発達障害を、本人に「いつ」「どのように」伝えるのかということは、とてもデリケートな課題です。障害を伝えることの意義を確認しながら、本人への伝え方を考えます。
本人に診断を伝えることの意義
本人に診断を伝える目的は、本人が長所や短所をふくめていろいろな特徴をもつ自分自身について、誰よりもよく理解し、自信をもって前向きに生活していってほしいからです。
発達障害の人は、小さいころから集団場面で周囲と同じようにふるまわない、あるいはしたくてもできないために、注意されたり、しかられたりした経験が多いと思われます。そのために、「自分は悪い子だ」、「自分にはよいところなんかないのだ」と自己評価を下げてしまうことがしばしばあります。診断を本人に伝えるのは、悪い知らせを伝えるためではありません。これまでうまくいかなかったことはどうしてだったのか、またこれからどうすればもっと自分らしく、そしてよい結果につながるのかをきちんと理解し、これまでとはちがった視点で自分を見つめなおすきっかけにしてほしいからです。
本人に伝えるタイミング
こうした目的のために、「本人に最適なタイミングで」、「本人がわかることばで」、「本人が納得できる説明の仕方で」、支援者がもつ情報を本人と共有するためにおこないます。
以下のとおり、自身の障害を理解することが力になるような時機は、人生のなかで何度もおとずれます。
- まわりの同年代の子どもとのちがいに気づき始めた学童期
- 学業や友人関係につまずき自尊心が低下した思春期
- 進学や就職など適性に沿った進路選択に悩む青年期
- 職場での対人関係や仕事が思うようにいかない成人期
伝えるときの留意点
誰が、いつ、どのように伝えるかについては、本人にとってのタイミングを大切にしながら、周りにいる親などの支援者の気持ちや状況を十分に把握し、できる限り事前に関係者同士で相談しておくことが必要です。具体的な診断名には、本人や家族の思い込みが深くかかわる場合がありますので、事前に確認しておくことが大切です。相手の背景をよく理解しておけば、伝える側は緊張し過ぎることはありません。本人自身が普段から気づいている気持ちや行動の具体的な特徴を例にとって説明することで、スムーズに受け入れてもらえるでしょう。
伝えて欲しいこと
伝えるときに含めてもらいたいポイントを記します。
- 苦手なこと(短所)は別の方向からみれば強み(長所)でもあること
- これらの特徴は脳に関連した生まれつきの性質であるけれども、成長や経験によって変化していくものであること
普段どおり、否定的なことばは使わずに伝えましょう。また、周りに困っている人がいれば手助けをするのと同じように、自分の苦手なことやわからないこと、困ったことがあったときにはそれを周りに伝えればよいこともつけ加えましょう。
具体的な診断名を伝える時に、同じ診断名の人は多くいてもひとりひとり性格や個性がちがうことや、診断がある人とない人とははっきり区別できるものではなく、診断がない人のなかにも同じような特徴をもつ人が多くいることも伝えるとよいでしょう。口頭で説明するだけでなく、メモしたものを渡したり、絵や図を用いたりすると、理解しやすく記憶にも残りやすいかもしれません。