スティーブンショア氏を囲んで(2006年7月)


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スティーブンショアさんのお顔です。緑色のTシャツを着ています。
スティーブン・ショアさん

座談会について

2006年8月1日、北海道浦河郡浦河町のはまなす学園にて、通園されているお子さんの保護者の方々とともにスティーブン・ショア氏を囲み座談会を行いました。



はじめに

河村:

本日はお忙しいところ、お集まりいただきまして、どうもありがとうございました。
私どもは、埼玉県所沢市にあります国立身体障害者リハビリテーションセンターから来ました。名前が長いので、なかなか覚えにくいと思いますので、今、 左から河村宏、スティーブン、八巻知子の並んでいる写真。 名刺をお廻しします。国立身体障害者リハビリテーションセンターに研究所がありまして、そこの河村と申します。今日は、研究所から三名参りました。

八巻:

八巻と申します。よろしくお願いいたします。

河村:

それから、あちらで撮影をしておりますは望月です。
そして、こちらはスティーブンショアさんと言いまして、ご本人は自閉症の方です。アメリカ人で、今は世界中を回って、いろんな国で自閉症について自分の体験をもとにお話をして、特に自閉症のお子さんをおもちのご両親を励まされたり、また、アスペルガーの自閉症の方たちと交流して、励まされたりしております。ご自身は、大学院に籍を置いて、自閉症の勉強をして、学位をとられました。
今回、日本自閉症協会が20周年の大会を開きまして、その記念講演の講師としてアメリカから呼ばれました。
スティーブンさんは、浦河に来たのは二度目です。私どもは今、浦河べてるの家や、浦河町役場と一緒に、津波とか大雨のような災害の時に、障害のある方や高齢者の方々をどういうふうに安全に避難させるか、その方法をずっと研究しています。彼も自閉症の人の、災害の時の備えということを一緒に共同研究しています。そういう関係で、彼はべてるの家の皆さんと交流したこともあります。
今回はスティーブンさんは、二度目の浦河訪問で、少し長く滞在されていますので、ぜひ、はまなすの皆さんとお話をしたいということで、役場のほうにお願いをいたしました。それで今日、初めて訪問でき、大変うれしく思っております。

今日、私どもが考えていますのは、はまなすの皆さんのお話と、スティーブンさんのお話と、だいたい半分ずつぐらい時間をとって、全部で一時間半ぐらいとらせていただきたいと思います。 間に通訳をいれますので、20分話しても40分になってしまいます。
スティーブンさんもきっとたくさん話したいことがあると思いますが、20分までお話をしてもらいます。通訳は私たちがします。その後、皆さんから、はまなすのお話をしていただきたいと思います。それから、最後に10分ぐらい、質問など意見交換というふうに、全部でだいたい1時間半ぐらいとらせていただきたいと思っていますが、いかがでしょうか。
では、そんな感じでお願いしたいと思います。最初に、簡単に皆さんのお名前を教えていただいて、それから、スティーブンさんのほうからお願いしたいと思います。

お母さん、職員さん方:

一同自己紹介

河村:

それでは、さっそくスティーブンさんからお話をお願いしたいと思います。

スティーブン:

(以下英語)こんにちは。皆さんにお会いでき、自閉症や様々な状態のお子さんたちを支援するために、ここに集まれたことをうれしく思います。
私は、自分の状態を必ずしも「障害」ではなく、「違い」とか「個性」といったものだと思っています。ですから、「障害」という言葉ではなく、「状態」という言葉を使いたいと思います。このような「個性」を生かしていくことが、子供たちが充実した人生を送るために大切だと思っています。
始めの18ヶ月は、私は普通に成長しました。そして、18ヶ月が経ったとき、(私は自閉症のことをドラゴンと表現しているのですが、)そのドラゴンが現れ、私に自閉症傾向が現れました。 ドラゴンのイメージ像です。
しゃべることも、コミュニケーションすることもできなくなってしまい、その他にも自閉症的な行動をとるようになりました。
私の両親はどうすればいいのか全くわかりませんでした。当時は、自閉症に関する情報は全くなかったのです。そのために、適切な診断を受けるのに4年もかかりました。
医者は、「こんな病気の子どもは初めて見た」と言い、家族から離れて施設に入ることを進めました。しかし、私の両親は、私を施設に入れようとはしませんでした。両親は私を学校に入れるように学校を説得しました。

