〔病院情報〕
当センターでの視能訓練士の役割
視能訓練士長 三輪 まり枝


 「視能訓練士」という国家資格を有する専門職の存在は、残念ながら一般的にはあまり知られていないかもしれません。知名度が低い原因の1つとして、視能訓練士の人数が他の専門職より少ないことも影響していると考えられます。今回は、当センターの眼科および第三機能回復訓練部で勤務している視能訓練士の役割をご紹介し、その存在を知っていただく機会にしたいと思います。

1.視能訓練士とは?
 「視能訓練士」は昭和46年に制定された視能訓練士法という法律に基づいた国家資格を有する専門職です。眼科の医師の指示のもとに視機能検査および斜視や弱視の訓練治療等に携わる人材として養成されました。養成校は専門学校から4年生大学および大学院まで全国に24校あり、視能訓練士数は約9千人となっています(平成22年1月現在)。当センターには現在、常勤の視能訓練士が3名勤務しております。
2.視能訓練士の役割
(1)視機能検査
 視能訓練士は、眼科一般診療における視機能検査を担っています。視機能検査とは、視力、視野、屈折、調節、色覚、光覚、眼圧、眼位、眼球運動、瞳孔、涙液、涙道などの検査の他に、白内障術前検査(角膜曲率半径測定、角膜内皮細胞検査、眼軸長測定検査)、超音波、電気生理学検査、眼底写真撮影など多岐にわたっています。
 視力検査には通常5メートル離れた視力表の「ランドルト環」という丸の切れ目の方向を答えることで測定しますが、自覚的応答が困難な発達遅滞を伴う乳幼児や高次脳機能障害者等には、縞視力を用いて、縞の方向に視線が動く人間の視覚の性質を利用して視力測定を行います。また、乳幼児で縞視力での測定も困難な場合には、興味のある人形やオモチャ等を視標として、遊びを通して「オモチャを目で追うことはできるか」「どの大きさのものに反応したか?」「何色に興味を持ったか?」等を観察し、視機能の状態を把握することも重要な役割です。
 また、「目を動かさずにどのくらいの範囲が見えているか?」という「視野検査」は、視野計を用いて網膜感度を測定するもので、緑内障や網膜色素変性症等の病気の診断・治療および歩行行動にも影響するために必要不可欠な検査です。
(2)斜視・弱視治療訓練および眼球運動検査
 幼少時に発症した斜視や弱視では、早期発見し適切な眼鏡を装用させることで治療が可能な場合があり、正確な状態把握が欠かせません。弱視治療では、アイパッチというシールのようなもので視力が良好な目を遮蔽して、弱視眼を主に使用させることで視力を回復させる治療法があり、視力検査や両眼視機能(両眼でひとつのものを見る機能)検査も定期的に行いながら治療訓練を行っています。また、脳梗塞などの脳血管障害後の眼球運動障害が起因である、「ものが二重に見える」等の不快な症状に対して、プリズム眼鏡等の選定を行うなど、日常生活が過ごしやすくなるようなサポートを行っています。
(3)ロービジョンケア
 当センターの視能訓練士は、上記に記した業務の他に、第三機能回復訓練部で実施している視覚障害児者へのサポートであるロービジョンクリニックにおいて、拡大鏡や遮光眼鏡等の選定・訓練を担当しています。
 拡大鏡は、レンズを用いて網膜像を拡大させるものですが、その患者さまの視機能に合った拡大鏡を選定する必要があります。特に、近視や遠視、乱視などの屈折異常の補正を充分に行ったうえで、その方のニーズに合わせて選定をすることが重要です。また、選定した拡大鏡の効果の有無を、読み速度測定での評価や、一定期間拡大鏡を貸し出し、日常生活上での使用状況等を踏まえた上で総合的に判断して選定しています。
 視覚障害児にとっては、「教科書を読む」「黒板の文字を書き写す」などの学習手段として拡大鏡は欠かせないため、可能な限り就学前より拡大鏡に親しむ機会を設け、「この道具を使うと見やすくなる!」という体験を多くできるようにサポートをしています。特に、最近流行しているカードゲームやゲーム機でお友達と一緒に遊びたいという気持には障害の有無は関係なく、教科書を読む時には拡大鏡をあまり使いたがらないお子さんがゲームの時には一生懸命拡大鏡を使ってみようとする姿には感動を覚えます。
 視覚障害児を取り巻く保護者をはじめ教育関係者(学級担任、弱視学級や盲学校等の特別支援教育関係者)との連携は重要です。視機能評価及び拡大鏡の選定時には保護者の希望があれば教育関係者にも同席してもらい、お子さんの視機能の状態を一緒に確認する機会を設ける、もしくは「連絡帳」という手段を用いて、医療関係者と保護者、教育関係者との情報共有を図っています。
3.今後の課題
 視能訓練士は視覚障害の方の視機能検査から拡大鏡選定に至るまで、その患者さまの「視覚」を活用したサポートを担う専門職です。現在は業務の一環としてロービジョンケアに携わっている視能訓練士の数が少ないため、今後は視能訓練士を対象としたロービジョンケア研修会を実施していくことが我々の責務であると考えております。
 また、より広範囲にわたる障害をお持ちの方に対して、視能訓練士としての専門性を生かした支援を他の専門職の方々と連携をとりながら今後も行っていく努力をして参りたいと思います。


(写真1)幼児視力検査の様子   (写真2)アイパッチによる弱視眼治療の様子
幼児視力検査の様子   アイパッチによる弱視眼治療の様子
 
(写真3)プリズムバーを用いた眼位検査の様子
プリズムバーを用いた眼位検査の様子
     
(写真4)拡大鏡選定の様子   (写真5)視覚障害児が拡大鏡を使用してカードゲーム
拡大鏡選定の様子   視覚障害児が拡大鏡を使用してカードゲームを見ている様子