〔研究所情報〕
福祉工学カフェの開催について
〜実用性の高い福祉機器の開発・普及を目指して〜
研究所  障害工学研究部  小野 栄一


●福祉機器の開発のきっかけ
 今、手元に本が見当たらないので、うろ覚えだがトランジスタラジオを世界で2番目に商品化したソニー創業者の井深大さんが、鍼灸かマッサージを受けていたときに隣にいた目の不自由な人だったか、目の不自由な施術者だったかに、何かソニーにしてほしいことがあるかと聞いたら、テレビが聞けるラジオがほしいと言われ、早速テレビが聞けるラジオを開発、販売したとある本で読んだことがあります。

 三菱電機は番組表などをしゃべるテレビを販売しています。もともと目の不自由な人との意見交換がきっかけで、開発・製品化したそうです1)

 テレビやエアコンなどをリモコンで操作することは、今日当たり前になっていますが、約40年前にそもそも手足の不自由な人が自立して生活するために機器操作を容易にする手段として別府にある社会福祉法人「太陽の家」の「重度障害者のための実験住宅 テトラエース」にて使われたモノが最初です2)

 他にも障害当事者の声をもとに開発されたモノはあり、障害のある方々の自立支援や生活支援に工学技術を適切に活用することで、より自立した生活を営みやすくなります。場合によっては、支援する福祉機器の存在が自立生活には不可欠です。


●実用的な福祉機器開発に関わる情報交流を促進
 こうした福祉機器を開発するためには、企業や研究者など開発者側がユーザである障害者の特性や生活環境などを深く理解し、そのニーズを正しく把握することが重要です。また、正しく把握できたとしても、実用性高いモノにするには、ユーザによる評価を含め、一般に時間がかかります。しかし、日常において開発者側とユーザが交流できる機会は限られており、福祉機器開発にユーザのニーズが十分に反映されているとは言い難い状況が続いています。 ユーザにとっても、開発者側に要望を届けられる機会は少ないのが実情です。またユーザ側も工学技術の一端を知ることで、より具体的なイメージで様々な提案がしやすくなると思います。

 こうしたことから、今回、ユーザに福祉機器の技術や開発状況を知っていただき、ユーザと開発者及び関係者が意見交換を行うこと等により、より良い福祉機器開発につながる機会を増やすことを目的として「福祉工学カフェ」を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO;通称、ネド)と共催で開催しており、実行委員として、厚生労働省障害保健福祉部の福祉工学専門官にご協力を願っています。

 カフェにおいてはユーザと開発者、福祉機器にご関心のある方が 一堂に会し、身近なニーズから福祉機器開発のあるべき姿まで、幅広い話題について議論を深めて、実用性の高い福祉機器開発に向けた一助としていく予定です。第6回までのテーマは、以下のようになっています。詳細は、福祉工学カフェのウエブサイト3)をご参照ください。

第1回 移動および機器操作関連
第2回 視覚障害者支援関連
第3回 聴覚障害者支援関連
第4回 先端技術の福祉応用
〜当事者関与の重要性と困難さ〜
第5回 震災と福祉機器
第6回 ロボット技術応用

 第5回までの参加者を数えると図1のようになります。

図1 福祉工学カフェ参加者の立場内訳 研究・開発96人(46%)、当事者41人(20%)、行政18人(9%)、医療3人(1%)、介護福祉2人(1%) (第1回から第5回ののべ人数、総数208人)
図1 福祉工学カフェ参加者の立場内訳(第1回から第5回ののべ人数、総数208人)

●新たな試み、ゲストMCを随時募集
 福祉工学カフェでは、カフェのテーマを設定する「ゲストMC」(=参加者で開催テーマを提案し、提案テーマの議事に関わる人、MC;Master of Ceremonyの略)を募集しています。 従来は,カフェのテーマは実行委員会が独自に設定していました。ゲストMC制を導入することで、障害当事者や企業開発者がより主体的にカフェの運営に関わることができると考えます。講師の依頼やスケジュール調整といった面倒な事務手続きは従来通り実行委員会が行い、参加者が負担を気にすることなくゲストMCに立候補できるように配慮しています。

 具体的な進め方は福祉工学カフェのウエブサイトにあります(図2参照)。

図2 ゲストMC制の概要 1,ユーザ側から福祉工学カフェ実行委員会にゲストMC応募 2,福祉工学カフェ実行委員会・ユーザ側双方でテーマを設定 3,福祉工学カフェ実行委員会が講師候補を検討 4,福祉工学カフェ実行委員会がユーザ側に講師候補を打診 5,福祉工学カフェ実行委員会が研究・開発者側に講師を依頼 6,研究・開発者、ユーザが福祉工学カフェに参加 福祉工学カフェ参加者としては障害当事者、研究・開発者、医療福祉関係者、行政関係者、関心ある方々などがある
図2 ゲストMC制の概要

●福祉機器の研究開発促進に関連して
 国立障害者リハビリテーションセンターでは、様々な支援、情報発信を行っています4)
 情報交流の場として研究所では、一般に向け、国際福祉機器展(10月)、国際ロボット展(11月)、研究所オープンハウス(12月)などを行っています。
 福祉工学カフェは、その中でも、当事者が企画に参加できる事業です。その結果は、厚生労働省の今後の支援機器等研究開発事業の参考となる場合があります5)

 ご関心ある方々のご意見、ご要望等をお待ちしています。

     福祉工学カフェの問い合わせ先
E-mail: ATcafe@rehab.go.jp
TEL: 04-2995-3100 内線 7287 or 2522 (硯川)
FAX: 04-2995-3132



 ※参考URL
1) 視覚障がい者に便利な生活情報【三菱電機 しゃべるテレビの歴史】
http://www.wistariabook.jp/weblog/2010/02/real_mzw300.html
2) 太陽の家「重度障害者のための実験住宅 テトラエース」
http://www.taiyonoie.or.jp/09_information/information_0301.html
3) 福祉工学カフェ
http://www.rehab.go.jp/ri/event/at_cafe2010/top.html
4) 国立障害者リハビリテーションセンター
http://www.rehab.go.jp/index.html
5) 「厚生労働」自立支援機器の有効性と開発促進について(引用先の図3参照)
http://www.chuohoki.co.jp/products/magazines/kouseiroudou/pdf/kousei1106.pdf