そして、私が2才から4才の間に、両親は私たちが今日早期療育と呼んでいるものを始めました。両親が始めた早期療育の特徴は家庭をベースにしていました。そして、「音楽」、「体を動かすこと」、「感覚統合」、「読み聞かせ」と「真似」に重点を置きました。最初、母は私に母の真似をさせようとしたのですが、結局うまくいきませんでした。それで、母は私とコミュニケーションするために、今度は逆に自分が私の真似をする必要があると考えました。母が私の真似を始めると、私は自分の周囲の環境が分かるようになってきました。
教育において大切なことは、教える側が教わる側の人間との関係をあらかじめ作っておくことです。それは、教わる側が小さな自閉症の子どもでも、他の状態の子どもでも、大学の生徒でも同じことです。

1964年、私が4才のとき、私はようやく学校に入ることができました。 小学校に入ったとき、私は再び話すことができるようになってきました。
また、4才のときに、時計の中の動きに興味を持ち始めました。キッチンのナイフを使って時計を分解して、中のものを取り出して、それで遊んで、また時計の中に戻したりしていました。それでも時計はきちんと動いていました。
6歳のときに、私は普通の公立の幼稚園に入りました。私にとって、人との付き合いや、勉強は難しいことでした。他の生徒とどう付き合ったらいいかわからなかったし、先生も私にどう教えたらよいかわからないようでした。私はいつも算数と読みが他の生徒よりもできませんでした。8歳の時まで、先生は私に対して、絶対に算数ができるようにはならないと言っていました。でも、今私は数学ができます。小学校の6年生まで、読み書きの勉強はとても難しかったです。
中学年になる頃までに少しずつよくなってきました。クラスメートとの付き合い方がわかってきたし、先生が何を期待しているのかもわかるようになってきました。

もうひとつ、大切なことは、子どもの興味です。私の先生は、私が8歳のときまで、算数ができるようにならないと言っていて、たくさんの天文学の本が私の机の上に置いてあることが理解できませんでした。今日ではたとえ天文学の本であったとしてもその子が特別に興味をもつテーマであるならば、それを使って算数や国語の能力を伸ばすことができるということが先生たちにも理解されてきていると思います。 スティーブンさんと自転車の写真です。
もうひとつの私の興味は自転車です。私は、この二日間、自転車を借りて浦河の町を回りました。
自転車の手入れの仕方も勉強しました。大学時代は、人の自転車を修理したりして、稼いでいました。私は外国に行ったときはいつも、自転車に乗りたくて、自分が乗れる自転車を探します。
この自転車の話は、もう一つの興味の例です。いわゆる障害といわれるものをもつ人々が、充実した生活を送るために、興味というものは大切です。

自閉症や様々な状態の子どもは、言葉の理解の仕方が少し特徴的です。例えば、私はeの文字のことがとても気になりました。「have」にingをつけると、eがなくなって、「having」になると習いました。このeはどうなってしまったんだろうとすごく気になりました。
言葉の理解に関する他の例ですが、友達が、「ピザの気分だ」と言いました。私には、彼はピザには見えなかったし、ピザの匂いもしなかったので、その時は彼が何を言おうとしているのか、分かりませんでした。ですが、彼は本当は、「ピザが食べたい」と言っていたのです。
「猫舌」という日本の言葉は、多くの自閉症の人々にとって理解しにくい言葉だと思います。自閉症の人だったら「いいえ、私の舌は猫の舌じゃない、人間の舌です」と言うでしょう。
もう一つの私の興味は、音楽です。中学年の時はバンドに入っていました。そこで、音楽を通じて、友達と会話をし、グループに参加し、友達を作ることができました。
こういうわけで、私は今、自閉症の子どもたちに音楽を教えているのですが、子どもたちは音楽を通して、グループに参加し、友達を作れるようになってきました。

大学はとても楽しかったです。大学では友達ができました。大学では、学生が他の学生を教えるということはないし、いじめもありませんでした。大学は小学校や中学と違って、自由で、自分の関心のあることを自分で勉強することができるところなのです。ですから、大学は、他の人と違うところがある子どもたちにはとても居心地がよいところでもあるし、難しいところもあります。
自閉症の子どもは自分が自閉症であるということ、またその他様々な状態の子どもも、自分がどういう状態なのか知ることはとても大切だと思います。
自閉症や他の様々な状態の子どもたちは、自分が他の人と何か違うことを知っています。ですがそれは、決して頭が悪いわけでもなく、非難されるようなことでもなく、他の人と違うだけであるということを知ってほしいと思います。そして、この違いを生かすことで、充実した人生を送ることができるのです。
私は幸運にも5歳のときに、両親は私が自閉症であることを教えられました。最初は自閉症についてあまり知りませんでしたが、自分の違和感が自閉症によるものだということが理解できました。
このような様々な私の経験から、私は子どもに自分が自閉症であることを教える4段階の方法を考え出しました。これらは、うまくいっていると思います。

