1. 障害者の健康と運動、スポーツ義肢装具
障害者の健康を損なうものとして、一般的な生活習慣病と呼ばれるものと、障害特有の合併症が考えられる。これらの予防は、障害者が、その機能を維持するために必要である。「健康日本21」では「糖尿病・循環器病・がんなどの生活習慣病や、その原因となる生活習慣についても、国民一人ひとりが健康な生活をどう営んでいくべきかを主体的・積極的に自己採点して、健康寿命を伸ばそう」とし、健康寿命とは「心身ともに自立し、健康的に生活できる期間」と定義されている。これによると「障害者」はすでに健康寿命を終わっていることとなってしまう。そこで、障害者の健康寿命を「障害の程度に応じた機能を維持する期間」と定義することとする。障害者の生活は、障害の種別にかかわらず、行動の制限を伴うことが多く、それによる不活発な生活や不適切な食生活などによってその健康は損なわれる可能性が大きい。それ故に障害者においても積極的に運動を行う必要があり、スポーツは健康増進として、また娯楽活動として生活の質を高める点から意義がある。
そのような中から、競技に打ち込む人々も現れ、やがてパラリンピック級のパラアスリートとして活躍する人となる。
2. パラリンピック
(1)パラリンピック競技
パラリンピック競技は、歴史的変遷はあるが、現在は20種目が認められている(表1)。多くの競技は健常者と同じルールを適用したり、障害に合わせ変化させたものである。
競技と障害によっては、補助者が付いたり(視覚障害者のマラソンにおける伴走者等)、デバイスを用いたりする(頚髄損傷者のアーチェリーにおける矢を放つためのデバイス(リリースエイド)等)。
健常者にはない競技としては視覚障害者の競技であるゴールボール、重度脳性麻痺者が参加するボッチャ、主に頚髄損傷者が参加するウィルチェアラグビーなどがある。
(2)参加資格
参加資格のある障害は肢体不自由、視覚障害、知的障害である。肢体不自由には脚長差のあるもの、低身長(軟骨異栄養症、成長ホルモン障害、骨形成不全症による低身長等)が含まれる。
またこれらの障害でも、最低限の障害がなければならない(minimum impairment criteria)。
それは参加競技によって異なる。また障害があったとしても障害または原疾患が活動期であったり、参加することによって障害を重度化させることにつながる場合も参加は許されない。前者にはMS(多発性硬化症)やRA(間接リウマチ)などの病気が含まれ、後者には一部の関節障害や筋疾患などが想定されていると思われる。
健康状態も考慮され、心肺機能の低下ある場合等の参加も許されない。聴覚障害も明確に参加資格なしとされている。これは別にデフリンピックという独自の国際競技会があるからである。
3. 障害者スポーツにおける医療の役割
医療の果たすべき基本的役割はメディカルチェックによる健康と安全の維持、合併症の予防、障害悪化の予防と、クラス分けによる競技スポーツに於ける対等性の保障である。これらの役割が果たせるためには、障害の特性を知り、参加するスポーツを知り、どのような合併症があり、またその予防があるかを知る必要がある。障害者といっても様々な種別があり、競技がある。殆ど健常者と変わらない競技者も居れば、生活面、競技面に配慮の必要な障害もある(表2)。配慮の観点としてはADL、競技において介助と医学的配慮の有無、環境設定の要否という観点から考えなくてはならない。
また医療関係者だけがするわけではないが、クラス分けが重要な課題となる。クラス分けは「競技スポーツにおける対等性の保証」のために行われる。過去においては障害の重度さだけに着目していたが、やがては競技における機能が重視され、必然的に競技別のクラス分けが必要となってきて、やがては障害種別を超えた統合的クラス分けが行われるようになってきた。今日ではパラリンピックのクラス分けは、競技別クラス分けであり、一部の競技においては統合的クラス分けが行われる。国際競技のクラス分けと国内大会である全国障害者スポーツ大会のクラス分けは異なる。これはかつては障害種別、重度別クラス分けを行っていた名残である。
障害者スポーツにおいては必要となる用具や補助具の開発は未成熟である。今後の発展が必要であるが、より重度の人も参加できるようにするためと、参加者を護るという観点が必要である。
表1 パラリンピック競技(夏期)
No |
競技名 |
1 |
陸上競技 |
2 |
アーチェリー |
3 |
水泳 |
4 |
卓球 |
5 |
車いすフェンシング |
6 |
パワーリフテイング |
7 |
射撃 |
8 |
自転車 |
9 |
馬術 |
10 |
柔道 |
11 |
ボッチャ |
12 |
車いすテニス |
13 |
セーリング |
14 |
ボート |
15 |
車椅子バスケットボール |
16 |
バレーボール |
17 |
ゴールボール |
18 |
サッカー5人制(視覚障害) |
19 |
サッカー7人制(脳性麻痺) |
20 |
ウイルチェアーラグビー |
表2 障害者スポーツ競技者への競技生活上の配慮
障害種別 |
頚髄損傷 |
重度脳性 マヒ筋疾患 |
脊髄損傷 |
視覚障害 |
切断、馬尾神経損傷 |
参加競技例 |
陸上 |
ボッチャ |
車いすバスケット |
柔道ゴールボール |
車椅子テニス |
配慮 |
日常生活介助 |
要 |
要 |
否 |
要 |
否 |
競技援助 |
要 |
要 |
否 |
否 |
否 |
環境整備 |
要 |
要 |
要 |
軽 |
軽 |
競技に医学的配慮 |
要 |
軽 |
要 |
軽 |
軽 |
生活に医学的配慮 |
要 |
軽 |
要 |
軽 |
軽 |