〔特集〕
視覚障害を学ぶ
~技術だけではない人と人のつながり~


学院 視覚障害学科 主任教官 丸山 華子

1 視覚障害について学ぶ心構え

 「街で白杖を使って独りで歩いている視覚障害者を見かけた時、助けたいという気持ちはあるけれど、声をかけるタイミングが分からない。」「どのようにサポートすればいいのか分からず、結局声をかけることができなかった。」これらは、私たち学院視覚障害学科が研修会や勉強会で出会う方々からよく聞くお話です。この記事を読んで下さっている方の中にも、同じ経験や思いをもつ人がいるのではないでしょうか。
 では、当事者たちはどのような意見を持っているのでしょうか。何人かに聞いてみると、「遠慮せず声をかけて欲しい」あるいは「まずは見守って、キョロキョロするなど困っている様子だったら声をかけて欲しい」など、意見に違いがありました。
 サポートが必要かどうかや、具体的にどのような手助けをして欲しいのかは、ケースバイケースであり、「〇〇さえやっておけば問題が解決する」といった単純なことではないようです。
 視覚障害について学ぶとき、具体的にどのようなことから理解を深めていけばよいのでしょうか。視覚障害学科では、最初に眼科診断書の読み解き方を医師や視能訓練士から教わります。勉強後には、それまで暗号のように思えた文字や図が、意味のある言葉やイメージに変わっていきます。この時、知識を暗記するのではなく、「この人は日常生活でどのようなことに困っているかな?」と“想像する”トレーニングを行います。勝手な思い込みや決めつけではなく、より客観的な情報を基に、一人ひとりの状況を想像してみる経験を積むのです。まずは自分が相手の状況を想像することから、相互理解はスタートするのではないでしょうか。
 

2 障害の理解(対話することの大切さ)

 次にトレーニングするのは、“対話する力”です。言葉を使うことも多いですが、言葉を使わなくても、心を通わせることができるということを学びます。ここでは、相手を受け入れるだけでなく、自分のことを相手に伝えることも大切だ、と学びます。相手が障害者であるかどうかではなく、人間同士が向き合って心を通わせることについて考えるのです。嬉しいことに、学生たちは若いエネルギーで、あっという間にこれらの課題を超えていきます。
 障害者支援に関わる専門的な知識や技術を身に付けるのは、そのあとです。視覚障害ならびに視覚と聴覚の両方に障害がある盲ろう者に対し、より自立した生活が送れるようになるための訓練が提供できるよう、実技や演習を行います。光を感じない方々の生活を想像しながら、自宅の中で掃除や洗濯、調理などをどうやって行うのか?屋内であっても階段から落ちたり、扉に頭をぶつけて怪我をしないように移動するにはどうすればいいのか?友人にメールを送ったり、ネットショッピングをするにはどうすればいいのか?部分的に見えるロービジョンの人については、文字を読み書きする際の道具や環境の配慮などについても学びます。しかし、ここまではあくまでも、当事者の困りごとを“想像”しながら学習が進んでくのであり、いわばシミュレーションでしかありません。
 ここまでのシミュレーションを踏まえ、視覚障害者の方々からお話を聞いたり、同じ時間や空間で過ごさせて頂く機会を得ることが、どんな教科書を読むよりも勉強になりますし、学生たちもそれまでの学習が現実的にどう役立つのか、考えを深めていきます。世の中には、視覚障害という単語では表現しきれないほど、様々な見え方があり、その先には、障害の有無に関わらず一人ひとりに違う日常生活があって、家族や社会と繋がりながら、みんな懸命に生きているんだ、自分もその大きな輪の中で生きているんだということを、若い世代の方々と共有することで、よりよい未来が形作られるのだと信じています。
 障害理解は、他人ごとを自分ごとに変えることに似ていると思いますが、自分が経験できないことは、相手の話を聞いたり知識や情報を得て想像することから始まると考えています。専門的な知識や技術がなければ、障害者をサポートできないわけではありません。よき隣人として、時には周囲の人々に意識を向けて、自分にできる小さな親切を想像してみましょう。
 
■学院 視覚障害学科のご紹介(国リハホームページ内)
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