〔特集〕
福祉機器の研究開発(3/3)
研究所福祉機器開発部

6.福祉機器臨床評価のためのライフログシステム(硯川)

 福祉機器はその高度化・情報化が進む一方で、症状や残存機能が一様でない障害者・高齢者をターゲットユーザとするため、「安全・安心」を設計・評価することが極めて難しく、統一的なアプローチが存在しないという問題が存在します。そこで筆者は、福祉機器開発の各プロセスにおける様々な評価情報の長期的な収集・蓄積と、その統合的な処理・解釈を支援することで、機器の安全設計・評価を促進するための評価支援手法を構築しています。
 評価試験を実生活環境において長期間連続的に実施するためには、様々な開発機器に柔軟に実装できるライフログプラットフォームが有用です。筆者はその前段として、ジョイスティック形の電動車椅子に機種を問わず実装可能な、スマートフォンを基盤としたライフログシステムWELL-SphERE(Wheelchair EverydayLifeLog with Smartphone Based Electronic Recording Equipment)を開発しました。操作状態や位置、路面の状況などを実生活環境からダイレクトに計測・蓄積でき、実環境評価への応用を期待できます。図7には、国リハ内を電動車椅子で走行した際の衝撃力(上下方向の加速度)をGPSの位置情報に基づいて航空写真上に表示したものを示します。様々な走行データを位置情報を含めて分析することで、バリアフリーマップの作成なども可能になります。
 同システムは、臨床現場での実用性と汎用性を考慮し、様々なセンサユニットを対象機器に完全後付けで実装できる仕様としたため、電動車椅子以外にも様々な機器の評価に使用できます。例えば、ハンドル型電動車椅子(セニアカー)にも実装でき、ハンドルの操作ログを記録できることを確認したほか、においセンサと組み合わせて病院内での消臭剤の臨床評価にも使用しています。今後も、実環境での定量的データの取得をより容易にすることを目指し、システムの使い勝手を高めていく予定です。
図7:航空写真(Googleマップ)上にプロットされた衝撃加速度
図7:航空写真(Googleマップ)上にプロットされた衝撃加速度

7.国際福祉機器展(伊藤)

 9月18日(水)〜20日(金)の3日間、東京国際ビッグサイトで開催された第40回国際福祉機器展に今年も出展しました。出展内容は「車椅子、安全に快適に気楽におしゃれに」をテーマに、以下の内容の展示を行いました。
介助用車椅子のキャスターアップ時の強度計測(福祉機器開発部)…外出頻度の高い方の介助用車椅子の背フレームはキャスターアップを繰り返すことで破損が多く、キャスターアップ時の背フレームへの負荷はJISやISOの試験負荷よりも大きいことがわかりました。介助者が操作し外出頻度が高い車椅子は強度を上げる必要があると同時に、規格への新たな提案が必要となります。
車椅子クッションやおむつのぬれ消散機能の測定(福祉機器開発部)…座る時間が長い車椅子ユーザのクッションはどの程度蒸れているのでしょうか。発汗によるクッションのぬれの状態は褥瘡やすわり心地に関係します。車椅子クッションのぬれ消散機能が測定できる装置の開発によりクッションの評価が可能になりました。応用として、おむつのぬれ測定としても使用できることがわかりました。
障害児者の自動車上での安全を目指して(福祉機器開発部)…障害児者が自動車に乗る場合でも座位保持装置の安全は確保されているでしょうか。乗車時の安全には日常運転での安全確保と衝突時の安全確保があり、日常運転では家族がいかに運転に集中できるようにしていくかが重要です。衝突時の安全性を研究するためには、スレッド試験を実施しています。
国リハコレクション ファッションショーと展示(障害工学研究部)…身体が不自由になった方々の衣服に関する課題があることを知っていただくため、また、おしゃれを楽しめる環境促進の一助として2011年から国リハコレクションを開催しています。ファッションショーの衣服には、ご協力いただいたモデルさん等の気持ちとおしゃれに重点をおきながら、衣服の着脱のしやすさ、衣生活や普段の行動での課題を解決する工夫がされています。
「障害者ライフモデルルーム」の紹介(障害工学研究部)…「障害者ライフモデルルーム」は支援機器などの体験を含め、様々な情報発信や情報交流などができる場の一つとして、研究所棟の隣に設置され、2012年より活用を開始しています。主な設備は、多目的な利用を想定したスペース(約10m×11m)、手すりやスイッチなどの配置による違いを体験できるトイレやバスのフィッティングルーム、温度・湿度の調整が可能な部屋であり、トイレやバスのフィッティングに活用されている他、スペース内では装着型ロボットの展示やデモ、子ども体験会などのイベントに利用されています。
 国際福祉機器展全体では、3日間で12万人を超える来場者があり、国リハブースにもほとんど途切れること無く立ち寄っていただく方がありました(図8)。配布したパンフレットも2400部にのぼり、研究所の活動をアピールするよい機会になったものと確信しています。
図8:第40回国際福祉機器展 国リハブースの様子
図8:第40回国際福祉機器展 国リハブースの様子

8.おわりに(井上)

 福祉機器分野の研究は、非常に重要であるにもかかわらず、どこかで人ごとととらえられることが多い分野です。日本の技術を、日本の総力を挙げて、福祉機器に注ぎ込んでみたら…きっとみんなの生活が変わるのではないだろうか。そんな妄想を描きつつ、日夜研究開発に取り組んでいます。
 今年度は、成果の発信を積極的に行っています。ここで紹介したもののうち、視覚障害者向け情報支援装置、認知機能低下のある高齢者の生活支援システム、排泄問題ワークショップに関しては、厚生労働省からプレス発表を行いました。少しでも多くの方に、関心を持って頂き、より多くの人に関わってもらいながら、福祉機器の研究を進めていきたいと思っています。