2.移動の支援

支援機器の機能のうち、情報・コミュニケーションと並ぶ重要な機能として『移動の支援』がある。

ここでは、装具、義肢、車いすのほか、福祉車両について現状と課題及び今後の対応策について整理する。

 

(1)装具

現 状

○ 装具とは:腕(上肢)や脚(下肢)、胴体(体幹)の働きや動きに障害のある者が装着して、患部の保護、回復の補助、変形の防止、運動の補助などを目的として使用するもの。

○ 下肢装具の対象疾患

・ 脳血管障害後遺症による片麻痺は、137万人と言われており、今後も増加傾向と言われている。

・ その他、脊髄損傷不全麻痺、ポリオ、末梢神経麻痺、脳性麻痺等が対象。

 

開発のビジョン
○ 機能的な継手やデザインの追求
○ 例:油圧ダンパー下肢装具
・比較的歩行能力が高い人に適応がある。
 歩行の改善に有効である
 靴がはきやすい(チタン合金・・・肉薄)
 装着がしやすい(デザインの工夫)
 軽量である
 半既製品で迅速に対応できる
下肢装具の図
「第5回勉強会資料(国際医療福祉大学大学院教授 山本澄子氏)」より
「第5回勉強会資料(国際医療福祉大学大学院教授 山本澄子氏)」より

 

課題

○ 脳血管障害のリハビリテーションの在り方

 ・ 現状(次頁左図) 回復期には装具未使用(または不適合装具使用)の歩行訓練

  →回復度が低い。

 ・ 理想(次頁右図) 回復期から身体機能に合わせた装具の使用(装具療法)が効果的。

  →回復期に装具を使用することで回復度が高い。

   将来装具を必要としなくなるケースもある。

   不良な歩行パターン等による二次的な障害も抑制できる。

 

左図
脳血管障害のリハビリテーションの図
発症から急性期、回復期、維持期にわかれる。
発症から回復期中期は装具を使用しない歩行訓練やあり合わせの装具を使用。
回復期後期はご本人用装具の作成。完成までに2週間。
維持期は3年に一度の装具の作り変をする。

右図
望ましい装具処方の図
回復期前半ではここの使用者の身体機能にあわせた機能訓練用装具の使用(装具両方の実施)。回復期後半では、ご本人用装具を作成し装具を使用した歩行練習。維持期では、専門職による適合調整を行い、装具なし、あるいはより簡便な装具に変更する。

両図とも「第5回勉強会資料(国際医療福祉大学大学院教授 山本澄子氏)」より
「第5回勉強会資料(国際医療福祉大学大学院教授 山本澄子氏)」より

 

○ 装具の概念を変える必要がある

 ・ これまでの装具の概念・・・足りない機能を補う。

  →障害が固定してから支給。オーダーメイド品。

 ・ 新しい装具の概念・・・早期使用により機能の回復を目指す。治療目的。必要な時期に使用。

  →障害固定前に支給あるいは病院リハ室に配備。ある程度の汎用性がある半既製品。

○ 使用時期

 ・ 回復期、場合によっては急性期に使用・・・使用場所は病院が主体となる・・・医療保険

 ・ 維持期に使用・・・使用場所は自宅、地域が主体となる・・・障害福祉施策

○ 入手方法等

 ・ 補装具費として支給(回復段階にあっても暫定的に障害認定し、補装具費の支給で対応するなど)

 ・ 治療用装具として医療保険適用(治療の一環として位置づけるなど)

 ・ 病院リハ室に配備(リハビリテーション室の装具配備への助成など)

等が考えられる。

○ 治療者サイド(医師、理学療法士等)への情報提供や教育機関への働きかけが必要

 ・ 先端装具等の情報提供による普及促進。

○ 装具療法および高機能装具の適合調整費の設定

 ・ 高機能装具の適合調整費用に対する公費負担の検討。

 

(2)義肢

現状

○ 義肢とは:腕(上肢)や脚(下肢)を失った者が装着して、失われた外観や動きを取り戻すための器具機械。大きく分けて、腕(上肢)を失った者が装着する「義手」と、脚(下肢)を失った者が装着する「義足」がある。

