〔特集〕
成人吃音相談外来について

病院 リハビリテーション部 言語聴覚療法 副言語聴覚士長 北條 具仁

 国内で成人吃音に対応できる医療機関は極めて限られています。当院の成人吃音相談外来(以下 成人吃音外来)は成人の吃音に対応できる数少ない医療機関の一つです。また、先進的な治療法の開発や情報発信の役割も担っています。ここでは、成人吃音外来が開始された経緯と治療内容や成果について紹介します。

1 成人吃音外来の歴史

 成人吃音の診療は耳鼻咽喉科言語新患外来で対応していました。しかし平成21年の調査の結果、言語新患外来の半数以上を吃音の相談が占め、かつ吃音の相談の50%以上を成人の吃音が占めていることが分かりました。また、予約から診察まで数ヶ月待つことも問題となりました。この調査を契機に、研究所感覚機能系障害研究部と連携し、人員と体制を整備して、成人吃音に関する専門外来である「成人吃音相談外来」を平成23年に開設しました。
 成人吃音外来は18歳以上の方(高校生は含まない)を対象に、毎週2名の初診患者を完全予約制で受け入れています。初診患者は毎年80名以上にのぼります。来院する患者の居住地は北海道から沖縄県まで広範囲にわたります。

2 治療

 従来の成人吃音の治療は、吃音を減じるコントロールした話し方を習得する直接法や、発話訓練はせずにイメージの中で繰り返し流暢に話す体験を重ねる間接法があります。前者は発話訓練で得た発話方法のコントロールの実践の難しさと治療効果の維持が困難である点が指摘されています。後者は、治療期間が長く、鬱病などの精神疾患があると用いることができません。
 成人吃音外来の治療は研究所との連携をもとに、従来の吃音治療の枠に留まらない新たな治療概念として、吃音のある人にはもともと自然で楽に話す能力が備わっている、を掲げました。その能力を最大限に引き出す新たな治療法を開発し、成果を挙げています。

① スピーチ・シャドーイング
 吃音のある人の自然で楽に話す能力を引き出す方法として阿栄娜ら(2015, 2018)が吃音治療に適用しました。インターネットの発話素材をスマートフォンで速度を下げて再生し、このモデルとなる音声を聞きながら、少し遅れて同じように発話し続ける方法です。個人が自宅で練習することを可能にしたことで、効率的な治療が可能になりました。

② グループ認知行動療法
 どもらないように話そうとすることで吃音は生じやすくなるため、その発話への過度な注意を弱める認知行動療法(CBT:Cognitive Behavior Therapy)を用いたグループ訓練を研究的に行いました。本アプローチは世界的に初めての試みでしたが、発話症状および心理態度面のいずれにも効果を認め、長期的な効果の持続も認められました(北條ら 2021)。

 上記に述べた以外に、研究枠で遠隔地に居住する方を対象に実施しているインターネットによる遠隔対面治療や、すでに言語聴覚士の免許をもった方を対象に研修も行っています。

3 今後の展望

 本邦において当院は吃音治療の中核的存在です。臨床、教育、研究、社会的活動のいずれでも先進的であり、情報を発信していく立場にあります。今後も、その精神のもとに成人吃音の領域に利する活動を行っていきます。