コクリハニュース

第375号(令和6年秋号)トピックス

義肢装具ユーザーのフォローアップのために

研究所 義肢装具技術研究部 義肢装具士長 中村 隆

 義肢装具は障害のある方にとって日々の生活を送るうえで欠かせない用具です。しかし、義肢装具は使っているうちに壊れたり(破損)、身体に合わなくなってきたりする(不適合)ことがあります。不適合な義肢装具を使い続けると身体を傷つけたり、障害が悪くなったりする場合もあります。にもかかわらず、不適合な義肢装具をそのまま使い続けたり、修理や作り変えをしたくてもどこに相談をしたらよいのかわからないといった方々(一部では装具難民と言われています)が少なからずいらっしゃいます。この状況を防ぐためには専門職の積極的なフォローアップが大切です。

 今回、厚生労働科学研究「補装具費支給制度等におけるフォローアップ体制の有効性検証のための研究」(研究代表者:高岡徹 横浜市総合リハビリテーションセンター長)に芳賀信彦総長と私が研究分担者として参加し、課題解決に取り組みました。その成果の一部を紹介します。

1)パンフレット「義肢装具の効果的なフォローアップのために」

 現状の問題を未然に防ぐには、ユーザーや支援者が義肢装具の不具合や不適合を早期に知ることが大事です。そこで、義肢装具の破損や不適合とはどのようなもので、どのような影響を及ぼすか、破損や不適合を生じた際にどうしたらよいかを、チェックポイントとして簡潔にまとめたパンフレットを作成しました。このパンフレットはインターネット上で公開されていますのでどなたでも閲覧することができます。

2)義手オンラインミーティング

 上肢切断者にとっての義手は、切断者それぞれに価値観、使い方も様々で、日常生活ではこんな使い方をしていると、切断者から教わることもあります。日本の上肢切断者の数は他の障害者に比べて少なく、そのような情報を共有するにはユーザーを含めた横のつながりを構築することが大切です。そこで、義手に関する情報共有を目的とし、ユーザーと専門職が相互に情報発信を可能にする場として「義手オンラインミーティング」を5回にわたり開催しました。参加者は毎回160名前後で、医療専門職の参加者が最も多く、情報ニーズの高さがうかがえました。ユーザーやご家族の参加も徐々に増えました。

3)義足ウォーキング練習会

 下肢切断者にとっての義足は移動手段として日常生活に欠かすことはできません。しかし、義足ユーザーの退院後のフォローはこれまでほとんどなく、退院後の歩行能力維持はユーザー任せでした。その一方で、より良い歩行、よりきれいな歩容を望むユーザーもいます。そこで、義足ユーザーが“義足で歩く”ことを見直すきっかけとして、「義足ウォーキング練習会」を有志で開催しました。会場は体育館や近隣のスタジオ、航空公園を利用し、運動療法士や理学療法士が基本的な義足歩行訓練を指導しています。2か月に1回程度の頻度で開催しました。ユーザーのコミュニティにもなりつつあり、継続して参加した方の中には、歩容改善が認められた高齢義足ユーザーもいらっしゃいます。ランニング用のような特別な義足も必要ないので、このような練習会は全国どこでも実施できると考えています。

パンフレット「義肢装具の効果的なフォローアップのために」の画像とQRコード

二次元バーコードまたは以下URLからPDF(2.7MB)のダウンロードができます。(外部サイト:補装具の効果的なフォローアップに関するシンポジウム)
https://hosougu-followup.jp/img/program/flyer20240129_02.pdf

 

「義足ウォーキング練習会」 新緑の航空公園にて

 義肢装具が適切に、かつ継続的に使用されることは、ユーザーの利便性向上と公費の効率的な運用につながり、今後もフォローアップの重要性が増していくと思われます。

 今回ご紹介した「義手ミーティング」と「義足ウォーキング練習会」は研究終了後も継続して開催していますので、ご興味ある方は義肢装具技術研究部までお問い合わせください。また、これらの成果には国リハ研究所・学院の義肢装具士の方々に多大な協力をいただきました。ありがとうございました。