〔国際協力情報〕
国際セミナー「障害者のQOL向上のためのオーファン・プロダクツ
−アジアにおける研究開発、適合の現況とこれから−」 開催報告
管理部企画課


 去る2月19日(土曜日)に当センターにおいて国際セミナーを開催いたしましたので報告いたします。当センターは障害の予防とリハビリテーションに関するWHO指定研究協力センターの活動として毎年、国際セミナーを開催しています。
 今回は、福祉機器開発を大きなテーマとし、特に"オーファン・プロダクツ"に焦点を当てました。"オーファン・プロダクツ"とは、特定の障害によってのみ使われ使用者が少ないため、市場規模が小さく、一方で調整と適合が必須である特徴を持つ福祉機器を指します。
 セミナーでは、障害がある人々の個々の身体特性や生活環境に合わせQOLの向上につながる福祉機器の開発について、日本の研究開発者、リハビリテーションの現場を担う専門家、福祉機器の使用者として障害当事者、行政官、更に中国と韓国から研究開発者を招き、各分野の発表と討論を行いました。
 当日の午前には日中韓のリハビリテーションセンター間で協力協定を締結しましたので、協力の最初の活動としての意味もあり、両センターのセンター長の挨拶もありました。セミナーの参加者は約110名で、福祉機器関連分野の方々や障害当事者の方々に多数来場していただきました。
 ここに8名の講演者の発表の要旨をご紹介します。
 福祉機器開発の専門家でもある諏訪 基氏は、オーファン・プロダクツと、全ての人々に対して適合するデザインとしてのユニバーサルデザインの概念の紹介、日本における福祉機器の研究開発に関する公的資金の現状、技術開発から臨床評価、適合までの過程での問題点などを紹介しました。
 韓国国立リハビリテーションセンターの研究員であるLim Myungjoon(リム ミュンギュン)氏は、研究所で実施しているオーファン・プロダクツ開発の事例を紹介しました。
 中国リハビリテーション研究センターの義肢装具士の王 林氏は、中国における義肢装具の発展の歴史と義肢装具士の教育の現状、義肢の実際の事例を紹介しました。
 全国頸髄損傷者連絡会の麸澤 孝氏はご自身が使用している電動車いすを例に挙げ、使用者に合った車いすを入手することにより生活が広がり、使用者自身が自分の行動を決めることができるようになることと、障害がある人が自分に合った機器について相談できる機関、人が大切であると発表されました。
 当センター研究所福祉機器開発部の廣瀬 秀行室長は、座位保持装置(車いす、クッション等)の重要性と開発、国際標準化機構における規格の紹介と開発の事例について紹介しました。
 同じく、病院の岩ア 洋副理学療法士長は、障害がある個々人の状態に合わせた車いすの座位姿勢の保持のためのシーティング・クリニックについて、当センターでの実際の取り組みと使用者の生活環境の中で適合することの重要性について発表しました。
 研究所福祉機器開発部の井上 剛伸部長は認知機能に障害がある方々の支援機器について、高次脳機能障害と認知症を例に実際の支援機器がどのように使用されているか紹介し、認知機能障害の場合、開発者は使用者が生活する中に入りニーズを把握すると述べました。
 厚生労働省障害保健福祉部の小野 栄一福祉工学専門官は、現在推進している活動として、医療専門職、開発者、使用者の声を直接聞く福祉機器の開発促進事業について発表し、実際に開発プロジェクトとして公募されたものの事例も紹介しました。
 最後に8名の講演者による総合討論と会場の参加者との質疑応答が行われました。オーファン・プロダクツの重要な要素である"適合"に対する対価づけがされていないという問題点、開発資金を得るためには政府に根拠を示さなくてはならない、開発について使用者や社会に情報が提供されていない等の指摘がありました。この分野における日中韓の協力については、アジアの中で共通する文化を有する3か国が福祉機器の開発において協力できるという意見が出されました。会場の参加者からも厚生労働省と国立機関である当センターに対して、福祉機器に関する国際支援への協力や技術開発の中心の役割を担って欲しいといった積極的な意見が出されました。
 今回は講演者の他に参加者として開発研究従事者、使用者としての障害当事者の方々を多数お迎えしてのセミナーとなり、多数の質問や意見が出されました。これらの参加者の皆さんが非常に熱意を持ってこの分野に関わっていることが感じられ、当センターが研究開発に果たすべき役割、日中韓の協力が可能な分野であることを皆で考える機会になったと思います。
 また、参加者の皆さんにアンケートにてご意見をいただきましたが、福祉機器開発の重要性、アジアにおける日中韓の協力への期待に加え、当センターに対して地域資源との協力の示唆等、有益なご意見をいただくことができました。
 本セミナーにご協力、ご参加いただいた皆様に感謝し、報告とさせていただきます。

(写真)総合討論の様子
総合討論の様子



セミナープログラム
開会挨拶 岩谷 力 国立障害者リハビリテーションセンター総長
挨拶 李 建軍 中国リハビリテーション研究センター長
  Yong Hur 韓国国立リハビリテーションセンター長
     
発表    
1. オーファン・プロダクツ−その概念とこれまでの取り組み−
  諏訪 基 国立障害者リハビリテーションセンター研究所顧問
2. 韓国におけるオーファン・プロダクツの開発と適合
  Myungjoon Lim 韓国国立リハビリテーションセンター研究員
3. 中国における義肢装具の発展と現状
  王 林 中国リハビリテーション研究センター義肢装具士
4. QOLの向上に役立つオーファン・プロダクツ
  麸澤 孝 全国頸髄損傷者連絡会
5. 車いす・座位保持装置の規格・評価の現状と今後
  廣瀬秀行 国立障害者リハビリテーションセンター福祉機器開発部室長
6. シーティング・クリニック
  岩ア 洋 国立障害者リハビリテーションセンター副理学療法士長
7. 認知機能障害に対する支援機器の研究開発
  井上剛伸 国立障害者リハビリテーションセンター福祉機器開発部長
8. 福祉機器研究開発と普及促進
  小野栄一 厚生労働省障害保健福祉部企画課福祉工学専門官
     
総合討論、会場との質疑応答
     
閉会挨拶 江藤文夫 国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局長