福祉機器開発部

福祉機器臨床評価研究室

福祉機器臨床評価研究室は、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の福祉機器開発部に属する研究室です。工学系研究部の中にありながら、医療専門職である理学療法士・作業療法士が在籍する、常勤研究者2名の小さな研究室です。臨床での評価が難しい福祉機器(支援機器)に関して、評価の方法論に関する研究やケースとしての評価実践など、当センター内の関連部局や外部の大学・研究機関等と協力しながら幅広く取り組んでいます。また、流動研究員(いわゆるポスドク)や研究協力者など広く歓迎いたしますので、ご興味をお持ちの方はお気軽にご連絡ください。

代表: 研究室長 白銀暁(しろがねさとし, Researchmap, KAKEN

メールアドレス: shirogane-satoshi [アットマーク] rehab.go.jp

福祉機器臨床評価研究室の研究方針

福祉機器(支援機器)の研究開発促進と利活用拡大を目指して、それを阻害する要因の一つである科学的臨床評価の不足を改善するための研究を行います。開発に携わる研究者には非医学系が多く現場の知識や経験が不足しがちであり、加えて、臨床評価では当事者への機器の適合度や使用環境など多要因が影響し、画一的な大規模試験が難しいという特徴があります。これらに対し、開発者や臨床の実践家らに対する情報提供と啓発を目的としたボトムアップと、支援機器に関係する制度・規格等の見直しによる状況変化を目的としたトップダウンの両面からアプローチします。前者では、評価手法に関する情報整理や新たな評価手法の調査等を行い、取り纏めて発信し浸透を図るとともに、その実践にも関与して実例を積み重ねていくことを目指します。後者では、補装具費支給制度や関連規格の課題解決および見直しを進め、より適正かつ円滑な福祉機器(支援機器)の供給・開発に向けた体制整備に寄与することを目指します。

福祉機器臨床評価研究室の研究テーマ

現在、大きく分けて、以下に示す3つの研究に注力しています。

福祉機器(支援機器)の臨床評価の方法論に関する研究

かなり以前に、開発した機器を対象者に使ってもらってその後の変化を記述する、いわゆる事例報告的な評価が中心であった時期がありました。その後、1980年代に入って「根拠に基づいた医療」の考え方が広まり、ランダム化比較試験とそのメタアナリシスを頂点として科学的根拠(エビデンス)を重視する考え方が広く一般化しました。しかし、福祉機器においては、そもそも対象者が少ないことに加え、介在者や使用環境なども強く影響することから多数の被験者を要する大規模試験は難しいといった問題点がありました。そこで、このような問題点を解決あるいは改善する方法を模索しています。これまでに、過去の評価実践例を収集して分析し[1]、評価に用いられるアウトカム指標を整理しつつ[2]、また個別性の高いケースへの対応方法を検討する[3]などしています。近年は、特にn-of-1試験デザインの応用について議論を重ねています。

[1] 白銀暁, 鎌田実: Journal of Rehabilitation Research & Development における福祉用具臨床評価研究のフェイズとデザイン. 理学療法ジャーナル, 52(9), 877-881, 2018.

[2] 白銀暁, 井上剛伸: 支援機器の臨床試験におけるアウトカムとその選定方法に関する調査研究. リハビリテーション・エンジニアリング, 36(3), 164-170, 2021.

[3] 白銀暁: 支援機器における科学的かつ実現可能性の高い臨床評価手法に関する予備的検討~発達障害などの個別性が高い事例への対応に向けて~. 信学技報, 121(142), 17-22, 2021.

[4]白銀暁:単一症例を対象とした理学療法研究において科学性を高める方法論的工夫 -シングルケーススタディと n-of-1 試験デザイン-. 日本支援工学理学療法学会 第1回公開ミーティング, 2023/9/30.

車椅子・座位保持装置・シーティングに関する研究

車椅子や座位保持装置は、独力での移動や姿勢の保持が困難となった方にとって非常に重要な機器です。これらの機器を安全に利用するためには、客観的な評価による適切な機器の選定と適合が不可欠であり、また、それらがそもそも備えるべき機械的安全性を明らかにして、より良い製品の開発・供給に繋げていくことも必要です。そこで、これらに必要な評価・適合手法に関する研究(例えば[5,6,7])や、より安全な利用に向けた技術開発、機器の工学的試験評価に関するJIS・ISOなどの規格開発とそれらの普及に向けた研究などに取り組んでいます。

[5] 白銀暁: 座位保持装置に必要な理学療法評価と実用化が期待される評価技術. 日本義肢装具学会誌, 35(2), 109-114, 2019.

[6] S Shirogane, S Toyama, A Takashima, T Tanaka: The relationship between torso inclination and the shearing force of the buttocks while seated in a wheelchair: Preliminary research in non-disabled individuals. Assistive Technology, 32(6):287-293, 2020.

[7] S Shirogane, S Toyama, M Hoshino, A Takashima, T Tanaka: Quantitative Measurement of the Pressure and Shear Stress Acting on the Body of a Wheelchair User Using a Wearable Sheet-Type Sensor: A Preliminary Study. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(20):13579-13579, 2022.

補装具費支給制度に関する研究

障害等により車椅子や座位保持装置を必要とする方が、それを入手するための主要な手段の一つとして、障害者総合支援法における補装具費支給制度の利用が挙げられます。制度に関する詳細な説明は省きますが、座位保持装置については近年の技術発達による影響などから幾つかの問題が指摘されています。このような問題を解決し、制度をより良いものへと変えていくためには、問題をより明確化するための調査や、国外の先進事例や関連する他分野の取り組み等に関する情報の収集・整理が必要です。そこで、座位保持装置・車椅子等の姿勢保持に関連する種目の構造上の課題の調査[8]や、それらの支給状況の都道府県間の比較[9,10]などを行っています。

[8] 白銀暁. 補装具費支給制度の姿勢保持関連補装具における種目構造上の課題に関する市区町村調査. 国立障害者リハビリテーションセンター研究紀要, 38(1), 2018.

[9] 白銀暁, 我澤賢之. 補装具費支給制度における車椅子・座位保持装置等支給の地域間格差に関する単年度分析. 日本義肢装具学会誌, 37(1), 59-68, 2021.

[10] 白銀暁, 我澤賢之. 補装具費支給制度における車椅子・座位保持装置等支給の地域間格差に関する調査研究.日本義肢装具学会誌,  39(3), 246-253 2023.

 

ここに挙げた以外にも、福祉機器の、特に臨床評価に関する研究には、できる限り幅広く関わっていきたいと考えています。