第375号(令和6年秋号)特集
特集2『障害者に関する防災・災害への取り組み』
自分でつくる安心防災帳 ウェブアプリ版のご紹介
研究所 福祉機器開発部長 硯川 潤
障害者は自身の身体機能を補うために様々な人的・物的支援を活用して日常生活を送っています.災害時は,これらの支援が一時的に利用できなくなり,日常の生活活動が妨げられるだけでなく,健康状態にも悪影響が及ぶ可能性があります.従って,活動の維持に不可欠な支援を洗い出し,その代替手段を発災前に準備しておくことが重要です.しかし,必要となる備えは個人の心身状態や生活環境によって大きく異なり,事前に漏れなく検討することは容易ではありません.そこで筆者はこれまでに,障害者が災害時の備えを考えるための,災害対策チェックキット「自分でつくる安心防災帳」を開発してきました [1].
同キットでは,図1に示す通り,障害者が自身の心身状態や活用する支援を確認し,災害時に必要な備えをリスト化するプロセスが,4段階のワークシートにまとめられています.シートデータは当センターのホームページで公開されており,自由にご利用頂けます [2].また,協力団体から印刷されたものも購入できます.使用方法は上記ホームページや当センターのYouTubeチャンネルで解説されています [3].紙媒体の販売実績は1万部を超え,自治体や地域の自治会,障害者団体等で,防災のための様々な取り組みに活用されています.
図1 自分でつくる安心防災帳
令和4年度からは,国立研究開発法人日本医療研究開発機構の補助を受けた研究が新たにスタートし,このキットを電子化して,より多くの方に活用して頂くことを目指しています.また,多くの利用データを蓄積することで,障害種別等に応じた災害時の課題の特徴を把握し,適切な備えを推薦する機能も追加する予定です.キットは,図2に示したようなウェブブラウザ上で動作するアプリとして利用できるようになります.しかし,そのためのウェブサーバを維持管理する必要が生じ,一定の費用がかかります.地域防災の現場では,少額のサーバ費用でも捻出が難しいという声が少なくありません.そこで,図3のような手のひらサイズのサーバを利用し,ワークショップ会場などの限定された範囲でアプリを提供できる仕組みも用意しています.
最近では水害の増加が目立ち,非常時に生活を維持することの重要性を意識する機会も増えています.災害対策と言っても何から手を付けていいかわからないという方は,是非この安心防災帳を試してみて下さい.
[1]硯川潤,"障害者の災害対策チェックキット ー備えを確認するための仮想演習ー.",リハビリテーション・エンジニアリング,32(2),pp.76-79(2017).https://doi.org/10.24691/resja.32.2_76(外部サイト)
[2]https://www.rehab.go.jp/ri/kaihatsu/suzurikawa/skit_02.html
[3]https://www.youtube.com/watch?v=ToK-KTVzMdM(外部サイト)
図2 開発中のアプリ操作画面
図3 ミニサーバの一例