〔トピックス〕
想いをカタチに 〜3Dプリンタによる自助具製作〜
病院 リハビリテーション部 作業療法 副作業療法士長 伊藤 伸
作業療法士 安藤 実華子

 当センター病院作業療法部門では、患者さんが日常生活で使用する“自助具”を製作することがあります。自助具はリハビリテーション技術、とくに作業療法の発展とともに様々なものが考案され、日常的な使用の中で改良が重ねられ、数多くの自助具が市販化されるようになりました。近年は、インターネット通信販売の普及によって、誰でも簡単に、安価で入手できるようになってきました。ただし、利用ニーズが比較的多いものは市販化される一方で、ニーズの低いものは市販化されることが少なく、既存の生活用品を加工したり、ゼロからの製作が必要なものも存在します。とくに、作業療法の対象疾患のなかで少数派ともいえる頚髄損傷者の場合は、必要とされる自助具を作業療法士が製作することが多いのが現状です。
 自助具を製作する際には、様々な部品や他用途の製品等を組み合わせたり、木材や金属などの材料を手作業で加工して製作することが多いため、製作者のスキルにより製作できるものが限られてしまうこと、同じ人が作ったものでも品質や出来映えのばらつきが出やすいこと、同じ自助具であっても利用者個々の特性にあわせた調整や修正にかなりの時間と手間を要することなどの問題があります。さらには、自助具を継続的に使用する方への安定的な供与、とくに遠方の方への対応には難しさがあります。
 筆者は手が不器用な方ではありませんが、自身の臨床経験のなかで、作ろうとしていた自助具に必要な要件は頭の中ではイメージできているものの、自身の工作知識や加工技術の限界の壁にぶつかり、何度も製作を断念したことがあり、そのたびに「3Dプリンタがあれば・・・」と思うこともありました。しかし、これまでは3Dプリンタそのものが高価で、設計で使用する3DCADアプリケーションは高度な専門知識や技術が必要なものが多く、私自身も含めて多くの作業療法士にとっては、3Dプリンタは「便利そうだけど手が出せないもの」でした。時代が流れ、近年、家庭用パソコン用プリンタと同等な価格で、ほどほどの性能の3Dプリンタが登場してきました。さらに、3DCADの知識がほとんど無くても、アプリ画面上で積み木のように立体物を足し引きしながら、簡単に3Dイメージデータが作成できるソフトウエアも登場してきました。そしてついに、2021年3月、当部署で3Dプリンタを導入して、試行錯誤しながらの自助具製作活動が始まりました。はじめはキーボードタイプ用自助具や、コップにストローを固定するストローホルダーなどシンプルな形状のものから製作しました。試作を繰り返して経験を重ねることで、より高度な要件の自助具作成に挑戦できるまでになりました。最近の成果として、口筆で絵を描く高位頚髄損傷の絵師の方用として、「筆交換機能付きマウススティック(図1)」と、複数本のマウススティックを使い分けるための「マウススティックホルダー(図2)」を製作しました。元々、使用しているマウススティックは1本だけで、弾性包帯で絵筆をマウススティックに巻き付ける方式のものであり、絵筆を交換するたびに包帯巻きの作業を何度も繰り返す必要がありました。ニーズとしては、複数本のマウススティックを容易に使い分けられること、絵筆の取り付けがワンタッチであることであり、それら要件を満たす自助具を3Dプリンタにて製作しました。実際に使用してもらったところ、絵師の方はもちろんのこと、マウススティックへの絵筆の付け替えの容易さから、介助者からも高い満足が得られました。
 今後は製作活動をさらに推進させながら、遠隔にお住まいの方への自助具を安全かつ効率的に提供するための仕組みづくりなどにも挑戦して参りたいと思います。
 


図1 マウススティック

図2 3連マウススティックホルダー