運転免許取得困難ケースを免許取得へ導いたモデル的事例

更生訓練所

病院
熊倉良雄 ・竹之内康・菊屋喜与雄
並木勉
草野修輔・岩崎洋

【はじめに】
 昭和61年当時、身長83p・座高48.7pの骨形成不全症者に適合する自動車と運転用補助装置がないため、 免許取得を断念した元訓練生が、当センター修了時の判定会議と、その後の外来相談での助言を理解し、 忍耐強く待ち続け、また担当ケースワーカーのフォローにより再度自動車運転に挑戦した結果、新たに開発された 安全性と快適性を満たした車を購入し、運転免許を取得、活用するに至った経過について報告する。


【取り組み経過の概要】

1.入所中の経過
 S61年8月自動車訓練開始、運転操作力と運転姿勢に問題あり。当センター病院と研究所、防衛医科大学校病院で運転操作力を測定。 ディーラーと調整したが、安全面に保証がなく改造車の製作は否。S62年9月自動車訓練中止、今後の処遇を決定する判定会議で 「障害を補う車が市販された段階で再検討する」として就労を優先。S63年3月当センターを退所。
2.外来相談の経過
 H4年11月担当ケースワーカーの依頼で当自動車訓練室へ外来相談に来室。他の訓練生の持込み車で運転能力検査を実施。 適合性に問題があるため、さらにハンドル操作力の軽い車が市販されるまで待つこと等を助言。H10年11月再びケースワーカーの依頼で 外来相談に来室。頚髄損傷者用に開発された車で検査を実施した結果、適合性は良好。H10年12月当センター病院で受診し、 自動車運転に問題はないか検査を受ける。また、埼玉県運転免許センターで適性相談を受ける。同月、当センターの医師、PT、 自動車訓練職員で検討会を実施。なお、今後の自動車訓練が受けられるように、再入所の必要性について自動車訓練室を所管する職能部に進言。 部課長は快諾し調整にあたる。
3.入院中の経過
 H11年2月当センター病院に入院後、再び医師、PT、自動車訓練職員で検討会を実施。運転姿勢の安定、運転疲労の軽減を 目的にPT室にて本人専用の運転座席を作成する。これまでの全ての検査結果を伝え、本人が障害を補う車を購入して、 運転免許の取得に挑戦するか否か判断を求める。H11年3月車の購入を決断する。本人専用の運転座席の仮合わせに医師、PT、 自動車訓練職員が立会い適合性を確認する。
4.再入所中の経過
 H11年10月ベース車が完成。本人と専業メーカーへ出向き運転用補助装置の操作位置などを決定。H11年12月埼玉県運転免許センター に改造した車を持込み運動能力の検査を受け合格。その後、訓練は順調に進みH12年4月埼玉県運転免許センターにて運転免許試験に合格。 H12年7月福祉工場の職員として就職。

【まとめ】

本事例が運転免許を取得し、社会復帰できた背景として次のことが考えられる。
@本人に運転適性があったこと。センター側の助言を理解し守ったこと。自動車の購入を決断したこと。
A当センターは、担当のケースワーカーがしっかりとフォローしていたこと。一つの機能体として各部門が役割を果たしたこと。
B運転免許センターは免許事務を適正に処理したこと。

 なお、本ケースのように身長が極端に低い者で、免許条件に自動車の種類の限定が付されなかったのは、我が国初であり、 身長の低いことを理由として一概に小型の車に限定するのではなく、身体機能に適した車と装置の選択をすることが重要であることを 示すモデル的事例である。




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