〔トピックス〕
第14回 国連障害統計に関するワシントン・グループ会議に出席して
研究所障害福祉研究部 北村弥生

 2014年10月8日から10日に、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで行われた第14回国連障害統計のワシントン・グループ会議(WG)に参加したので、報告します。WGは国際比較を可能にする障害統計尺度を開発することを目的にしています。この尺度は、医学的診断によらずに、ICF(国際生活機能分類)に基づいて生活上の機能制限をわかりやすい言葉で表現し、国勢調査または全国調査で「障害」を抽出するために使用することを想定されています。既存の疾病や障害の概念に必ずしも捕らわれず、施策の対象としての「障害」ではなく、「生活上の機能制限」の発現率を把握しようとするのが特徴です。
 第14回会議の出席者は、国の障害統計部門から約20名とほぼ同数の開催地の関係者から構成されました。国連の障害者権利条約を批准したことから、国内の障害統計の整備の必要に迫られて、使用可能な尺度を探して参加した国もありました。WHOも国連の障害者権利条約の監視のための指標Model Disability Surveyの開発を2011年に開始し、WGとの協力が国連からも勧告されていますが、第14回会にはWHOからの参加はありませんでした。
 すでに、WGが2006年から2009年に開発した短い質問群(6項目)は、これまでに50か国の国勢調査あるいは全国調査で使用されたり使用予定であることが報告されました。また、WGの成果を1年以内に出版する準備中とのことでした。第14回会議では主に4つの話題について報告と議論が行われました。
 第一に、拡張質問群を米国健康面接調査(NHIS)で使用された結果が紹介され、4段階に障害の程度を区分けする指針作成案が議論されました。例えば、聴覚に関する質問では、「静かな部屋での聞こえづらさ」と「うるさい部屋での聞こえづらさ」のクロス集計の結果と、そのほかの結果との総合評価として、4段階の聞こえづらさの区分け案が提示されました(表1)。
表1 米国NHISの結果による障害程度の区分案
  うるさい部屋で





  困難なし 少し困難 かなり困難 できない
困難なし 困難レベル1 困難レベル1 困難レベル2? 困難レベル3?
少し困難 困難レベル2 困難レベル2 困難レベル3? 困難レベル4
かなり困難 困難レベル3? 困難レベル3? 困難レベル4 困難レベル4
できない 困難レベル4 困難レベル4 困難レベル4 困難レベル4
数値が大きいほど、困難が大きいことを示す。?がついた欄については、どのレベルにするか議論の決着は会議中にはつかなかった
 第二に、ICF-CYの開発に対応した子ども用の障害統計尺度案は、すでに、UNICEFの協力でイタリアを中心としたワーキンググループにより開発されていましたが、複数の国における試行による改定案が報告されました。発達段階に応じて、2歳〜4歳版と5歳〜17歳版が準備されており、低年齢では親または主な養育者が回答しますが、何歳から自己回答とするかは未解決です。親の経験や期待により評価に差が出ることも当初から指摘されており、試行に基づいて対策を検討予定です。UNICEFは就学を促進するための学校環境とアクセシビリティに関する指標開発にも引き続き協力する方針とのことでした。
 第三に、精神的な健康指標に関して、第13回会議で発足されたワーキングループにより、すでに使用されている尺度と検討課題の紹介が南アフリカの代表からありました。精神障害を医学的診断以外のどんな設問で表現するか、すでに作成された拡張質問群のコミュニケーション、認知、セルフケア、感情(不安と抑うつ)、痛み、疲労との区別があるのかなど、さらに探求が続けられます。
 第四に、新しく統計データの登録システムと公表に関するワーキンググループが立ち上げられました。これまでにWG事務局に集積された各国の統計データに加えて関連文献をインターネットで公開する計画にも同意がなされました。
 WGの開催は参加国の持ち回りで開催され、各国の状況や運営方法を感じられる貴重な機会です。英語とスペイン語の同時通訳がついたことで、アルゼンチンだけでなくコロンビアからも発表があり、メキシコからの質問も積極的に行われました。障害当事者の参加は視覚障害女性1名に限られましたが、開会と閉会では手話通訳者も登壇したのは、障害当事者組織が会議運営をした第13回で手話通訳者が参加したことを踏襲したのかもしれません(図1)。アルゼンチンの国土面積は日本の75倍で、南端地域には氷河もあるそうです。2011年の国勢調査では、居住地域により障害率の差が大きいことも示されていました。さらに、医学的な診断とWGの尺度との関係性を明らかにするための調査も計画中でした。1536年にラプラタ川の河口に入植がはじまってから、ブエノスアイレスは南米のパリとして発展し、世界三大劇場のひとつのコロン劇場は、今でも、座席の価格により3つの入口が区別され、休憩場所も含めて、それぞれの領域に立ち入れない構造でした(図2)。

写真:学生がマンドリンを弾き、利用者さんと歌を歌っている様子
図1 閉会式 右端は手話通訳者
写真:学生がマンドリンを弾き、利用者さんと歌を歌っている様子
図2 コロン劇場の3階席から舞台(右)を見る

参考:
江藤文夫 第7回 障害統計に関するワシントン・グループ会議に出席して 国リハニュース. No.289:2007.
北村弥生 第10回 障害統計に関するワシントン・グループ会議に出席して 国リハニュース. No.343:2010.
筒井澄栄 第11回 障害者の統計に関するワシントン・グループ会議に参加して 国リハニュース. No.338:2011.
北村弥生 第12回 国際障害統計に関するワシントングループ会議 国リハニュース. No.343:2012.
我澤賢之 第13回 障害者の統計に関するワシントン・グループ会議に参加して 国リハニュース. No.347:6-7. 2013.
江藤文夫 障害統計のツール開発の国際動向―国連ワシントン・グループの活動を中心にして― 厚生労働科学研究「障害認定の在り方に関する研究」 平成22-24年度総合研究報告. 22-26, 2013.