〔特集〜地域の中の国リハセンター(3)〕
①地域に根ざした職場体験実習
― 所沢市内の農家直営販売店の協力を得て ―
理療教育・就労支援部 就労移行支援課


 今年度から当センター近隣にある農家の直営販売店の協力により、複数の利用者に職場体験実習(以下、「地域での実習」)の機会を設けていただいたので報告いたします。地域での実習は、試行を平成22年2月に2日間(2名)実施した後、5月に4日間(2名)、7月に4日間(3名)、9月に4日間(2名)、11月に4日間(2名)、平成23年1月に4日間(3名)と年間を通して実施してきました。季節ごとに所沢の農家の朝取り野菜もかわり、利用者ともども職員も様々な体験をさせていただきました。


(写真)大売出しの旗

1.実習風景
 利用者は、初めてのセンター外の実習に不安を抱えつつも、どこか挑戦者といった逞しさを感じさせます。実習先では、お客様に対して「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」とセンター訓練では見られないほど元気に挨拶をします。そして、1日の実習が終わり、センターに帰ってきた時は、疲労の色はあるものの充実した顔をしているように見えます。
 地域での実習の様子のいくつかをご紹介いたします。

(写真)雨の中の通勤
①通勤
 当センター東棟玄関からお店までは約1キロメートルあります。
 路面状況は見た目以上に起伏があり、歩行スピードが上がらず苦労をします。
 雨が降るときは水たまりを避けたりと大変です。
 写真は、傘をさして左手と左足で車椅子を操作している様子です。
 
(写真)商品の準備(計量・袋いれ)
②商品の準備(計量・袋いれ)
 写真は、ごぼうを計量してビニール袋に入れテープで結束して閉じています。
 左腕だけで作業が出来るように、雨どいの先を丸く加工した補助具を量りの上にのせ、計量後ビニール袋にごぼうを滑らせて入れています。
 
(写真)店舗内外の清掃
③店舗内外の清掃
 清掃は、店舗作業の基本です。箒でゴミ集め、モップかけ、窓拭き、落ち葉掃きなどをします。
 写真は、右片マヒの利用者が店舗内の掃き掃除をしているところです。
 自分の出来る範囲で、精一杯お客様を迎える準備をしています。
 
(写真)会計
④会計
 最も緊張するのが会計です。「いらっしゃいませ。合計で350円になります。1000円をお預かりいたします。650円のお返しとなります。ありがとうございました。」のやり取りもまだぎこちなく、この時間がなんと長く感じられることでしょう。
 写真は、片手作業でレジ打ちとおつりを確認して渡しているところです。

2.地域での実習の特徴
 これまでセンター利用者の実習を計画する場合、仕事をすることの自覚や職場のルールの理解、通勤能力、一定の作業能力といったことを実習先から求められること、また、特に車いす利用者は段差や身障トイレの有無といった職場の環境も整っていることが必要なため対象者が限られていました。
 地域での実習は、これまでより多くの利用者が職場体験実習ができるようになりました。以下の5つの特徴によるものと考えています。
 一つ目は、「当センターに近い」
 センター近隣での実習のため職員が出向きやすく、実習先に利用者の障害状況や対応方法などを細やかに支援できます。実習先からの相談に対しても迅速に対応できることで実習先も安心して受け入れることが出来ます。また、実習状況が確認しやすいために、利用者に実習結果を的確に説明することが出来ます。さらに、長距離の移動が困難な利用者に対しても職員が同行し安全確認することで移動の危険性が回避されます。
 二つ目は、「仕事の切り出しが豊富で環境が整っている」
 店舗内外の掃除・野菜の不要部分の取り除き・整形・ビニール袋入れ・値札付け・陳列・会計等といった仕事の中から、利用者の作業能力や障害状況に合わせた選択がしやすいことがあります。また、作業を補助する道具の利用や、作業台の高さの調整といった作業遂行のための工夫にも協力いただいています。身障者用トイレが隣接の施設内にあることも車いす利用者の実習を可能としています。
 三つ目は、「センターを出ることで体験できないことができる」
 通勤が体験できることも大切です。対向してくる歩行者や自転車、水溜りの回避や路面のでこぼこ、秋には大量の落ち葉の滑りやすさといったことへの対応が必要です。雨天時には晴天時以上に移動の能力が問われます。
 また、夏の暑さ、冬の寒さの中1日過ごすことで体力や集中力などの耐久力を確認出来ます。地域のお客様と直接対話し、実際の商品を扱い販売しお金のやり取りをするという仕事を通して、自分の課題を確認し働くことの意義を考えていくことが出来ます。そして、何よりもお客様からの「ありがとうがんばって」という言葉に仕事をする勇気を与えられます。
 四つ目は、「定期的な実施で実習先の様子が把握しやすい」
 年間を通じて定期的に実施の機会をいただいています。実習先の農家の方々やお店の担当者をはじめ実習環境がわかっており、次回の実習準備が計画的に行えます。安心して多くの利用者に実習の機会を提供できます。また、春はほうれん草、夏はとうもろこし・枝豆と、季節に応じて所沢の生産者の主力商品が代わることも実習内容にバリエーションを与えて仕事をおもしろくしています。
 五つ目は、「地域住民と利用者とのふれあい」
 買い物客のほとんどは、センター近隣に長く住む方々です。その方々から「センターってどんなところ。何をやっているの。」「障害者ってどんな人」「えっ働くの」といった声を聞くことがあります。この地域での実習により、少しでも近隣の方たちが当センターと障害のある方の就労への理解が進み、センターを身近に感じていただきたいと思います。
 最後に、この様な取り組みをさせていただける地域の事業所を増やしていかなければと考えています。今後も地域との連携を大切にして、当センターの就労に対する支援のご理解を深めていただけるように努力して参ります。(文/近藤和弘)