〔特集〕
平成28年度運営方針
病 院
病院長 西牧 謙吾

 病院では国立障害者リハビリテーションセンター中期目標に基づき、平成28年度運営方針について次の取り組みを強化していきます。

 リハビリテーション医療の提供
(1)先進的リハビリテーション医療の推進
 ○慢性期の難病患者が、生涯にわたる療養と社会生活への参加を進めるための医療に取り組みます。センター内の部門連携のもと、中・高年齢頸髄損傷者の特性を明らかにするとともに、脊髄損傷者の排便について取り組みます。
○低酸素脳症患者に対する作業療法における訓練プログラムを構築するとともに、高次脳機能障害児・者の復学支援と学齢期各ステージに対応したマニュアルの作成に取り組みます。
また、従来の機能評価に加え標準注意検査・標準意欲検査を実施し、高次脳機能障害者への心理テストバッテリーを再検討します。
○先天性四肢欠損児の作業療法における訓練プログラムの構築、自助具、訓練機器の開発および過去データ分析を行います。筋電義手操作の獲得に向けて、効果的な訓練方法について検討します。
○外来患者に対するロービジョン訓練の充実を図ります。入院によるロービジョン生活訓練を検討します。
○先天性難聴の遺伝子診断や遺伝カウンセリングを行い、適切なリハビリテーションプログラムを提供します。残存聴力活用型人工内耳など、新たな技術を取り入れた補聴器、人口聴覚臓器の適応患者に対して適用、フィッティングを行います。
○座位保持が困難な症例に対し、研究所とも連携し、シーティング・クリニックを実施し、成果の情報発信に努めます。
(2)安全で質の高い障害者医療・看護の提供
 ○高位頸髄損傷者のQOL向上に向けた自助具や自助具作製手引き書を開発・作成し、頸髄損傷者のリハビリテーションを推進します。 慢性期脊髄損傷者に対して必要な整形外科的治療を実施し、中年・高齢期の脊髄損傷者の機能維持・回復に取り組みます。脊髄損傷者について、より適切な排便コントロール獲得に向けたケアを推進し、脊髄損傷者の感覚障害や麻痺に起因する褥瘡や皮膚損傷の予防を図ります。
○高次脳機能障害者への医療・看護
 社会において適応障害をきたしている高次脳機能障害者に対し評価入院を継続して行います。また、高次脳機能障害者の社会参加を目標として、病院と自立支援局が連携し、包括的なリハビリテーション医療を継続します。
高次脳機能障害の各種症状への適切なケアを行うとともに、在宅生活の質向上のための家族支援に努めます。
○発達障害者への医療・看護
 発達障害と他障害の重複障害例の評価方法の検討を行うとともに、発達障害に配慮した基本的な治療や訓練、生活支援等の目的に沿ったケアを提供します。
○視覚障害者への医療・看護
 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層に対応したロービジョンケアの一層の充実を図ります。
○言語聴覚障害者への医療・看護
 センター内の部門連携のもと、視覚・聴覚合併障害患者の発見に努め、合併障害患者に適切なリハビリテーションを検討します。また、小児のコミュニケーション障害の一因となる言語発達遅滞、構音障害、吃音などに対する専門外来を行います。言語聴覚障害のある当事者及び家族が、適切な言語聴覚療法サービスを受けられるよう、包括的な評価・訓練プログラムの開発を行います。回復期リハビリテーション終了後の失語症リハビリテーション内容の改善に向けて、慢性期失語症の改善要因に関する基礎データを蓄積します。
○中・高年齢障害者への対応
 慢性期中・高年齢障害者の機能低下に対し、再訓練入院を行います。そのための評価プログラムを作り、高齢化、慢性化の障害へ及ぼす影響を明らかにし、対策を検討します。
○切断者への医療
 高齢で合併症を有する切断者の歩行自立に向け、義足とリハプログラムの検討を行います。また、多肢切断に対するリハビリテーション事例を重ね、自立のための阻害因子とその克服について検討します。
○薬剤管理・服薬支援
 錠剤自動分包機更新による新機能を活用して新たな調剤方法を検討します。外来での障害者への服薬指導の充実に取り組みます。
○医療安全管理
 医療安全管理委員会組織による医療安全向上のための諸活動を推進します。感染症対策委員会組織による感染防止対策のための諸活動を推進します。院内研修会を行い、医療スタッフの専門性の充実を図ります。接遇面では、患者の声に応え、より良いリハビリテーション医療のための環境を整備するとともに、医療スタッフの患者への接遇態度の改善を図ります。
○地域・関係部門との連携体制の強化
 地域療育機関と連携し、聴覚障害児および失語症患者の地域環境の整備に協力します。視覚障害の自立支援局利用者に対する眼科診療・ロービジョンケアを継続しやすい環境を提供できるように努めます。
 医療相談室では、地域の医療機関等からの当院への転院・通院希望の相談を充実し、円滑な転院・通院ができるよう支援します。当院入院患者の退院後や外来患者が地域で利用する医療機関、福祉事業所、行政機関等と連絡調整や院内調整を行い、円滑な在宅生活移行や施設利用等が可能となるよう支援します。その他、入院及び通院患者で自立支援局等の利用を希望する患者については、随時、自立支援局と情報交換等を行い、円滑な施設利用ができるように支援します。
(3)障害者への健康増進・保健サービスの提供
  病院(外来・入院・人間ドック)、自立支援局において運動・栄養・生活指導の面から健康づくりを推進し、健康増進に必要な情報を提供します。
 障害者アスリートに対し、ドーピングに関する相談業務の周知を図り、選手が積極的に相談できるように取り組みます。また、センター外との施設とも連携し、障害者の健康増進サービスが広く提供される基盤構築に貢献します。
(4) 臨床研究開発機能の強化
 ○臨床研究の体制を整備し、新たに障害者総合支援法の対象となった難病、いまだ支援方法が確立しない成人の発達障害への研究等、国の政策立案や行政施策に資する臨床研究を行います。
○麻痺による二次性の骨萎縮について骨密度測定器などを用いて評価し、骨折などの2次障害予防について検討します。
○車いす利用者に生じる二次障害予防として、上肢障害を中心にデータの収集を行います。
○義肢装具に関する臨床研究について、全国共同研究施設と連携し、データを蓄積し、その結果をまとめ、学会発表を行います。
○脳損傷者の安静時脳活動が、外的刺激課題や受動的刺激課題に対してどのように変化するのかを認知行動障害との関連から解明し、脳の可塑性について検討します。
○研究所と連携し、ロービジョン患者の白内障手術後の目標屈折値に関するデータの収集を行います。
○網膜色素変性症を対象に眼球運動と視機能および日常生活動作との関係を調査し、その結果を基にした訓練内容を検討します。
○吃音の診療で、より客観的な評価方法や治療方法の導入を検討します。吃音の小児に対して新しい治療法を診療科と言語聴覚療法部門と共同で試行し、その成果を分析・検討します。言語聴覚療法部門では、病院及び研究所において、障害者の臨床の基となる基礎研究を実施し、臨床に応用します。
○全国共同研究の難治性聴覚障害疫学調査を行うため、共通様式のデータ入力を行い、その結果を検討します。
(5) 臨床サービス、臨床研究開発の情報発信
  先進的障害者医療、リハビリテーション、健康増進、運動支援の成果を蓄積し、情報発信を推進します。難病患者が医療と福祉サービスを活用して社会参加が進むよう、当事者及び支援機関対象の調査結果に基づく支援マニュアルを作成し、シンポジウム開催等を通じて情報を発信します。
(6)人材の育成
  国内外からの研修生や、見学の受け入れを行い、国際的な人材育成を行います。医療スタッフの専門性の育成のために、院外における研修機会を活用し、専門的能力の育成を図ります。また、各職種の専門的な資格認定制度に則り、障害者センターに必要な特殊技能や資格の取得を促進します。
(7)病床利用率等の向上
  入院病床利用率等の病院利用に関する指標を検討し、定期的に管理するなどその利用の向上、非効率な業務の見直しに努めます。