私は大学では、音楽教育と情報システムの二つを勉強し、音楽教育で修士をとりました。博士課程では、音楽教育の勉強を始めましたが、自閉症のためにそれがうまくいかないことがあり、自閉症についてより勉強できる、教育学に専攻を変えました。

また、大学は、奥さんに会ったところでもあります。彼女と結婚して16年になります。
私の奥さんは中国人です。自閉症の人は、異文化の人々とつきあうのが上手なのではないかと思います。なぜこのように思うかというと、他の文化から来た人は、同じ文化圏内の些細な違いがあまり気にならないと思うからです。つまり、自分と異文化の人の違いのほうが大きく、同じ文化の中での違いはそれほど感じないのです。自閉症の人が異文化の人々とつきあうのが上手だと思うもう一つの理由は、異文化から来た人というのは、自分自身が新しい社会に一生懸命溶け込む努力をしているため、人々の違いに理解があり、寛容だと思います。
自閉症の人にとって、異なる文化の人、年代が違う人、宗教の違う人など色々な違いのある人との関係が、かえってうまくいくということを示す研究はいくつかあります。

もうすぐ私のドクター論文が完成するのですが、そのテーマは、自閉症スペクトラムの子どもたちへのいくつかの教育方法を比較するというものです。子どもたちはみんな違うので、必要な教育方法も子どもによって違います。ですから、一人一人の子どものニーズにもっとも適した方法を提供するための研究をしています。
今、私は自閉症の分野でいろいろな仕事に取り組んでいます。自閉症について相談に乗ったり、講演をしたり、本を書いたりしています。自閉症の本を二冊出しています。一つは、「壁の向こうへ」という本で、日本語に訳されて出版されています。また、自閉症児に音楽を教えたり、先生に自閉症の子どもの指導方法を教えたりしています。それから、統計の授業もしています。


スティーブンさんの著書『壁の向こうへ』の表紙です。

一度自閉症になると、その人は一生自閉症です。たまに、「私はまだ自閉症なの?」と私に尋ねる人がいます。その都度、私は「はい」と答えます。
幸運なことに、私は日常の様々な困難なことに慣れることで、働くことができるようになりました。このような困難なことの1つに、感覚に関するものがあります。
例えば、カメラのフラッシュとかは、困難なことの1つです。河村宏さんは私がいるときはいつも、カメラのフラッシュをたかないように気をつけてくれます。
他に感覚に関する困難に、音の問題があります。また、明かりがまぶしすぎるのも嫌なので、帽子をかぶります。服もゆとりがあって、綿でできたものでないとだめです。だから、今私は河村宏さんが今着ているような服ではなく、このようにゆとりのあるものを着ています。
人の顔を見分けるのも困難なことの1つです。私は人の顔を覚えるのが、とても苦手です。例えば、ちかこにはすでに何度も会っていますが、他の人に会っても、その人とちかこの区別がつかないのです。ですが、その人がもっているもので、人を覚えられるようになってきました。もっているものとは、第一にその人の動き、第二にその人の音、三番目にヘアスタイルです。 河村宏さんは、とてもステキなひげをもっています。ですので、もう彼のことは分かりますが、もしひげをもっていなかったら、彼を覚えられなかったでしょう。
私は、自閉症やその他の様々な状態の子どもたちと、共に一生懸命努力し、高い目標をもつことで、他の人と違うところがある子どもたちは、例外なく充実した人生を送ることができるようになると信じています。
どうもありがとう。

河村:

正確に40分で話をまとめてくれました。これがスティーブンさんです。
それではこれから、少しリラックスして、皆さんのお話を伺いたいと思います。私が通訳をしますので、こんなことを話したい、こんなことを聞いてみたいなど、何でも結構です。できるだけ、みなさんのこともスティーブンさんにわかってもらえて、お互いによくわかりあえるよう、少しはまなすのことなどもお話いただければと思います。
何でも結構ですから、どうぞご自由にお話いただければと思います。いかがでしょう?どうぞ。

