筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する医師による人工呼吸器に関する情報提供
−患者と家族を対象とした調査の解析−

研究所 障害福祉研究部
お茶の水女子大院
日本女子大院
信州大学医療技術短期大学部
東北大学
北村弥生
土屋葉
田中恵美子
玉井真理子
清水哲朗

【目的】
 筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)患者が侵襲的人工呼吸器(以下、呼吸器)を装着 するか否かを決定する際に必要とされる医療従事者による適切な情報提供のあり方を 明らかにすることを目的とする。

【対象と方法】
 平成11年度に国内3地域において、ALS患者12例に対し半構成法による面接調査 を行った。

【結果】
 1) 患者が医師から説明されたと述べた内容は、ALSについてが平均6.8件(分布4〜14件 )、気管切開と呼吸器についてが平均1.8件(分布0〜4件)であった。説明の時期は 呼吸障害があらわれた時が12名中10名であった。説明の時期が早すぎたと述べた患者 はいなかったが遅かったと述べた患者は2名あった。
 2) 医師からの情報提供に満足していると述べた患者は12名中1名であり、患者12 名中4名は診断告知や呼吸器の説明の際の担当医師の態度に対する強い不満が原因で 転院していた。残りの7名の患者と家族は医師の情報提供のあり方に積極的に不満を 述べなかったが、医師による呼吸器の説明内容に不足があると述べた。不足の内容は 、実感がわかなかった3名、医師から呼吸器の説明を受ける前に自分で本や他の患者 から情報を収集した2名、在宅介護方法や意思伝達方法など装着後の療養生活に関す る情報が不足していた2名、残存機能が失われることを知らなかった2名、医師から 勧められたALSの本を呼んで知り驚いた1名であった。
 3) 患者12名中10名は呼吸器について知った時に「ショックだった」と述べた。患 者12名中10名は呼吸器を装着するか否かを決めるのに多かれ少なかれ迷ったと述べ、 その期間は0から4年であった。装着者6名中5名は装着後にも葛藤を持ち続けたと 述べた。

【考察】
 1) 病名および予後の説明内容については医師と地域により差があり、多くの患者 は説明内容は十分でないと考えていることが明らかになった。したがって、呼吸器を 選択する際には最小限の情報を患者が得られる環境を整備することが必要だと考えら れる。
 2) 説明内容の不足よりも説明する医師の態度が不適切な場合に患者の不満が強い こと、呼吸器装着者の多くが装着の前だけでなく後にも葛藤を続けたことがわかった 。これらの結果から、診断の最初の段階から呼吸器装着後まで継続してカウンセリン グの視点をもった支援が必要であることが示唆された。
 3)呼吸器装着後に必要となる意思伝達装置や在宅介護方法などの療養生活について の情報は装着前から需要が高いが、提供者が確定していないことがわかった。療養生 活に関する情報を誰が管理するかは今後の検討課題であると考えられる。




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