〔特集〕
病院における取組と予防
病院長 西牧 謙吾

 病院における新型コロナウイルス感染症対策のはじまり
 中国の武漢で、正体不明の新興感染症が流行し始めたとのニュースが入ってきた頃は、まだまだ対岸の火事だと思っていました。2020年1月後半、院内感染対策チームの中で、市中の手指衛生材が品薄になっているとの情報が入り始めましたが、それでも緊迫感はなく、在庫でいつまで持たせることが出来るかなどと話をしていました。例年より早くインフルエンザ流行期に入り、お見舞い客の制限、手指衛生の徹底など、例年通りの冬期感染症対策に邁進していました。

 新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策
 2月13日に新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策が出ましたが、病院としては周辺の病院での面会制限情報を集める他は、手指消毒薬剤が市中からなくなることへの対応が中心でした。特に、泌尿器科受診している患者へのアルコール綿などの不足が目立ってきました。
 3月になり市中でも感染者数が増加し、重症者や死亡例が毎日のように報道されるようになり、院内感染も報告され始めました。3月3日の幹部・部長合同会議で、当センターにおける各部門の新型コロナウイルスへの対応状況が集約され、4月末までの対応方針が決まりました。
 病院では、職員・来院者等へのマスク着用の徹底、入院患者が1,2階に行く場合のマスクの着用を徹底しました。この頃には医療用マスクの在庫も少なくなり、自立支援局の看護師への供給を含め在庫管理を強化しました。体育館を含め、施設利用の制限、外来患者の受け入れ制限と電話再診の手続きなど、国の方針に基づき、病院としての対応方法を徹底するために、毎週診療部会、拡大診療部会を開催し、3月25 日付けで病院新型コロナウイルス感染症対策をとりまとめました。主な方針は、職員が感染者となった場合は外来の閉鎖、入院患者受け入れ停止とする、感染が疑われる患者の対応方法の方針決定、職員の感染防止対策の徹底、見学・実習生の受入れ原則中止としました。4月7日の緊急事態宣言を受けて、4月8日から外来はリハビリを含め、可能な患者は電話再診又は延期。同14日からは、更に院内感染対策を強化し、来院者の発熱チェックを開始、同15日から入院患者への面会を中止、併せて入院患者の外出・外泊を制限しました。

 新型コロナウイルス感染症疑い事例の発生とその経験
 4月15日、自立支援局利用者が発熱で病院を受診し、胸部CT所見で新型コロナウイルス感染症が疑われました。2回のPCR検査陰性が確認され、新型コロナウイルス感染症は否定されましたが、翌16日より自立支援局の入所生の来院を制限しました(5月12日まで継続)。この事例への対応で、感染疑いの患者対応だけでなく、濃厚接触者疑いへの対応が加わり、個室隔離、食事の対応、生活空間の制限を実施するために、感染症発生時にどれだけの職員確保が必要かを実感できたことは収穫でした。
 しかし、入院患者の中に基礎疾患や重度障害のある患者が多いため、職員の間で感染防止の危機感が高じ、看護師、リハスタッフの間で緊張と不安が高まり、感染の収束が見えない中、利用者や職員の心身が不安定になることがありました。そのため、体調が悪い職員は休みを取り、体調管理に努めることを勧めました。
 この実戦経験により、3月25日に取り決めた病院新型コロナウイルス感染症対策の不足部分が明らかになってきました。そこで、4月21日に国や日本医師会などから出された対応方針を参考にし、5月13日に病院新型コロナウイルス感染症対策を改定しました。主な変更点は、新入院患者、外来患者の感染リスク評価基準の策定、入院・外来患者の移動の導線の分離、医療者・リハスタッフが適切で一貫性のある感染防護処理が行われるように病院職員の全体研修を実施しました(eラーニングにより)。

 第1波収束後の対応
 緊急事態宣言が5月25日の解除を受け、6月1日には病院における制限の一部緩和として、入院患者への病棟での面会(15歳以上の家族2名まで15分以内)、病棟内での退院支援患者家族指導を再開、入院患者のセンター敷地内への外出、主治医が必要と判断した外泊を許可、外来の来院制限を入院患者と交わらない対策をしたうえで解除に踏み切りました。国リハ病院の入院患者は、高齢者、合併症併存者、重度者が多く、さらなる制限の解除については、新型コロナウイルス感染者発生状況の動向等を確認しながら、社会情勢をふまえつつ、総合的に判断を行っていくこととし、対応方針の一部を改訂しました。
 7月に入り、所沢市内の病院で大規模な院内感染事例も発生し、病院職員の周りでも、濃厚接触者が出てきたため、8月11日に再度入院患者への面会を中止しました。幸い、入院患者、職員の中での感染者は出ていません。

 国リハ内部での連帯
 衛生材料(手指消毒液、予防衣、手袋、マスク等)が、3月以降通常の購入ルートでは入手できづらくなってきたため、市中のホームセンターやドラッグストアに職員が買い出しに行くなどの対応を取りました。それでも予防衣は入手が困難であったため、代用品としてレインウエアを購入して必要な部署に配布した他、ポリ袋(90ml)を活用して簡単なガウンを作製しました。
 衛生材料の不足を補うため、病院、学院、研究所、自立支援局と協力し、4月14日からフェイスシールド130個、4月23日からアイソレーションガウン933枚を作成しました。また、国、県及び医師会等からN95マスク100枚、サージカルマスク8,000枚、フェースシールド440枚、アイソレーションガウン6,000枚を受領しました。

 新型コロナウイルス感染症対策の教訓
 9月に入り第2波も落ち着きつつあります。第1波の時に比べ、国民一人一人のマスク着用、手指衛生の徹底、不要不急の外出をしないなど、個人防衛文化が定着したこと、クラスターをつぶす感染症対策が功を奏したことで、とりあえず感染をコントロールできたと考えられます。病院の対策としては、平成26年より院内感染対策を進め、医療職の手指衛生の徹底、病院内の衛生環境保持の徹底が図られ、院内感染コントロールチームが機能していたことが、今回のような、大規模感染時でも緊急の対策が出来た大きな理由と考えています。