○ 例えば、通常の義足歩行や立ち座り動作では、健脚側に負荷が大きく、長期間の使用により関節痛などの二次障害を生じる。現場職種等で活動性の高い方や健脚側にも問題がある方(変形性膝関節症等)が高機能義足を利用することにより、二次障害も抑制でき長く働くことができる例もある。

 

開発のビジョン

○ 先端的な義肢の例

「筋電義手」※移動支援機器ではないが先端的な義肢の例としてここで紹介する。

 利点:外観と機能の両方を備える。目視できる位置であれば把持可能、把持力(10kg)

 欠点:重い、断線による故障、巧緻性の低下、誤作動、操作音

  →バッテリーの軽量化、巧緻性の向上、静音設計等により、欠点の克服ができつつある。


    「高機能膝継手」
    「ハイブリッドニー」
  • 世界初の油圧+空圧+電子制御の組み合わせが利用者のQOLを向上。
  • 空圧+電子制御による遊脚相制御により、あらゆる歩行速度に瞬時に反応させるとともに、油圧(MRSシステム)による立脚相制御により、膝の安定性を高めている
  • 特許取得済み。全世界共通。
  • 国内においては薬事法の適用外。規格による安全性の担保を得るため、欧州の規格を取得。
  • 高額な製品は出荷量も少なく開発が進まない等の問題点がある。
ハイブリットニーの構造と機能の図
踵接地時に油圧をオンにして膝の安定性を確保、立脚後期には油圧をオフにしてスムーズな遊脚相への移行を実現。遊脚期にはマイコンが速度を検知し、歩行速度に合わせて義足の振り出し速度を調整。
「第5回勉強会資料(ナブテスコ兜沁ヮ幕ニ推進部長 児玉義弘氏)」より
「第5回勉強会資料(ナブテスコ(株)福祉事業推進部長 児玉義弘氏)」

 

(3)車いす

現状

○ いわゆる「標準型車いす」は時代遅れのもの

 ・ 車いすは全身性障害や両下肢機能障害など、比較的重度の障害者が使用する移動機器であるが、我が国においては1945年型のいわゆる「第二世代の車いす(右図)」が未だに多く、障害者等が体型に合わない車いすに無理矢理乗せられているケースがある。

 ・ 障害者が、長時間、快適に座り続けることを可能とするため「シーティング技術」という概念が発展してきた。「シーティング」には、医学的あるいは工学的等の専門的な関わりが必要。(右下図)



開発のビジョン

○ 最も重要な機能

 ・ Driving(軽い操作性)

 ・ Seating(座位の快適性)

 ・ Lifting(車載の容易さ)

○ 先端技術で「出来ない」を「出来る」にする

 ・ 重度の障害のある人こそ先端技術を必要としている。「出来る」力を最大限活かし、電動車いすを操作出来る技術の開発が重要。(下図)


右上図
1945年型の車いすの写真
右中図
シーティングの概念図
座る人と椅子の適合が重要。そのために、人の専門家であるセラピストと椅子の専門家である用具提供者の連携・協働が重要。
両図とも「第6回勉強会資料(パンテーラジャパン椛纒\取締役 光野有次氏)」より
「第6回勉強会資料(パンテーラジャパン(株)代表取締役 光野有次氏)」より
・重度障害者の自立移動の実現のための研究先端技術を用いた重度障害者の自立移動機器開発プロジェクトの概要図
障害者のできることを活かす技術として、非拘束非接触動作認識技術、不明瞭音声認識技術、力覚検出技術、微弱筋電検出技術をもちいたインターフェース技術を開発した。また、障害者のできることを拡げる技術として、全方向ステレオビジョン、遠隔支援技術、電動車いすシミュレータを開発し、安全と安心を促進する。
「第6回勉強会資料(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部長 井上剛伸氏)」より
「第6回勉強会資料(国立リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部長 井上剛伸氏)」より

・不明瞭な音声でも認識出来る技術(音声操作)

・運動障害のある方の動きでも認識出来る技術(ジェスチャー操作)

・微弱な筋電でも検出できる技術(筋電操作)

・微弱な力でも検出できる技術(微力操作)

 

・安全性を高め、行動範囲を広げるための研究

 ・ 危険を察知する技術(全方位ステレオビジョン)

