〔特集〕
災害時の発達障害児・者への支援に関する海外への情報提供
企画・情報部

 当センターではアジア太平洋地域に対して障害とリハビリテーションに関する情報を提供するため、リハビリテーションマニュアル(英語版)を作成して、各国の保健省や関係団体に配布しています。現在、"災害時の発達障害児・者支援エッセンス"マニュアルを準備中です。これは、平成23年に発生した東日本大震災の被災地における発達障害がある子ども、大人に対応する際に必要な情報をまとめた冊子を、海外の人々にも活用していただくために英語版で作成するものです。
 当センターは"障害の予防とリハビリテーションに関するWHO指定研究協力センター"としての活動を行っており、その一つとして、東日本大震災の経験からの学びを通じて、災害時の障害をもつ人々への支援・対応についてまとめ、アジア太平洋地域に情報を提供することとなっており、本マニュアルはその活動として行うものです。リハビリテーションマニュアルはこの地域のおよそ30か国以上の国の保健省や障害・リハビリテーションに関わる団体・機関等に提供しており、当センターのホームページでも公開しています。障害当事者・ご家族、リハビリテーションや福祉などに従事する方々等に読んでいただくよう、イラストや写真を使ってわかり易くすることを心がけています。提供先の国では研修会のテキストとしてや障害がある方達の活動にも使用されています。現在は英語版のみを作成していますが、英語が公用語でない国の方々にも内容を理解していただけるように、その他の言語版の作成も予定しています。
 アジア太平洋地域では皆様もご存知のように、大きな津波や地震が発生しておりますが、救命や物理的な被害への対応が優先されがちで、発達障害をもつ人々への対応に関する情報は希少な情報ではないかと思われます。本マニュアルは自然災害を被る太平洋の島々にも送りますし、被災地の声や日本の行政の役割についても紹介しているため、当事者の周囲の人々のみならず行政機関にとっても参考となることを期待しています。
 このマニュアルのもととなった「災害時の発達障害児・者支援エッセンス」(以下、「エッセンス」)の内容について概要をご紹介します。発達障害情報・支援センターでは、平成23年度に被災地における発達障害児・者のニーズをきめ細かく把握し、ニーズを踏まえた障害福祉サービスを提供することを目的とし、岩手県、宮城県(仙台市を除く)、福島県を対象に調査を実施し、276名の回答がありました。この調査からわかったことが「エッセンス」に掲載されています。
 たとえば、要援護者名簿に登録した人はわずか4名で、9割は名簿の存在を知りませんでした。
 また、避難所を利用した人は23%で、そのうち「福祉避難所」を利用した人はわずか3名に止まっていました。大勢がひしめき合う一般避難所の環境は発達障害の人には過ごすのが難しく、周囲の人に気兼ねして家族の心理的負担も大きいことがわかりました。
 「偏食があり、配給や備蓄の食料が食べられなかった」、「見守りが必要なため、家族が配給の受け取りや、買い物に行けなかった」など発達障害のある人特有の困難さも明らかになり、災害時の物資の配給内容や方法に検討が必要なことも明らかになりました。避難所や家庭だけでの生活が長く続くと、生活再建の遅れや心身の状態の悪化につながります。「学校が始まるまでは1人にすることはできないので、親は仕事に就けませんでした」、「日中一時支援が4月1日から再開してくれて助かりました」との回答から、学校や施設、職場が早期に再開されることが切望されていたことがわかります。
 そのほか災害時の心のケア、ストレスへの対処方法についてや、災害時の情報発信に関しての分析結果も掲載されています。
 発達障害情報・支援センターが東日本大震災直後の3月にホームページに掲載した「被災地で発達障害児・者に対応されるみなさんへ」という記事が再掲されています。災害時に必要な情報がコンパクトに概観できるものでリーフレット版は避難所にも配布されました。
 「エッセンス」は発達障害情報・支援センターのホームページで見ることができます。是非、ダウンロードしてご覧いただき、防災・減災に向けた取り組みに活かしていただけると幸いです。

発達障害情報・支援センターが発行し、日本全国に配布している"支援エッセンス"をもとに英語版マニュアルを作成している