研究内容

2. 口形提示の神経科学的有効性の検証

口形提示とは、失語症などでうまく言葉が出てこない患者に対し、視覚情報として発声時の口形を提示する手法のことをいいます。口形の提示により、乳児の母語獲得(Teinonen et al., 2008)や第二外国語の学習(Navarra 2007)を促進することが知られており、口形による視覚情報は、リハビリテーションにおいても重要なものであると考えられます。実際に、口形提示は臨床現場で日常的に行われ明確な効果が示されていますが、神経科学的根拠を示した論文はありません。行動実験の結果も臨床と乖離しており、失語症患者は健常者に比べ視聴覚統合能力が下がり、口形からの情報を得ていません(Schmid et al., 2006)。

また、失語症患者の視聴覚統合処理能力は、同じくリハビリテーションで行われる単語復唱テストの結果と関連があります(Schmid et al., 2006)。単語復唱テストは聞こえた音を発声する、すなわち聴覚と運動の統合処理であり、このことから視聴覚統合処理と聴覚運動統合処理に関連があることが示唆されます。視聴覚統合処理には上側頭溝(Hall et al., 2005, Matchin et al., 2014)、単語復唱テストには聴覚処理の背側経路(Kuemmerer et al., 2013)が関与しているため、これらの部位の活動に相互作用がある可能性があります。

以上より、経頭蓋磁気刺激(TMS)により失語症に関連する脳の機能を抑制した健常者の、視聴覚統合処理課題・単語復唱テスト遂行時の脳波を計測することで、失語症などの患者が課題を行っている時の脳活動を推定します。また、単語復唱テストの提示に口形があるときとないときでの成績や脳活動を比較し、①口形提示がリハビリテーションに有効か、②有効である場合は作用機序を神経科学的に明らかにします。





【研究発表用ポスター(画像クリックでpdf)】
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