 障害者の健康増進、運動医科学支援
(1)健康増進プログラムの開発・提供及び事業の推進
 ○様々な障害者が、医学・保健・運動・栄養の面から、障害の特性に応じて心身の健康を維持・増進できるよう研究・開発を進め、その成果普及を図ります。また、現場において実施にあたる人材育成を行います。
○これまで実施した健康増進モデル事業を総括し、施設を利用した健康増進プログラムの開発・普及、ガイドラインの作成を行い、これまでの成果から作成した健康増進プログラムのより多くの施設での実施に努めます。病院(外来・入院・人間ドック)、自立支援局における健康増進プログラムを提供します。また、障害者の生活習慣病・二次障害に関する調査・研究、障害者・高齢者の加齢に伴う移動機能障害に関する調査・研究を行います。特に、障害者の活動度について、視覚障害者を中心に実態調査を行います。この分野の人材育成として、障害者ヘルスプロモーション事業に関する研修会を引き続き開催します。
(2)障害者競技・レクリェーションへの支援と医科学研究の推進
  病院を中心に、研究所、自立支援局、学院、及び関係団体と連携し、医科学支援と競技環境支援を実践します。具体的には、日本障害者スポーツ協会が義務付ける競技者の定期健康診断(アスリートチェック)に協力し、病院で実施します。
 その他、障害者に関連する医科学研究の実施、障害者スポーツ用具の開発、日本障害者スポーツ協会・日本パラリンピック委員会(JPC)からの依頼により重点強化種目についてチーム練習・合宿の環境提供を行い、障害者競技・レクリェーションへの参加者の拡大を図ります。

 災害等緊急時のリスク管理の充実
〈「第2期中期目標 第3 4.災害等緊急時の危機管理の充実」関係〉
(1)災害等緊急時の緊急対応体制を明確にし、緊急時の実践準備を整えます。
 病院全体の緊急時連絡網の周知徹底を行い、入院患者安全確認、誘導、搬送の方法について、外来患者、面会者の誘導の方法についても緊急対応に備えます。また、避難訓練や研修会を通して、医療機関における緊急度、患者の重症度等に関する知識を浸透させ、基本的な備えに関する心構えを育成します。緊急時の患者の処置、体調管理に関する物理的な準備を確認できるよう体制を整備します。