お母さん1:

うちの子は、今3歳の男の子ですが、やっぱり同年代の子どもがちょっと苦手みたいです。一緒に遊べないし。好きなものは数字、色、あとは時計をくるくるまわすとか。あと、車が大好きです。本当の車も運転したがるくらい好きで。 数字と色と温度計とか、そういうメーターみたいなものが一緒になったものがすごく好きです。一日に同じことを何十回も言うこともあって、こっちももうしつこくて嫌になっちゃうこともあります。

スティーブン:

アドバイスがあります。お子さんは自閉症のとても典型的な傾向があるようです。
お子さんは今おっしゃっていただいたような興味があるということですが、このような興味は才能です。友達を作ったり、学校で勉強したり、地域で暮らしていくために、この才能は大変役に立つことでしょう。
友達を作るのに、お子さんの時計への興味を私たちがどう生かしていけるか、考えてみましょう。お子さんは、他の子とあまり付き合いはないかもしれませんが、それは付き合いたくないのではなくて、どう付き合えばよいのかわからなくて不安だからだと思います。
手助けする手段としては、友達の作り方のお手本を見せたり、絵に書いて見せたりするという方法があります。興味を生かしながら、友達作りができると思います。

河村:

何度も見本を見せるとか。たぶん見本の中にはビデオなんかもあるんだと思うんですけどね。

スティーブン:

それも有効だと思います。また、時計など、特に興味のあるものに関係するパワーカードを使うのも良いと思います。

パワーカードの挿絵。

お母さん1:

それは違う状況でもできるようになるんですか?

スティーブン:

そうですね。これは色々なことに応用が利くようになると思います。

河村:

先ほど、スティーブンさんがパワーカードと言っていましたけど、パワーカードというのは、例えば、こういう風に友達を作ってる模様をひとつの絵に描いて、2、3行の短い言葉をつけたカードのことです。
このようなパワーカードというものを使って友達を作っている模様を見せるというのもいいんじゃないかということもスティーブンさんは言ってました。

お母さん1:

本人が嫌がることっていうのは、どうなんでしょうか。例えば、親としたら本人の先のことを考えてというのがあるんですけれど。無理やりやらせるのは・・・?

スティーブン:

時にはやらないといけないことはあります。教わったり学んだりしなければならないこともあります。子どもが嫌がるときに、なぜ子どもがそれを嫌がっているのかをまず理解してあげることが大切です。
子どもが嫌がる理由のよくあるものとして、時間の流れが理解できないことがあります。やりたくなかったり、やるのが難しかったりするときに、将来のために今これをすることが必要なのだとわからせることが必要です。
ですから、タイマーなどの道具を使って、時間の流れを理解させるのも一つの手です。お子さんは時計がお好きなのですから、良い方法だと思います。

河村:

他のときに彼が言っていたことと合わせますと、自閉症の人にとって、将来を類推するとか想像するということがとても難しいのだそうです。だから、「将来これが必要なんだよ」というつもりで親が教える必要があります。きちんと教えて上げれば、それがどういうときに必要なんだということが子どもにもわかってきます。そのときのタイミングがやっぱり本人にとってはすごく大事なので、それをどうやって理解できるようにしてあげるかというところがキーポイントでしょうということでした。

他にいかがですか?この方は知恵袋みたいな方ですから、ご自身の体験と、ずっと教育をしてきた体験と両方持っていますし、幅広い自閉症の子供たちを見てきています。もしお聞きになりたいことがありましたら、どうぞ。

お母さん2:

うちの息子が今年10歳になるのですけれども、今興味のあることはとにかくもう水なんです。
まあそれは、とりあえず受け入れてあげて過ごしているんですけれども。一番困っていることは、パニックとかという風にはあまり出なくて、体の不調として、すぐに出てくる。熱を出す。熱を出したら、脱水を起こす。脱水を起こして、意識がちょっとなくなったりとかすることがあります。あとは、今だったらちょっとつらいことや不安なことがあると、嘔吐みたいな感じで、吐き続ける。

スティーブン:

自閉症の子どもというのは、身体的にも病気をもっていることがかなりあります。身体的に病気のある子どもにとって、医学的な治療が有効なことがあります。自閉症を理解している良いお医者さんを見つけることが大切です。浦河に来る前に、札幌で自閉症のお子さんをもつ親御さんとお話する機会がありました。そこに先生もいらっしゃったので、その親御さんと連絡をとって、相談してみるとよいかもしれません。

河村:

浦河ではそういうときに、お子さんのケースの場合、どういうお医者さんに?

