更生訓練所 指導部 指導課
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中西勉
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網膜色素変性症をもつ弱視者へ屋外歩行に関するアンケートを試行し、その結果と視野の程度を比較、検討した。
対象者は当センターに入所中の網膜色素変性症をもつロービジョン者32人(男29人、女3人)、
平均年齢 40.4歳(SD13.0)であった。視力は0.01から0.9の範囲であった。回答の方法としては「はい」、
「いいえ」の二者択一としたが、一部を自由回答とした。質問対象期間はアンケート前の3ヶ月間を基本とした。
検定方法としては、得られたデータをもとに直接確率計算を行った。得られた結果を、対象者全体、
有効視野の程度から視野10度以下と11度以上に分けた場合、視野20度以下と21度以上に分けた場合の3つ
に分類して検定した。
視力はその逆数を常用対数で表した。log 10 (1/視力)で計算し、logMARの値とした。この値をもとに、
「視野10度以下と11度以上」と「視野20度以下と21度以上」のそれぞれについてt検定を行った。その結果、
「視野10度以下と11度以上」の logMARの平均に有意な差はなかった。同様に「視野20度以下と21度以上」の
logMARの平均にも有意な差はなかった。
アンケートの結果、いくつかのことがわかった。人や障害物への接触を多くの人が経験し、低い障害物への
つまづきをしていること、音を利用して周囲の状況判断をしていることなどがわかった。
また、歩きながら初めて訪れる建物を眼で探すことが困難であり、初めての道での単独歩行には不安を感じて
いることもわかった。そのため知らない道を歩きたがらないことが考えられる。低い障害物へのつまづきや、
人や障害物への接触も知らない道を歩きたがらないこともその理由の一部かもしれない。11度以上の視野の人が
よく眼や顔を左右に向けて歩行していることなど、いくつかの項目で視野の違いによって回答に違いのあるもの
もあった。その他、駅のプラットホームから転落や転落しかけたことのある人も数人いた。質問対象期間に転落
した人はいなかったが、受障からアンケート実施までに2人が1回ずつの転落を経験していた。また、転落
しかけた人は、質問対象期間では2人が1回ずつ、受障してからアンケートを実施するまでに3人が合計7回
体験していた。事態の重大さから考えると、転落、あるいは転落しかけた人の割合は高いと言えよう。
今回のアンケートの結果は、網膜色素変性症をもつロービジョン者への援助に資するものと考える。