〔特集〕
障害者の災害対策チェックキット
〜備えよう! その時のために〜
研究所福祉機器開発部 福祉機器開発室 硯川潤

 障害者が東日本大震災のような大規模災害を生き延びるためには、自らの障害に合わせた備えを日常的に考えておくことが重要です。しかし、モノの備蓄から、ヒト・サービスの手配まで、考えるべきことは多岐に渡り、必要な対策を網羅することは専門知識の少ない個人には困難な作業でした。
 そこで、筆者は厚生労働科学研究(厚生労働科学研究費補助金(障害対策総合研究事業)、研究課題:「福祉機器の利活用と開発を促進するための社会技術基盤の創成」、研究代表者:諏訪基(国立障害者リハビリテーションセンター研究所 顧問))の一環として、車椅子ユーザを主たる参加者とした「障害者の災害対策ワークショップ」を開催し、障害当事者が災害対策を考えるために必要なプロセスを分析すると共に、短時間で自身の身体・生活状況に適合した備えを把握するためのワークショップキットの開発に取り組んできました。
 同キットは、ⅰ)日常生活確認シート、ⅱ)備えのアイテムをイラスト化した付箋紙シール(写真1)、ⅲ)シールを貼付する備え確認シート、ⅳ)進行マニュアル、の4点から成ります。これらは、ⅰ)自身の生活機能に適合した備えの把握、ⅱ)備えの網羅的な確認、ⅲ)現在の備えの確認と課題の抽出、ⅳ)ファシリテーション(進行)の簡略化、という要求機能をそれぞれ実現しています。
 ワークショップは、主に以下の4つのプロセスで構成されます。
1.日常生活確認シートを記入し、自身の生活活動や介助者の利用度合いを把握
2.付箋紙シールから現在備えているアイテムを選択し、備え確認シートに張り付け
3.進行マニュアルにもとづいた進行役の案内に従い、備え確認シートに張り付けたカードの不備やその他の課題をチェック
4.不備が見つかったカードを備え確認シートの右側に張り替え、その対策を備えカードから選択
 写真2に示したように、60余りの災害時の備えをイラスト化した付箋紙シールを張り替える作業を通して、現在の自身の備えを確認し、不足しているものをリスト化していきます。
 このキットには、「自助への焦点」と「生活機能と備えの適合」という2つの特徴があると考えています。災害対策には、自助・共助・公助という3つの分類がよく知られています。日常的に介助者など他者のサポートを利用している障害者は、共助・公助に頼る部分がどうしても大きくなりがちです。しかし、自助がおろそかになっているとせっかくの共助・公助も活かすことができません。そこで、我々のワークショップでは、考慮する備えを自分で用意できるレベルに絞り、明日何を備えるかという具体的な視点で災害対策を考えることにしました。
 また、たとえC5完全麻痺というように障害の程度が同じでも、必要な備えは生活機能・環境の違いによって大きく変わってきます。車椅子が多様な生活状況に適合されているように、災害への備えも個々の状況に合わせて適合されるべきという考えから、自身の生活状況の確認からワークショップが始まります。
 今年度は、同キットを広く普及させるために、様々な場面でワークショップを開催していく予定です。例えば、5月の末に東京で開催された全国頸髄損傷者連絡会の全国総会では、そのプレイベントとして、会員を対象としたワークショップを開催しました。同連絡会には、ヘルパーなどを活用しながら地域社会で自立した生活を送っておられる方が多く、災害対策にも強い関心をお持ちでした。チェックキットを使うことで、具体的な備えのイメージをつかむことができたとの感想が多数寄せられ、キットの効果を確認できました。今後も、より多くの方にこのキットを用いたワークショップを体験して頂くことで、災害対策について考えるきっかけを提供できればと思っています。
写真1 付箋紙シールと備え確認シート 写真2 ワークショップの様子