研究内容

1. 高次脳機能障害における複数認知機能の同時障害のためのリハビリテーションの開発

言語と数学

最近、我々はfMRIによって文の理解及び計算における階層構造構築過程がブローカ野で実装されていることを見出ししましたが(Makuuchi et al., 2012)、これは言語と数学が共通の神経メニズムに依拠していることを示唆します。この発見から言語と計算能力を同時に刺激するリハビリテーション(記号列操作)が開発できる可能性があるとの着想を得ました。また、記号列生成の背後にある規則性(文法)を学習・運用すること(人工文法学習)が自然言語における文法の学習・運用に密接に関係することが神経科学的に解明されつつありますが(Friederici et al., 2006他)、これらの発見も記号列の操作が自然言語の学習・運用メカニズムに関係があることを示唆しています。 このように、言語の神経基盤が記号列という単純化した系でも動員されることは、言語のリハビリテーションが記号列という単純な系で実施でき、かつその効果が言語以外の認知機能(計算など)にも及ぶ可能性があること示唆します。記号列の操作は一般的に文処理や計算に比べ、より認知的負荷が低いものにしやすい、という利点があります。例えば、失語症者に記号列操作訓練を施して特定の文の理解が改善されたというDomineyら(2003)の先駆的研究があります。




言語と遂行機能

高次脳機能障害では多くの場合、遂行機能の障害が顕著です。遂行機能は実行機能、あるいは認知制御などとも呼ばれ、目標の維持や切り替え、情報の抑制/更新などを行うことで複雑な思考や行動を可能にする機能のことです。この認知制御の機能は、文の理解にも関わることが近年の研究で示唆されています(Novick et al., 2010)。文というのは単語の系列であり、単語が集まって句を形成し、句が集まって文を形成するというように階層的な構造を持っています。 したがって文を理解するためには、入力された系列を階層的に組織化する機能が重要です。失語症の責任領野のひとつであるブローカ野は、こうした階層的な組織化に関連しています(Koechlin & Jubault, 2006)。 それだけでなく、ブローカ野は遂行機能に関係するともいわれています(January et al., 2009)。 我々はブローカ野の働きに着目し、fMRIおよびTMSを用いて、文に代表されるような系列の階層的組織化と遂行機能の関係を明らかにしたいと考えています。本研究により言語と遂行機能の関係を明らかにすることを通じて、神経科学的に妥当なリハビリテーション技術、および遂行機能と言語機能の相乗的なトレーニング法の開発を目指します。




【研究発表用ポスター(画像クリックでpdf)】
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