お母さん2:

精神科医で札幌の○○先生という先生に。  うちは、心臓がもともと悪いので、○○先生に紹介してもらっています。本当にすごく困ったときは何があっても○○先生に電話して、地元の日赤の小児科の先生が理解してくれているんで、そこに行きます。
小さいときから心臓の手術とかいろんなことをしているので、お医者さんが嫌いなんですよ。だから、そういうところの大変さがあります。なかなかコミュニケーションをとるのが難しいし、知的にはそんなに低くはないのかもしれないけど、そのコミュニケーション力の低さで体に不調を出してくるんで、なかなかこう教えたいなって思うこともなかなか進まなかったりっていうのが・・・。

河村:

そうしますといわゆる医学的なケアについてはある程度できているけど、もっと今度は教育学的なアプローチのほうで、何かできないかということですね。

お母さん2:

そうですね。

スティーブン:

いろいろな方法があります。浦河のことを私はまだよく知らないので、多分日赤の川村先生なんかはそういうことに関して詳しい人を知ってるんじゃないでしょうか。

河村:

実は昨日川村先生のところでパーティーをやったのですよ。

スティーブン:

ボストンに来れば、いろいろなたくさんの人をご紹介できます。

河村:

他のお母さん方いかがでしょうか?どうぞ。

お母さん3:

うちの息子は、さっきここにいた子で、今2歳なんですけれども、人の中に入っていけなくて、入っていっても30分ももたないんです。入っていったとしても、人と交わるんじゃなくて、さっきここでやってたように1人で押して遊ぶとか、個人の遊びばかりなんです。個人の遊びでも、座ってこう集中力を高めるような遊びをするのならまだしも、とにかく動いてばかりで、どうしていいのか・・・。

スティーブン:

提案があります。でも、その前に、とてもかわいいお子さんですね。
お子さんがよく動き回るということですと、感覚統合のセラピーが必要だと思います。 自閉症の子どもは境界を見定めたりするのが苦手なことが多いです。自分の体とか空間がどこから始まってどこで終わるのかという感覚をつかむのが難しいので、動き回ることで境界を見つけようとしているのです。ですので、作業療法などが役に立つと思います。

河村:

ちょっと付け加えますと、スティーブンさんがこの机を見て最初に言ったのが、「自閉症の子にとてもいいね」ということなのです。「何で?」って聞いたところ、この上をずーっと歩かせると、落ちてもそれほど怪我しないし、どこが境目だということを意識して歩けるという。だから、「これとてもいいね」と言っていたんです。たぶん、その感覚統合のトレーニングというのは、例えばそのようなものも含まれるんだと思います。

スティーブン:

私が勉強した方法の一つにミラー療法というものがあります。
子どもが自分の体の周りの感覚を身につけられるように先生が手助けします。子どもたちは高いところに上がると集中力が高まり、空間の感覚を身につけることができます。ミラー療法というのは、ミラー博士が開発した方法です。
ミラー博士は子どもがより集中しやすく、子どもに教えやすい方法を考えました。子どもたちをここにあるテーブルのような高いところに上がらせます。そして、例えばですが、こちらに来るように、あるいはあちらに行くように子どもに言って、順を追った動作をさせるのです。
まず、角に立たせます。そして、最初の動作として、高いところに上らせます。それにより、集中力が高まり、周囲の環境に注意がいきます。というのは、子どもは落ちないように気をつけないといけないからです。二番目に、自閉症の子どもはぐるぐる回りたがることがよくありますが、高いところに登ったことで、進む方向が限られます。前か後ろへしか進めません。三番目の動作は、先生とコミュニケーションをとりやすくするために、子どもの高さを先生の顔の高さにあわせます。
ウェブサイトでミラーメソッドの詳しい方法を紹介しています。

河村:

アドレスをみなさんにこれからお渡しします。

スティーブン:

ここでミラー療法のことがわかります。

八巻:

これは、スティーブンの名刺なんですけれども、ここに英語ですが、autismasperger.netというホームページを彼は作っていて、そこからミラー療法のことについて書いてあるホームページを探すことができるそうです。www.mirrormethod.orgという、そのミラー療法について書いてあるホームページもあるそうなんです。スティーブンの名刺をお廻しします。

