〔特集〕
病院で行われるロービジョン訓練

病院リハビリテーション部 眼科ロービジョン訓練 視能訓練士長 松井 孝子

 国立障害者リハビリテーションセンター病院の眼科外来は、ロービジョン訓練(ケア)を専門とする全国でも珍しい外来で、通称では「眼科ロービジョンクリニック」と呼ばれています。 眼科を受診すると、視力、眼圧、視野、網膜断層撮影などの視機能検査を行い、医師の診察を受けることが一般的です。病気がわかって治療する場合も、治療をしながら経過を見る場合も、患者さんに受けていただく視機能検査は同じです。

1 視力だけではない様々な見えにくさ

 眼科の病気のなかには、治療によって視機能を維持できる病気と、長期的には視機能の維持が困難で病気の進行を遅らせる治療を行う病気があります。「病院に通っているから、いつかきっと治る」と思われている方も多いと思います。しかし、長期間の治療を行っても徐々に視機能低下が進行していく方も少なくありません。白内障のように、白く濁った水晶体を手術で取り除き、人工水晶体を挿入し、よく見えるようになる方もいらっしゃいますが、若い頃のようにどこでもすっきり見える!とはいかないことも多々あります。
 目はよくカメラに例えられます。若い頃はオートフォーカス機能によってどこでも見えますが、40代以降になるとその機能が衰え、いわゆる老眼になります。ピントが合わないことがこんなにも大変!と実感し、老眼鏡や遠近両用眼鏡・コンタクトなどで、衰えた視機能を補う必要が生じます。
 他方、目に病気がある場合も「すっきり見える」ことが難しくなります。ところで、「見えにくい」…って、どのくらいの視力だと思いますか? 自分の目に合った適切な眼鏡をかけた時に、自動車の普通免許は0.7、新聞を読むには0.5、教科書を読むためには漢字では0.2、ひらがなでは0.1の視力が必要といわれています。では、0.2以上視力さえあれば教科書を読むことに全く支障はないということでしょうか。見えにくさを感じて眼科を受診したものの、視力検査の結果が思いのほか良好で、本当にそんなに良い視力なの?!と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。そう、「すっきり見える」状態に必要なのは視力だけではないのです。
 視機能には、視力以外に視野(目を動かさないで見ることのできる範囲)、両眼視(両眼で同時に物を見ること)等があり、視野が狭くなると視力が良くても見えにくくなることが知られています。また、視力や視野の問題に加え、光が眩しい(羞明)、人の多いところで歩くのが怖い等、様々な見えにくさがあります。
 

2 眼科ロービジョンケアクニックの役割

 当科では、基本的に病気の治療は行っていません。治療は受診されている病院・クリニックにお願いし、「見えにくい」ことでの困り事を少しでも減らせるお手伝い、つまりロービジョン訓練(ケア)を行っています。普通の老眼鏡で新聞が読めない時には、ちょっと特殊な眼鏡を試したり、ライト付きルーペ等を紹介し使い方の訓練をします。視野が狭く、銀行や役所で自分の名前を書くことができない場合には、タイポスコープ等を紹介します。眩しさには、苦手な光をカットした遮光眼鏡という特殊な眼鏡を紹介します。人混みで歩くことに不安がある場合は、白杖を使った歩行の練習を行います。また見えにくい方には、黒い紙に白いペンで文字を書くだけでもメモが見えやすくなることをご家族に伝えたり、患者さんの見え方を体験いただくことも行っています。
 私たちの施設は病院なので、身体障害者手帳がない場合でもこれらの訓練を受けて頂くことが可能です。
 もう歳だから…と、見たい!読みたい!を諦めないで欲しいのです。歳だけど好きな読書もしたい!映画も見たい、旅行に行きたい!と欲張りになってください。人生100年時代と言われるいま、「見えること」をロービジョンケアを通して、眼科医・視能訓練士・視覚障害生活訓練専門職員(いわゆる歩行訓練士)で支えサポートさせていただきます。
 
■病院眼科ロービジョン訓練のご紹介(国リハホームページ内)
http://www.rehab.go.jp/hospital/department/rehabilitation/rb/