〔国際協力情報〕
帰国研修員レポート
管理部企画課


 今回は、平成4年(1992年)に(社福)清水基金の海外研修員として当センターで研修を行ったタイのエカチャイ チュラチャリッタさんの報告です。

 エカチャイ氏は医師であり、タイの医療リハビリテーションの中心的役割を担う国立医療リハビリテーションセンターのセンター長として、その創設期に日本で研修を行いました。退官後も様々なところでリハビリテーションに関する指導、アドバイスを行い活躍されています。


エカチャイ氏

Dr. Ehachai Chulacharitta (エカチャイ チュラチャリッタ)タイ
−シリントン国立医療リハビリテーションセンターの活動について−


私は1992年の5月から約2ヶ月間、清水基金の研修員として、国立身体障害者リハビリテーションセンターのアレンジにより、日本の総合リハビリテーションサービスについて研修を行いました。当時、私はシリントン国立医療リハビリテーションセンター(以下、シリントンリハビリテーションセンター)のセンター長を務めており、退官後の現在も講師として指導を行っていますので、このセンターの活動について報告します。

 シリントンリハビリテーションセンターは、タイ公衆衛生省の医療サービス部門のセンターとして、タイ王室のマハ・チャクリ・シリントン王女の支援のもとに1990年に設立されました。

 建設にあたり、当時の日本の国立身体障害者リハビリテーションセンターの津山直一総長とタイのケオカーン中将(医師)のアドバイスを受けました。また、松井亮輔氏による総合リハビリテーションを視野に入れたサポートも受けました。当時、日本の総合リハビリテーションは世界で最も進んでおり、日本での研修で得た情報や知識を156ページの報告と274枚の写真の報告書としてまとめ、シリントンリハビリテーションセンターの図書館に保管しています。これらの情報は建物の建設、研究開発、訓練、サービス等様々な活動の参考となりました。日本から帰国して数年後にはセンターの75%の建設が終了し、外来と病棟での医療リハビリテーションを開始しました。

 シリントンリハビリテーションセンターの目的は、真の国立医療リハビリテーションセンターとしての役割を担うことで、第3次リハビリテーション施設(先進的、専門的なリハビリテーションを行う施設で、広域を対象とする)として理学療法、作業療法、言語訓練、義肢装具製作、教育・訓練、紹介、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)等を提供することです。そのために、今日まで多くの日本のリハビリテーション機関の協力を得ています。

 昨年度(2010年度)の活動実績は以下のとおりです。

  1. 職員数:250人
  2. サービス:外来患者数 94,510人、入院患者数 329人
  3. 他機関からの紹介:国立センターとして長期ケア、特別なケアが必要な患者さんが紹介されてくる
  4. 第3次ケア:予算と職員は政府により供給され、研究開発も進み、第3次リハ施設として活動しています。
  5. 地域に根ざしたリハビリテーション(CBR):CBRチームは地域で利用できる様々なマニュアルを作成し、広く国内でも保健従事者、ボランティア、障害がある人々とその家族が使用しています。
  6. 地方での巡回義肢装具サービスとリハビリテーションサービス:昨年度は5つの県で7,266人の障害がある人々がこのサービスを受けました。 特に義肢については、他の巡回義肢製作の団体のメンバーにボランティアとして協力してもらいました。
  7. 義肢装具の教育施設:マヒドン大学医学部との協力により学士レベルの義肢装具の教育施設を運営しています。澤村誠志先生と田澤英二先生の協力により、タイの義肢装具士が国際義肢装具学会(ISPO)の基準を認められるようになりました。現在では多くの短期研修コースも実施しており、リフレッシュコースや最新技術のコースもあり、他国の研修員も受け入れています。澤村先生の協力もあり、シリントンリハビリテーションセンターと兵庫県総合リハビリテーションセンターは、リハビリテーションの人材開発についての協力を行う兄弟施設の関係にあります。また、2006年には医学的リハビリテーションと義肢装具の教育に関するWHO指定研究協力センターとして認定されました。
  8. 研究開発センター:医学的リハビリテーションの前進のために、研究開発の報告は毎年公表されています。
  9. 医学的リハビリテーションの研修センター:リハビリテーション看護師のための長期、短期の研修コースを実施しています。 短期研修会は年に3回、タイ全土から毎回80名の看護師が参加して実施されます。その他にも理学療法や作業療法をはじめとするリハビリテーションの学生を対象とした研修コースを実施しています。
  10. 医学的リハビリテーションに関するメディアの作成:医学的リハビリテーションに関する多くの冊子を毎年作成しています。
  11. 情報提供の役割とネットワーク:2010年には約850名がセンターを見学に訪れ、タイ国内外の関係機関とネットワークを持ち、共同研究を行っています。
  12. 医学的リハビリテーション法に関わるセンター:医学的リハビリテーション法の下、タイ全土を対象とした医療サービスを提供する機関と障害がある人々のためのリハビリテーションに関する予算を確保する責任を持っています。

 以上、シリントンリハビリテーションセンターの現在の活動を紹介しましたが、ここまでの活動に至ることができたのは、私以外にも何人ものセンターの職員が日本の総合リハビリテーションについて研修させてもらった成果だと思います。

 この場を借りて、私に日本での研修の機会をくれた清水基金、津山直一氏、松井亮輔氏、そして私を暖かく迎えてくださった国立障害者リハビリテーションセンターの皆さんにお礼を言いたいと思います。日本の総合リハビリテーションチームがタイの障害がある人々のリハビリテーションを更に向上させるために今後も新しい知識や技術で我々をサポートしてくれることを望みます。

シリントン
シリントン国立医療リハビリテーションセンター本館