〔トピックス〕
第15回 国連障害統計に関するワシントン・グループ会議に出席して
研究所障害福祉研究部 北村弥生

 2015年10月26日から28日に、デンマークの首都コペンハーゲンで行われた第15回国連障害統計のワシントン・グループ会議(WG)に参加したので、報告します。WGは国際比較を可能にする障害統計尺度を開発することを目的にしています。この尺度は、医学的診断によらずに、ICF(国際生活機能分類)に基づいて生活上の機能制限をわかりやすい言葉で表現し、国勢調査または全国調査で「障害」を抽出するために使用することが想定されています。WHOは「障害に関する世界報告書」(2011)で、「全世界の人口の15%はなんらかの障害を抱えて生活している」としていますが、国際比較でいう「障害」は各国ともに障害福祉サービス受給者よりも広い概念です。
 すでに、WGが2006年に発表された短い質問群(6項目:視覚、聴覚、歩行、コミュニケーション、認知、セルフケア)は、これまでに54か国の国勢調査あるいは全国調査で使用されたことが報告されました。たとえば、「歩行」については、「歩行や階段の上り下りがしにくい」という設問に対して、「いいえ、苦労はありません」「はい、多少苦労します」「はい、とても苦労します」「全くできません」の4つの選択肢から、回答者は1つを選択し、「とても苦労する」と「全くできない」を選択した場合を「障害」とするとされています。
 第15回WGは、筆者がこれまでに参加した4回の中で最も情報量が多い会議でした。国連障害者権利条約の第33条「国内における実施及び監視」と第31条「統計及び資料の収集」により、批准国の障害統計への関心と実践が広がっているためと考えます。国際労働機構(ILO)が刊行した障害者の雇用統計に関する総説(ILO's compilation re sources of labour forcecharacteristics of people with disabilities)、障害と雇用に関するデータ・モデュール開発(ILO)、仁川戦略の監視・評価のためのガイドライン開発(国連ESCAP)、デンマークが国連障害者権利条約の監視のために開発したGoldIndicatorの報告もありました。また、「持続可能な開発目標(SDGs)2015-2030における障害に関する指標作成ネットワーク」が国連経済社会局(UNDESA)を中心に開始されたことの情報提供もありました。いずれも、WGの設問を「障害」の定義として活用することで連携を行います。
 WGの活動としては、ICF-CYに対応した子ども用の障害統計尺度案について、カメルーン、インド、サモアでのフィールドテストの結果報告があり、UNICEFと就学を促進するための学校環境とアクセシビリティに関する指標開発を引き続き行う方針であることが再確認されました。
 また、開発が難航している環境要因の設問については、教育・労働分野での経験から、環境と参加を関連付けることが提案されました。ただし、日用品の買い物をしない国もあるなど、国際的な基準作成の困難さも指摘されました。
 さらに、WGが2010年に開発した拡張質問群を、米国健康面接調査(NHIS)で使用した結果の分析が第12回、14回WGに引き続き、報告されました。拡張質問群には、短い質問群の6領域に、精神に関する領域と「痛み」・「疲労」に関する領域が加わり、それぞれの領域に2〜9項目の設問が含まれます。NHISでは、「とても苦労する」または「全くできない」の出現率は、短い質問群の「聴覚」について1.8%であったのに対して、「うるさい部屋で聞こえづらいか」または「静かな部屋で聞こえづらいか」については5.1%になりました。つまり、すべての設問で、「とても苦労する」と「全くできない」を選択した場合を「障害」とすると、WHOの想定や直感的な認識をはるかに越えます。そこで、困難レベルを設定することが提案されました。例えば、表1のように困難レベルを4段階で設定すると、困難レベル4は全体の1.2%となり、直感的な「聴覚障害者の出現頻度」との齟齬が減ります。しかし、15回WGでは、国際的な困難レベルの設定には米国のデータだけでは十分でないことが指摘されました。また、「精神に関する領域」の項目で示す「Anxiety」「Depression」も「痛み」・「疲労」も「機能」でないことへの懸念も提起されました。
 会議期間中に見学した、コペンハーゲン郊外に2013年に建設された障害者団体のための施設では、複数の障害種別への配慮が、設計・建設業者への2日間にわたる事前研修の実施などで工夫されていました。例えば、中央部分のエレベーターホールは火災時の煙の侵入を防ぐために密閉して陽圧にする、トイレは複数のパターンを館内に配置するなどでした。
※過去のWGの参加記録も、国リハニュースに掲載されています。また、WG会議でのプレゼン資料も国連WG会議のHPから公開されています。
表1 米国NHISの結果による障害程度の区分案
  うるさい部屋で 合計
困難なし 少し困難 とても困難 できない
静かな部屋で 困難なし 11603
困難レベル1
3373
困難レベル1
253
困難レベル2 ?
8
困難レベル3 ?
15237
少し困難 94
困難レベル2
809
困難レベル2
388
困難レベル3 ?
24
困難レベル4
1315
とても困難 0
困難レベル3 ?
8
困難レベル3 ?
138
困難レベル4
16
困難レベル4
162
できない 0
困難レベル4
0
困難レベル4
0
困難レベル4
23
困難レベル4
23
困難レベルの数値が大きいほど困難が大きいことを示す。第14回WGでは「?」がついた欄について、判断を求める採決を取ろうとして強い反発が出たが、第15回WGでは上記の分類案が提示された。
図1:エレベーターの間の足元の黒い四角はフットボタン
図1 エレベーターの間の足元の黒い四角はフットボタン。
図2:出入口は平坦。右が屋外で雪を解かす温熱が暖房から供給される。正面に見えるコンセントやボタンは原則として、車椅子で届く位置に設置。
図2 出入口は平坦。右が屋外で雪を解かす温熱が暖房から供給される。正面に見えるコンセントやボタンは原則として、車椅子で届く位置に設置。