 ・ 情報・通信技術と移動機器との融合(オンデマンドバス、交通システムとの連携)

 ・ 悪路走行、階段昇降が可能な技術(二輪走行)

 

・開発のプロセス

 ・ 技術シーズや障害者の現状を、具体的な開発課題の設定へとつなげる。当事者のプロジェクトの参加により新たな技術開発課題を設定し、より実用的なものへとブラシュアップしていく。

・重度障害者の自立移動の実現のための研究 重度障害者用電動車いすの開発プロセスに関する図
技術シーズと重度障害者の現状から対象者を絞った具体的な開発課題を設定するとともに、当事者のプロジェクトへの参加を促す。その上で、新たな技術開発課題の設定、電動車いすシステムの構築、対象者による評価を繰り返すことにより、開発を行う。
「第6回勉強会資料(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部長 井上剛伸氏)」より
「第6回勉強会資料(国立リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部長 井上剛伸氏)」より

○ 車いすのシート部分とベース部分(フレーム、車輪駆動部等)の切り分け

 ・ これまでの概念として、車いすは「車輪のついた椅子」という一体的なものであったが、身体への適合が必要なシート部分と、ベース部分とを切り分けて考える必要。(右図は座位保持装置のシートと車いすフレームを持つ車いすの例)

○ 座位保持装置の適応における指針が必要

 ・ 障害の状況に応じた座位保持装置や車いすシート部分の統一的な指針が必要

座位保持装置付き車いすの写真
「第6回勉強会資料(株式会社有園製作所 狩野綾子氏)」より
「第6回勉強会資料(株式会社有薗製作所 狩野綾子氏)」より

 

課題

○ 障害者等が体型に合わない車いすに無理矢理乗せられているケースがある。

〈車いす支給のシステムの見直しを検討〉

  ・ 車いすの基準告示の見直し

  ・ 車いすの規格や安全基準を整備し、一定水準の機器を支給

  ・ 「シート部分+ベース部分=車いす」の概念への変更

  ・ 「シーティング料」に相当する報酬の検討

 

○ オーファンプロダクツ(ユーザー数が少ない支援機器)への対応

 ・ 重度の障害のある人こそ先端技術を必要としている。

 ・ ユーザー数が少なく、企業の開発意欲が低い。

 ・ 企業の開発意欲を高めるための工夫が必要。



 

 

(4)福祉車両


現 状
○ 福祉車両のニーズ

・ 障害者が自ら車を運転することのニーズ。
  ・福祉施設や家庭において、送迎や外出を行う際の介護のニーズ
福祉車両のニーズに関する図
自操のニーズに関して、障害者にとって、自ら車を運転できることは自立への重要な要素であり、運転免許取得者も年々増加している。車いす使用者の場合、単に「車の運転操作が可能」というだけでなく、「車いすから車に移乗できること」や「車いすの収納ができること」も必要となる。
介護のニーズに関して、福祉施設においては、利用者を快適にかつ効率よく送迎することが求められ、高齢者や障害者(児)がいる家庭では、通院等での介護負担を軽減したい、また家族で自由に外出したいというニーズがある。
「第6回勉強会資料((社)自動車工業界福祉車両部会 児玉芳記氏)」より

福祉車両の販売台数の図
商品の拡充/改善、認知の向上により、福祉車両市場はこの10年間で約5倍に拡大した。特に、昇降シート車・回転シート車は約10倍に拡大、福祉車両の4割を占める。但し、自動車の国内市場に占める割合は約1%にとどまっている。(自工会集計値)
「第6回勉強会資料((社)自動車工業界福祉車両部会 児玉芳記氏)」より

○ 福祉車両の市場はこの10年間で約5倍に拡大。
・ ただし、自動車の国内市場に占める割合は約1%にとどまり、必ずしも大きな市場とはいえない。

「」第6回勉強会資料((社)自動車工業会福祉車両部会 児玉芳記氏)より

 

○ 福祉車両は数多くの種類を揃え、多様なニーズに対応している。

 

