〔平成22年度重点事項② 部門間連携事業〕
高次脳機能障害支援普及事業及び
関連事業について
 



 高次脳機能障害をもつ者への支援を一般事業として全国で実施するために、厚生労働省は平成18年度から高次脳機能障害支援普及事業を開始した。この事業は障害者自立支援法に基く地域生活支援事業の一部を構成し、高次脳機能障害者に向けた適切な支援を提供する体制の整備を意図し、各都道府県に支援拠点機関を置き、そこに支援コーディネーターを配置することを内容の中心に置いている。支援拠点機関とは専門的な相談支援の窓口をもち、関係諸機関との地域支援ネットワークを通じて当該障害者に医療から福祉までの連続したケアを提供するためのセンターである。このような事業が、何よりもまず、国リハが主体的に運用した高次脳機能障害支援モデル普及事業(平成13から17年度)の一般事業化(全国展開)であることを思えば、当センターが最も多くのノウハウを蓄積した事業である。
 本事業で国リハは、全国高次脳機能障害支援普及拠点センターとなり、北海道、東北、関東甲信越、東京、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州・沖縄の全国10地域のブロックを代表する支援拠点機関と連携し、46都道府県(平成22年4月時点)に設置された支援拠点機関と協議を重ねた上で地域ごとの課題解決に向けて活動している。さらに国リハは、高次脳機能障害者支援の効率的実施と支援実態の均霑化を図るため、都道府県ならびに支援拠点機関等の関係者、専門職員、学識経験者等で構成する高次脳機能障害支援普及全国連絡協議会を年2度開催している。この協議会では、これまでの事業進捗の確認ばかりでなく、新規取り組みについて提案し、協議することにより、社会のニーズに応える運用の具現化を旨としている。特に、最近の連絡協議会では、中等学校年齢層にある高次脳機能障害者の学校復帰を事業内容に加えることを申し合わせることにより、全国に7千名とも8千名とも言われる若年層の高次脳機能障害者の支援に端緒を付けた。さらには支援コーディネーター全国会議を2度開催することにより、都道府県ごとの人的ネットワークの観点から、事業の一層の推進と均霑化を図っている。その他、障害年金申請診断書の指定医改定、障害者手帳申請書式改訂、診療報酬改定作業などについて主導的な役割を果たした。
 国リハはこのような全国を視野に入れた事業推進に合わせて、センター内各部門で関連事業を推進している。病院では専門外来の充実、家族会の開催並びに高次脳機能評価入院を実施するとともに治療の長期評価を試みようとしている。自立支援局では自立訓練(生活訓練)の枠を拡大するとともに、実践を通じて体系化した評価・訓練を世に問う段階にまで高めた。研究所では、認知障害者向けの福祉機器開発を進めている。学院は都道府県・指定都市の行政職及び関係職種の指導者向けの研修事業を実施している。これらは近年一層の拡充を見ているところである。
 向後、障がい者制度改革推進本部の指針に沿って、厚生労働省に諮りながら、高次脳機能障害支援普及事業を進めるとともに、社会のニーズの変化や法令の改定などに際して、すべからく当該障害者に必要な施策のあり方について提言を行うことは、国の機関としての国リハの重要な任務である。

(中島八十一)