〔平成22年度重点事項② 部門間連携事業〕
青年期発達障害者の地域生活移行への
就労支援に関するモデル事業について
 



1. はじめに
 厚生労働省が現在推進する発達障害者支援施策は次の5つの大きな方針からなる。1.地域支援体制の確立、2.支援手法の開発、3.就労支援の推進、4.人材の育成、5.情報提供・普及啓発である。当センターではこのうち「支援手法の開発」として、青年期発達障害者の地域生活移行への就労支援に関するモデル事業を担い、「情報提供・普及啓発」として、発達障害情報センターが位置づけられている。
 当センターにおける発達障害に関する事業および研究は、図1に示すように平成19年度に厚生労働科学研究よりはじまり、以後一貫して自立支援局(旧更生訓練所)、研究所、病院が密接に連携して進めている。
 青年期発達障害者の地域生活移行への就労支援に関するモデル事業では、青年期の発達障害者を対象に、病院発達障害診療室にて診断、評価をし、自立支援局において自立訓練・就労移行支援を行い、その後就労あるいは国立職業リハビリテーションセンターや地域の就業・生活支援センター等支援機関により就労・就労継続支援の試行的実践を行うことにより、支援実態の調査・研究を行う。その成果により青年期の発達障害者が、発達障害者支援センターから医療サービス、福祉サービス、雇用支援サービスを居住地域で連続的に受けるための支援体制構築を図ることを目標としている。

(図1)国リハセンターと発達障害


2. 平成20,21年度事業内容
 当モデル事業の目標は、青年期というライフステージに適した発達障害者の地域生活移行を円滑に行うための支援体制(地域モデル)および福祉サービスにおける支援手法の開発である。初年度である20年度はリハセンター内の体制を整備する間、国立秩父学園発達診療所をモデル事業のリクルート窓口とした。
 地域モデルである所沢モデルの構築と運用:発達障害者支援センター(埼玉県まほろば)、医療機関(センター病院発達障害診療室)、自立支援法指定障害者支援施設(センター自立支援局)、雇用支援機関(国立職業リハビリテーションセンター)、に地域機関として埼玉県内の就業・生活支援センター、ハローワークを加え、個別事例について連携を確立した。この所沢モデルを運用し、12例の応募者(うち7例が発達障害疑いでエントリーし、未診断)を発達障害診療室にて受け、診断と評価をした。うち3例はモデル事業対象外とし、9例に対し自立支援局において自立訓練・就労移行支援を行った。
 青年期発達障害者の福祉サービスにおける支援手法の開発
  診断および福祉サービス介入に関する評価に必要なアセスメントの検討:発達障害が疑われるが未診断の成人を医療機関と発達障害者支援センターが連携し情報を合理的に収集するために、専門家による保護者への聴取による広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(PARS),保護者への記述式調査による対人応答尺度(SRSは4から18才対象 成人対象 SRS-Adult),本人用記述式スクリーニングである高機能自閉症スペクトラム指数(AQ-J)を用いている。また診断に必要な診察およびアセスメントとしてDSM-Ⅳシート、精神医学的所見、神経学的所見、神経心理学的所見、WAIS、画像・脳波・血液検査を診療の範疇として整理し、診療システムとして整えた。自立支援局における介入前には日常生活活動評価表、就職レディネス・チェックリスト、就労移行支援のためのチェックリストを施行している。介入前後にはSRS-A、自己概念測定尺度、WHO-QOLなどを用いて、介入効果について検討している。
  自立訓練、就労移行支援に必要な介入手法の開発:上記アセスメントにより個別支援計画を作成し、自立支援局にて介入を行い、定期的に自立支援局、発達障害診療室、発達障害者支援センター、職リハ、地域機関による合同カンファランスを開催し、個別に詳細な検討を行っている。モデル事業参加者はほとんどがひきこもり状態で就労経験がないかあっても離職を反復している。こういった群に自立訓練、就労移行支援は有効で、日常生活リズムの是正、対人動機の改善、とくに具体的イメージの持てなかった就労について動機を持つことができた。21年度までに修了した7名の帰結は大学進学1名、職リハ経由就職1名、当センターから直接就職2名、就職活動継続2名、精神科治療のため中止1名である。

3. 今後の計画
 モデル事業最終年度となる今年は自立支援局にて事業参加者の支援を継続するとともに、詳細な事例検討を通じて、自立訓練、就労移行支援という福祉サービスを用いての発達障害成人への支援手法についてガイドブックを作成したいと考えている。これまでも発達障害者について自立支援法に基づく福祉サービスの対象であることが厚労省より通知されているが、実際には制度はあっても支援サービスはないのが実情である。その一つのモデルとなるべく報告をまとめたい。上述した通り19年度にモデル事業のリクルート窓口として協力を得た国立秩父学園が、今年度よりリハセンター組織に統合された。今後秩父学園との連携を更に密とし、発達障害者の新たな支援についても検討していきたいと考えている。
(深津 玲子)