福祉車両の種類の図
自操式では、運転補助装置、車いす収納のための装置等がある。介護式では、リフト付きやリアのフロアを低床にしスロープを使って車いすのまま乗降できる車がある。また車いす(手動・電動)がそのまま運転席になる車もある。

福祉車両の種類の図
介護式でシートが回転したり、昇降するタイプがある。公共交通では低床バスやリフト付きバスがある。
「第6回勉強会資料((社)自動車工業界福祉車両部会 児玉芳記氏)」より

「第6回勉強会資料((社)自動車工業会福祉車両部会 児玉芳記氏)」より

 

 

開発のビジョン
○ 日本と海外との違い
・ 欧米では、総合的な制度の下で、障害者・高齢者の移動をサポートしている。
・ ハード面は架装メーカーが主体。

 

開発ビジョンに関する欧米と日本の比較を示す表
制度面では、欧米が免許取得の助成、福祉車両購入助成、公共交通手段(STS等)の充実があるのに対し、日本は自操式福祉車両への改造費用の一部助成のみである。ハード面では、欧米が独立系の架装メーカーが主体であるのに対し、日本では自動車メーカーが直接関与している。
「第6回勉強会資料((社)自動車工業界福祉車両部会 児玉芳記氏)」より

○ ハード面の商品改良/革新
・ 商品改良/革新により、一層の普及が見込まれる。
福祉車両への今後のニーズ動向に関する表
施設向けについては、現状では業務の必要に応じて購入しているが、今後、多様化する施設の業務効率改善や質の向上に寄与することや、利用者の快適性のいっそうの向上が求められる。個人向けでは、現状では介護で困っている人が購入しているが、今後、介護の質の向上や、より軽度な人への拡大が求められる。
「第6回勉強会資料((社)自動車工業界福祉車両部会 児玉芳記氏)」より
 

課題


○ 必要とする人に必要な移動手段(福祉車両)が行き渡るためのインセンティブ(助成金等)の充実。
・ 現状の優遇、助成等
〈福祉車両を必要とする人への購入助成又は貸付〉
助成:自操式のみ地域生活支援事業で対応、ただし助成額は約10〜15万円
貸付:生活福祉資金で対応、「障害者自動車購入費として200万円以内」・・・十分な周知が必要
【架装内容とプラス価格(概算)】
車いす兼用型のシート 50〜60万円
運転補助装置 20〜30万円
車いす用リフト 70〜100万円
車いす用スロープ 35〜70万円
回転シート 10〜15万円
昇降シート 30〜50万円
※どこまでを助成するか、支給対象をどう明確化するかの検討が必要
・ 福祉車両への税制面の優遇内容
・福祉車両の消費税非課税
・自動車税、自動車取得税の減免

5)今後の対応(移動の支援)

  1. 義肢、装具、車いす等については、現在、補装具として支給されているが、高度化、多様化する機能に合わせて見直しを行うことが課題となっている。
  2. 福祉車両については、その普及を図るための情報提供や助成の在り方について、関係方面との調整が必要。

 

(1) 規格基準等
  ○ 義肢装具の安全基準についての検討

  1. 医療機器との関係整理。
  2. 先行例であるISO(国際)、CEN(欧州)、ANSI(米国)の規格等との整合性。
  3. 支援機器安全基準の整備(臨床評価手法の確立)。
  4. 耐用年数決定のルール策定。

(2) 支給システム、価格設定
  ○ 支給基準

  1. 給付の対象とする範囲の検討等。
  2. リハビリテーション効果を考慮した適切な使用時期の検討。

○ 価格設定のルール

  1. 価格の実態や構造を調査し、価格設定のルールを検討することが必要。
  2. 流通や市場の状況。

○人件費コスト(処方料、適合技術料、フィッティング料、メンテナンス料)についての検討
  ○ 貸与(レンタル)方式の導入についての検討
  ○ 医療保険、介護保険との整理

(3) 普及・情報提供
  ○ 利用者等に対して助言・指導等を行う機関の在り方

  1. 補装具費支給システムにおける判定、処方、適合等の在り方。
  2. 更生相談所の役割と在り方。
  3. 医療機関等の活用。

○ 利用者への情報提供の在り方

  1. 機器を体験できる常設展示場の設置等が有効。

○ サービスの質の向上、人材育成