肢体不自由者の職業リハビリテーション−外傷性脳損傷に焦点をあてて−

更生訓練所 指導部 相談判定課


小熊 順子


【はじめに】
 当施設に入所した外傷性脳損傷者の職業リハビリテーションの実際について、当施設開設年である昭和54年に遡り調査し分析した結果を紹介し、今後の課題を考察する。

【対象と方法】
 対象は昭和54年から平成11年までの間に一般リハビリテーション課程に入所した128名である。 調査分析した項目は性別、入所年度別人数、受傷年齢、入所時年齢、受傷から入所までの期間、重度障害の割合、発作の有無、訓練科目、読書力検査(学年)、 算数学力検査(学年)、WAIS-R(VIQ、PIQ)、在所期間(月)、復帰形態(就職、施設、その他)からなる。調査分析した神経心理学的検査はBENTON視覚記銘検査、 MMS言語記憶検査、 TRAIL MAKING検査からなる。検査未実施者は分析対象から除外した。

【結果と考察】
 入所年度別にみると後半11年間は前半10年間の約2.4倍を占め、特に最近の6年間は総数の42.2%と増加していた。 男性は109名で85.2%、女性は19名で14.8%。平均18歳で受傷し、受傷から入所までの期間は平均5年、入所時の年齢は平均23歳であった。 1・2級の重度の者が約70%を占め、21.9%にてんかん発作がみられた。職能コースは43%で職リハコースの40.6%を若干上回り、訓練科目では3ワーク、4ワーク、職業適応の順に多くこれら3科目で40.6%を占めた。平均1年7ヶ月の在所期間の後、就職できた者は52.3%であった。
訓練コースと各項目との関連では読書力検査、算数検査、動作性IQ、在所期間、復帰形態においてそれぞれ有意差がみられ、 職能コースでは学力検査や動作性IQで有意にスコアが低く、在所期間も長くなり、家庭復帰や自営等の占める割合が多かった。
訓練コースと検査項目との関連ではBENTON、TRAIL MAKING検査においてそれぞれ有意差がみられ、「視覚的記憶」と「注意」の障害が職リハコース例においては有意に軽度であった。 就職率と障害等級との関連では軽度(5・6級)の者の就職率が90%と高く、身体障害程度が就職率に大きく寄与し、重症度との関連において重要な示唆を得た。

以上の結果を踏まえ、訓練効果を高めるために考えられる今後の課題を以下に示す。
@ グループ間の分析からグループ内での分析の掘り下げをする。
A 特に身体障害軽度の者、高IQの者で記憶や注意に問題を有する者に焦点をあてたより詳細な情報の収集と分析をする。
B 不適応行動との関連についても情報の蓄積を図っていく。



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