河村:

このテーブルで、早速何かやってみるといいのではないでしょうか。スティーブンさんが、テーブルを見るなり、「これいいね。」と言っていましたからね。

スティーブン:

ミラー博士は下から2.5フィートの高さぐらいでこの療法をしています。実際、その高さだと子どもの顔が親の顔の高さと同じぐらいになるはずです。

河村:

75センチぐらいですね。そうすると大人とかなり顔が近くなる。

スティーブン:

その療法で使う段を通信販売でミラー博士から買って自分で組み立てることができますが、とても高いんです。

河村:

スティーブンさんが第一番目に、強調していたことですが、高いところに上がると注意力が高まる。集中力が高まる。そうすると、下ではくるくるくるくる回っていた子どもも、高いところに上がったというだけで、かなり集中ができるようになるというところを狙っているそうです。そこから始めるという手法だそうです。もっと詳しいことはウェブに、見られるそうです。残念ながら英語なんですけれどもね。

スティーブン:

ミラー療法のことは無料で教えてもらえます。

河村:

それはいいですね。ところでスティーブン、もっとみなさんと話をするために、もう一度ここへ来ませんか?

スティーブン:

もう一度来られたらうれしいです。

河村:

今スティーブンさんに聞いたのは、今日はとても時間足りないから、「もう一回来ません?」ということです。ボストンにみなさんが行くのは大変ですから。もしまた機会をいただけましたらもう一度来たいと思います。
彼とはこれから世界中の自閉症の人たちが、災害とか火事とか交通事故とか、そういうものからどうやって身の安全を守るのかという、自閉症の人を周りの人が守るというんじゃなくて、自閉症の人たちが、自分自身で能力を高めて、自分の安全を確保する。そのための取り組みを共同研究でやろうというふうに考えています。
その中でさっき、パワーカードという先ほど話しに出たものですが、彼はそのパワーカードというカードがとても好きで、とても有効だと考えているので、使い方をあちこちに広めています。それは、考え方がわかると自分たちで作れるんです。子どもが好きな絵とか、あるいはその場面に必要な写真とか絵とかを描いて、それと大事な言葉を短く書く。それで何かあった時にはそれを見るという風な形で、繰り返し覚える。彼は今そういうようなことを広めているんですが、それを、私たちはパソコンの小さいのみたいなPDAとか携帯電話で見たり聞いたりできるようなものを開発しています。「あれ?」と思ったときに使えたらいいなという風なことを、スティーブンと一緒に研究しているんです。

そういう風にしていって、本人の力を開発していくためだったら、彼は惜しみなく協力してくれると思います。 今日は急にお願いしてお時間いただいたので、時間がありませんでした。1時間半ぐらいだとたぶん、彼の言いたいことの100分の1ぐらいしか話せないと思うんです。たぶんみなさんおわかりだと思いますが、ものすごく体験が豊富ですし、それから自分の知らないことは知らないとはっきり言って、もっとわかるにはどうしたらいいかという手がかりを教えてくれたりします。こちらのはまなすの方にも、もう一度来てもらおうと思うのですがいかがですか?

お母さん一同:

お願いします。

スティーブン:

どうもありがとう。

河村:

それでは、もうちょっと、あと5分くらいいただいて、いかがでしょう?みなさん一言ずつでも、スティーブンさんへのメッセージがありましたら、おっしゃっていただければと思いますけど。
どうでしょう?まだお話になってない方は?いかがですか?

お母さん4:

日本での先生方に対する、自閉症とかアスペルガーとかの子どもの指導の仕方だとか、そういうのをもっと考えて欲しいと思います。子どもは先生によって変わるというのは、絶対言えると思うので。ここもそうですけど、やっぱり子供たちを指導していく先生方には、理解してもらわないと困るというのがあります。その点についてどう思いますか?

