〔国際協力情報〕
創立30周年記念
WHO指定研究協力センターセミナー
「共生社会と国際協力を考える」の開催報告
管理部企画課


 去る2月13日(土)に当センターにおいてWHO指定研究協力センターセミナーを開催いたしました。今回のセミナーは当センターの創立30周年記念事業として、障害とリハビリテーションの分野における我が国の国際協力活動を学び、今後の国際協力について考える内容といたしました。WHOの指定研究協力センターとして、現在WHOが進めている障害がある人々に関する戦略を紹介することと、我が国の近隣国として中国、韓国の取り組みも紹介していただくことといたしました。当日は約100名の方々がセミナーに参加し、会場は満員となりました。
 セミナーでは最初に2題の基調講演を行いました。1つは、WHO本部の障害とリハビリテーションチーム(DAR)の専門官であるチャパル・カスナビス氏による、障害がある人々のリハビリテーションの今後の方向性とCBRコンセプトについての講演です。チャパル氏は障害がある人々、リハビリテーションに関するこれまでの考え方の変遷についてまとめ、障害を医学的なモデルとして捉える動きと社会的モデルとして捉える動きがあり、それを統合した形で生物学的、心理・社会的に捉えたものとしてICF(国際生活機能分類)が開発されたこと、国連障害者権利条約において“リハビリテーション”が社会のあらゆる面での完全なインクルージョンと参加を達成するための方法として定義づけされていることを紹介されました。現在、CBR(コミュニティに根ざしたリハビリテーション)の概念は、障害がある人々、家族、全体のコミュニティ開発の戦略として、政策を行う側も入った”地域に根ざした包括的な開発(CBID:Community Based Inclusive Development)であると述べました。
 もう1つの基調講演は、JICAシリアCBR専門家である中村信太郎氏による、中東シリアにおけるCBRの取り組みの紹介でした。中東のイスラムの国シリアでのCBR活動は、政府の要請で複数の村を対象に始まりましたが、仕組みはシリアという国の特色を表しており、国家CBR委員会、県のCBRユニット、政権党下の村の長から婦人連盟、学童組織、開発センターといった一連の組織を軸にNGOや民間企業ともネットワークをつくり、障害がある人々自身がCBR活動のメンバーとして啓発活動を行い、コーディネーターとしても活動するようになったとの紹介がありました。一方で今後の課題として、JICAの支援が終了した後の活動の継続、政府の管理体制下での当事者団体の組織化の問題などが挙げられ、政府が地域の活動を支援する方向にもっていくことは重要であると述べました。CBR活動における日本の役割として政府ベース、NGO等の民間ベースの協力が可能であり、日本が育成に協力してきた開発途上国の人材ネットワークを構築することにより、各国の経験の相互交流と強化に結びつくと提言されました。
 この後、各分野から5人の専門家が発表を行いました。
 早稲田大学の山内 繁特任教授は、支援機器の国際標準化とアクセシブル・デザインについて紹介されました。国際標準化組織(ISO)の障害者支援機器に関して日本、当センターが関わっていること、また、日本、中国、韓国の3か国がこの分野で協力していくと決めていることを発表され、アクセシブル・デザインとは、機能的な制限がある人々に焦点を合わせ、これまでの設計をこれらの人々のニーズに合わせて拡張することで、製品、建物やサービスをそのまま利用できるようにすることを最大限に増やすように設計することであると説明されました。
 JICAシニアボランティアとしてマレーシアのペナン島で視覚障害者にマッサージ技術の支援をしている笹田三郎氏は、視覚障害のある現地の人々のマッサージ技術の向上を図る事を目的として指圧、鍼灸の技術と理論を指導するなかで、国が外国人労働者を多数受入れているため、マッサージの分野にも外国人技術者がいて、障害がある人々の職域確保が難しい等の現状を紹介されました。アジアの国々では視覚障害がある人々の仕事はマッサージが中心であり、宗教や習慣に大きな違いがある中での支援を通して現地の障害がある人々の技術向上を図ることにより、生きる力をつけていくことの支援を行っています。
 作業療法士として人材育成とJICA青年海外協力隊の技術顧問として各国での専門職の活動を指導する立場の冨岡詔子氏は、日本における作業療法士、作業療法士の育成の歴史を紹介し、国際協力の中で人材を養成したら専門職として収入につながる場を創らなければ定着していかないこと、国際協力が相手国でどのように総合的に開花するかの視点をもって支援を見直すことが必要であると述べられました。
 隣国として設立時から協力してきた中国リハビリテーション研究センターの董 浩(ドン・ハオ)副センター長は、これまでの日中間の協力関係を紹介され、現在進行中の地方都市での遠隔地教育支援の紹介、中国リハビリテーション研究センターが欧米諸国とも協力を行っていること、人材育成が今後の国際協力の中心になるであろうと述べられました。
 韓国国立リハビリテーションセンターのHur Yong(ハー・ヨン)センター長は韓国の障害がある人々の状況、施策の説明とリハビリテーションセンターの活動理念を紹介し、国内で行っているCBRのプロジェクトを開発途上国にも展開すること、他国のリハビリテーションセンター設立の支援を行っていること、今後は研究活動においても他国と交流を行って行くことを述べました。
 JICAで障害がある人々の支援を担当している人間開発部の田和美代子社会保障課長からは、民族、宗教、性別、障害に関わりなく全ての人々が自分達の問題を認識し、解決する取り組みの支援をJICAは行っていることと、障害当事者が自ら考え実施する事の大切さ、成果の継続性と自立発展性をどう確保するかが課題であると述べられました。
 最後にパネリスト6人によるディスカッションと会場からの質疑応答を行い、これからの国際協力において、インターネットを利用した情報共有、障害当事者自身が参加すること、その家族と地域住民への情報・知識の提供と合意による参加が共生社会実現のために重要な視点であることが議論されました。
 今回のセミナーでは専門家が中心となり発表や議論を行いましたが、最後にまとめたように、障害分野における国際協力においては、障害当事者が生きる力をつけ、自ら参加する事が重要です。それを実現するために、我が国、当センターがどのような取り組みをしていけば良いか考えていきたいと思います。
 最後に講師の招聘にご協力いただいた日本障害者リハビリテーション協会とセミナーの開催にご協力、参加いただいた皆様にお礼を申し上げます。 



