入院していた中国リハビリテーション研究センターを訪問され、私を励ましてくれたのです。これによって私は失意から抜け出し、新しい人生のスタートを切ったのです。
 それ以降、私は両手を動かすことはできないけれど何か意味のある事をしなくてはならないと考えるようになりました。熟慮した結果、中国の障害がある人々のためにリハビリテーションについて学ぶことにしました。この夢を実現するために、矢谷先生が日本の国立障害者リハビリテーションセンターでの研修を紹介してくれました。国立障害者リハビリテーションセンターでは総合的リハビリテーションサービスの概念や最新の技術を学び、スタッフが一生懸命にまた親切に奉仕する姿勢が印象的でした。その頃、私はアメリカのサンディエゴ大学でリハビリテーションカウンセリングについて遠隔地教育プログラムによりインターネットを利用して修士の学位を取得中でした。私のような四肢まひ者にとって学習を続けることは挑戦でしたが最後までやり通しました。アメリカに3ヶ月滞在して学習をした後、リハビリテーションカウンセラーとしてのプログラムを修了しました。
 中国にはリハビリテーションカウンセラーという職種はまだありませんが、日本の国立リハセンターとアメリカのサンディエゴ大学で学んだ事を生かして鞍山で障害がある人々を支援するNGOを発足させました。
 鞍山には障害がある人がおよそ120,000人登録されています。主な障害の原因は先天性か労災・交通事故によるものです。
 世界の多くの場所と同じように、鞍山でも障害がある人々は貧困と困難の中で生活しています。労働災害の人以外は決まった収入はなく、政府からの給付金でかろうじて生きているのです。
 私達のNGOの活動内容はCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)です。リハビリテーションの支援をし、障害がある人々の声を代弁し、彼らが平等な生活を手に入れることを目的としています。私達は現在、家庭訪問、障害がある子供の学習支援、外出支援、車いすの配布の4つの活動を行っています。
 障害があるために貧困生活を送る家族への定期訪問では、彼らが愛情に触れて希望を見出せるように、何が必要で、どのような支援をすれば良いかを特定することを行います。
 訪問時は食べ物、生活必需品を持参し、必要に応じてカウンセリングも行います。
 障害がある子供達は移動の問題等により、公立学校で正規の教育を受ける機会がありません。彼らにとって読み書きを学習し、自分の障害とリハビリテーションについて学ぶことは非常に重要なので、読み書きのプログラムを実施しています。また、私達が行けない地域の子供達がTVで学習できるようにDVD教材を作成しました。現在65名の子供が年齢、障害に応じてこのプログラムを受けています。
 また、障害がある人々と海や山に行く外出支援やアメリカのNGOと協力して車いすの寄付も行っています。これまでに1,200人の人々に車いすを贈りました。
 私はこれらの活動を通じて、今の自分を誇りに思っています。これも日本や他の国々の友人の支援があったからできることです。またいつか日本を訪れ、国立障害者リハビリテーションセンターで新しいリハビリテーションの知識を学びたいと思っています。


(写真1)アメリカサンディエゴ大学の卒業式にて
アメリカサンディエゴ大学の卒業式にて
 
(写真2) 障害がある子供達との外出支援で山にでかけた時の写真
障害がある子供達との外出支援で山にでかけた時の写真