レーザー変位計を用いた直立姿勢時身体動揺の計測

研究所 運動機能系障害研究部


野崎大地 ・中澤公孝・矢野英雄


【目的】
 ヒトの静止立位姿勢は、通常、足関節まわりに制御される倒立単振子 としてモデル化されることが多い。しかし、最近の磁気センサを用いた研究に よれば、外乱を加えない静止立位姿勢においても、頭部と腰部の動揺は必ずし も共変関係にあるわけではなく、時には相反的に動くことによって身体重心を 効率的に制御している可能性が提示されている。ただし、静止立位時の両関節 の動揺のオーダーは高々0.01radと非常に微小であり、従来の測定方法では、そ の動揺パターンについて十分に言及しうるデータを得るのは困難であった。本 研究は、静止立位時の足、股関節の微小な角度変位を、高精度レーザー変位セ ンサを用いて計測し、その両関節の動揺パターンについて詳細に検討すること を目的とした。

【実験方法】
 被験者は21--69歳の健常者22名(21-30歳:8名, 59-69歳:14名)で あり、事前に測定参加への同意を得た。被験者が30秒間の静止直立姿勢を保持 したときの脚部および体幹の鉛直線に対する角度変位をレーザー変位計(Keyence, LK2500)により測定した。


【結果・論議】

  1. 股関節角度の動揺量は足関節角度と同程度であり、股関節角度の動揺が直立 姿勢の安定性に及ぼす影響は無視できないことが示唆された。
  2. もし直立姿勢制御系が身体重心位置を一定に保とうとする制御則を用いてい るならば、脚部角度の増加は体幹角度の減少によって補償されるはずである。と ころが、実際は両者の間にはこのような相反的な関係はみとめられなかった。
  3. 一方、脚部角加速度、体幹角加速度の間には相反的な関係がみとめられた。 さらに両者の関係は、体幹角加速度≒-2×脚部角加速度と表され、身体重心の 加速度が0に保持されていると仮定したときの理論式にほぼ一致した。
  4. これらの結果からヒトの直立姿勢制御系は重心位置を一定に保つ制御則ではな く、重心の加速度を小さく抑えるような制御則を採用していることが示唆された。
  5. 本研究で測定した比較的高齢の被検者のうち2名については、脚・体幹角加 速度間の相反的な関係が乱されていた。この相反的関係を定量化することにより、 加齢にともなう直立姿勢制御能の減退を評価できる可能性がある。



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