(写真)セミナー開催の様子
 

〔プログラム〕
10時30分 開会挨拶 岩谷 力(国立障害者リハビリテーションセンター総長)
10時40分〜12時 基調講演
  「障害がある人々のリハビリテーションの今後の方向性とCBRコンセプト」
    Chapal Khasnabis WHO DARテクニカルオフィサー
  「シリアにおけるCBRの展開」
    中村 信太郎 JICAシリアCBR専門家
13時5分〜14時25分 発表
  「国際標準化とアクセシブルデザイン」
    山内 繁 早稲田大学人間科学学術院特任教授
  「マレーシア、視覚障害者へのマッサージ技術支援と鍼灸課程創設支援」
    笹田 三郎 JICAシニアボランティア
  「リハ専門家養成と国際協力」
    冨岡 詔子 JICA青年海外協力隊技術顧問
           佛教大学保健医療技術学部作業療法学科教授 
  「中国リハビリテーション研究センター設立から現在の日中の協力」
    董 浩 中国リハビリテーション研究センター副センター長
  「リハビリテーションサービスと研究における国際協力の計画」
    Hur Yong 韓国リハビリテーションセンター長
14時35分〜16時10分 ディスカッション、質疑応答
    田和 美和子 JICA人間開発部社会保障課長、他
16時15分 閉会挨拶 江藤 文夫(国立障害リハビリテーションセンター更生訓練所長)