スティーブン:

そうなるとよいと思います。

お母さん5:

今日はじめて、短い時間だったのですけど、すごく勉強になりました。うちの子は小児がんで車いすなのですけど、とにかく元気なんですね。スティーブンさんもいろんなことがあったと思うんですけど、前向きに明るく強くいらっしゃるので、そういうところを見習いたいと思います。うちの子はすごくやんちゃなんですけど、すごくいろんなことを悩むこともあって。自分の病気を理解させて、きっと困難なこともこれからたくさんあると思うんですけど、強く生きてって欲しいなっていう思いがあります。
自分なりに自立というか、親のできることは色々やりながら、強く明るく生きていて欲しいっていうのと、もう一度ちゃんとやろうかなっていう気に本当なりました。本当にありがとうございます。

スティーブン:

ありがとう。

お母さん6:

本当は色々聞きたいことがあったんですけど、自分の中でも思うことはあるんですけど、結局まとまらなかったんで。
でも、ひとつだけ、長男が今年5年生、11歳になるんですけど、表情の出し方の違いでこちらも戸惑うことがあって。笑っているんだけど、心は笑ってないという部分が強くて、なかなか、わかるんだけどもわからないとていう部分です。で、ちょっと教えていただきたいと思いました。

スティーブン:

表情などによる、言葉によらないコミュニケーションはとても難しいです。それは自閉症の特徴でもあります。言葉によらないコミュニケーションを表現するのも苦手なんです。

河村:

お子さんは言葉で話せる言葉はあるんですか?

お母さん6:

あると言えばありますが、何でしょう?会話というような感じでのやりとりはないんですけれども片言ならば。

スティーブン:

まず、単純で基本的な表情を教えるとよいと思います。うれしい顔、かなしい顔、怒った顔など。そういう3種類か4種類の表情で。感情がうまく表現できないときは、その顔を子どもに見せます。これはうれしい顔、私たちはうれしい。こうやってうれしい表情というのを教えます。うれしい顔を見せてあげてください。お子さんが必要なのはこういう直接的な指導です。

お母さん6:

そういうのはたぶんわかると思うんです。学校の中でも、先生の方で、絵で出したものに、その言葉につける感じでやってはいるんですが。ものすごく家の中で、調子がよくないんだろうなと思うようなときも表情がこうバラバラになるような気がして。今までずっとそういう表現の仕方で重ねてきたわけではなく、やっぱり年間の中でもすごく浮き沈みの時期がある中で・・・。

スティーブン:

二つのことが考えられます。
一つは、いつもと環境が変わったときというのがあります。環境に変化があると、自閉症の人はとても動揺してしまいます。予期せず何かが変わってしまうと、困ってしまって、状態が悪くなってしまうことがあります。

お母さん6:

そういうのが笑った顔になるっていう?

河村:

分離。分離の原因ではないか?笑った顔という表現は知っているんだけれども、その笑った顔と実際には決して心地良くないっていう状態とが笑った顔で表現してしまうという分離が起こっている、その原因の2つ考えられるとスティーブンさんは言っていて、そのうちのひとつが、環境の、自分の思わぬ環境の変化というものがひとつの可能性なのではないでしょうか。

スティーブン:

環境と体調の両方をチェックする必要があるのではないでしょうか。ドクターに相談してみるといいかもしれません。

お母さん6:

分離っていう部分では、ものすごくそんな気がします。すみません。ありがとうございました。

先生:

私は勤めて、ここに来てまだ4ヶ月しか経ってなくて、もう本当にわからないことばかりなんです。先生とお会いできてとても嬉しく思います。
今日は時間がないとは思うんですが、私は音楽が好きなので、音楽での療法というか、コミュニケーションをとられているということなので、ヒントというか、この場でちょっと時間は足りないとは思うんですけども、何か教えていただければと思います。

スティーブン:

音楽療法は自閉症の子どもにとってとても強力な療法です。私は教えるときに、音楽を使って他者と関われるようになったり、社会的な関わりをもっていけるように、音楽がそのための道具になるように努力しています。
音楽の授業で私が教えるとき、子どもたちにお手本を見せます。実際にはいくつかの段階を踏みます。最初に、それぞれの子どもに私が、例えばですが、「ちかこはどこ?ちかこはどこ?」と歌います。そうすると、ちかこが「私はここ。私はここ」というふうに答えます。
こうすることで、子どもに他の子どものことを理解させることができます。また、その日に欠席している子どもの名前も呼びます。その子がいないことがわかると、「彼女はお休み。彼女はお休み」と歌います。自閉症の子どもたちに永続性の概念を育むことは重要です。たまたま今見えない子も、時々しか見かけないものも、存在し続けているのですから。子どもたちには、今日はそこにいなくても、彼らが存在していることを理解させなくてはなりません。
二番目にゲームをします。円になって歩くのです。歩き始め、止まり、また歩きます。歩いたり止まったりするゲームをすることで、子どもたちにスタート、ストップの概念を教えることができます。
小太鼓の挿絵。 もう一つは、子どもたちに打楽器を渡します。タンバリンとか小さいたいこのような打楽器を音楽を演奏するときに使います。音楽が始まると子どもたちは鳴らし始めます。そこで、共有という概念を子どもたちに教えます。楽器を演奏したあとに、他の子と楽器を交換します。たまに、楽器を交換するのを嫌がる子がいますが、そういう子にはどうしたらよいかでしょうか。子どもは、楽器を人に渡したり、共有するのが苦手です。そういうときにどうするか、今ちょっとやってみます。宏さんは自分の楽器をもっています。そして、楽器を鳴らしています。そして私が「はい、じゃあ交換しましょう」と言います。無理やりとろうとすると、彼は嫌がって、楽器を私に渡さないでしょう。そういう時は、さっと、すばやく取り替えます。このとき、二つの楽器は似ていないといけません。これが、子どもたちに共有、交換の考えを教える最初の段階です。まったく違う楽器だとうまくいきません。
もうちょっと周囲のことがわかっている子どもの場合には、音楽を演奏したり、いすとりゲームをします。子どもたちは歩き回って、先生が止まると子どもたちは座るというゲームです。
授業の終わりには、終わりの歌を歌います。私が「さようなら」とそれぞれの子どもたちに向かって歌います。そのとき、子どもたちは楽器を私に渡します。
重要なことは、子どもたちがみんな、その時間は一生懸命、参加するようにすることです。ただ座って、何かを待つだけの子どもというのはいません。
もう一つ、子どもたちに楽器の演奏の仕方を教えるということも、考えなければならないことです。もし、子どもたちがバンドやオーケストラに参加すれば、そこで、子どもたちに他の人との付き合い方や、グループへの参加の仕方を教えることができます。
私は子どもたちへの指導方法を色々と考えました。私の音楽の教え方も私の本に出ています。またここへ来たとき、自閉症のこどもの音楽のレッスンをご覧にいれましょう。
これは私の「壁の向こうへ」という最初の本です。

河村:

すいません、ちょっと長くなっちゃいました。では、次の方どうぞ。

先生2:

私は新日高町の児童相談センターの職員です。今日は貴重なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。もしきっかけがあれば新日高町の方にもいらしてください。

スティーブン:

OK.

お母さん7:

今日はどうもありがとうございました。色々なお話を聞かせていただいて、ありがとうございました。

スティーブン:

どういたしまして。

お母さん8:

今日はありがとうございました。もし機会があれば、次回実際にやってみてくれるということですけれども、授業風景のビデオとかあれば、是非見せていただきたいなと思います。

スティーブン:

私のレッスンの様子を映した短いビデオをウェブサイトで公開しています。ビデオでは、一人の生徒にリコーダーを教えています。

お母さん8:

ありがとうございます。

スティーブン:

どういたしまして。

お母さん9:

今日はどうもありがとうございました。私は3歳の女の子がいるんですけど、生まれてすぐ心臓に穴があるとわかりまして、大手術を受けて、ミルクも飲めなくて成長してしまったんですけど、やっぱり他の子と比べてしまうんですよね。自分の子の成長と他のの成長を。だけど、こういうところに皆さん来てて、こういう子もいる、こういう子もいると思って励まされて、ここに来て良かったなと今思っています。はまなすの先生方にも支えてもらって、色々相談して聞いてもらっているので、今とても助かっています。

スティーブン:

ありがとう。

お母さん10:

普段聞けないような、ためになる話を聞けて、本当に勉強になりました。ありがとうございました。

スティーブン:

どういたしまして。

河村:

それでは、どうしても何かこれだけ言いたという方がもしいらっしゃいましたら、最後にお願いします。これで、このあとスティーブンさんは、ボストンに明日立ってしまいますので。よろしいですか?
たぶんまた来られると思いますので、その節はまた事前に連絡いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。
今日は突然でしたけれど、ありがとうございました。

一同:

ありがとうございました。

スティーブン:

またね

スティーブン・ショアさんのホームページ(英語)
このHPにミラー療法へもリンクもあります。

【翻訳・編集: 望月美栄子、八巻知香子】

連絡先

〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1
国立障害者リハビリテーションセンター研究所
障害福祉研究部
Tel:042-995-3100内線2582
FAX:042-995-3132

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最終更新 2009年6月16日