国リハニュース

第373号(令和5年秋号)特集

特集『聞こえのリハビリテーションとコミュニケーション支援』

ろう者である私の職場環境

自立支援局 理療教育・就労支援部 就労移行支援課長 会田 孝行

 国リハで仕事を始めて今年で31年目ですが、情報機器の発展などにより、採用時と比較して、随分と仕事がしやすい環境になり、隔世の感があります。そこで、ろう者の私が仕事をするうえで役立っていることをご紹介いたします。

1 電話リレーサービス

 「電話ができない」、このことで地団太を踏む思いを何度したことでしょうか。ほかの人にお願いする方法もありますが、それでは自身が主体ではなくなるだけではなく、誰に、どのようにお願いするかエネルギーを要します。また、今すぐに連絡をしたくてもお願いできる人が誰もいないということもよくありました。そんな悩みを解決できたのは電話リレーサービスです。令和2年6月「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」が制定されて開始したものであり、スマホ、PCなどを利用し、カスタマーセンターにいる通訳オペレーターを通じてやりとりをします。私は手話をメインに使用していますが、チャットでも対応ができます。昨年度から、業務中もPCで利用できるようになりました。手話、文字通訳を介してのやりとりのためタイムラグが生じますし、電話でのやりとりに慣れていないのでとまどうことがありますが、メール、FAXと違い即答性があることに、初めて利用した時の感動は忘れられません。また、誰にお願いしようか、どのようにお願いしようかと悩むことが無くなりました。

電話リレーサービスの写真

2 メール、チャット

 以前は外部との連絡はFAXがメインであり、各部署にも内線FAX設置の要望を出したこともありますが、メールの普及に伴い、内外部との連絡が容易になり、業務の連絡が効率的になりました。ただ、大事なのはface to face、「メールを送りましたよ」「メールを受け取りました」こうした直接のやりとりを大切にしたいと考えています。

3 手話通訳者

 会議や打ち合わせなどの時は手話通訳者に依頼したうえで出席いたします。手話通訳者がいない場合は、情報が入らず意見も言えずで、自分という存在を真っ向から否定されたような気持になるほど、手話通訳者の存在が重要です。ただ、手話通訳者の確保に時間を要したり、突発的な案件の時に確保できないこともあり、人材が不足していることが頭の悩ませどころです。

「朝の連絡会」手話通訳担当表の写真
手話通訳の写真

4 音声文字変換

 必要な時にすぐに対応ができるように手元にスマホ、ipadを置き、「UDトーク」「音声文字変換」などのアプリを利用して、音声を文字に変換することができます。聴者の方はマイクに向かって話すことに慣れないかもしれませんが、最近は誤変換率が減少し、とてもわかりやすくなったので、今後使う機会が増えるかと思います。

音声文字変換の写真

5 筆談

 原始的な方法かもしれませんが、筆談も大事なコミュニケーションツールです。いつでも対応できるように手元にメモとペン、簡易筆談器を備えています。

筆談グッズの写真
筆談の写真

6 手話

 聴者の皆さんは外国に行き、自分の知らない言語に囲まれた生活をした時にどのような気持ちになるでしょうか。音声言語に囲まれて仕事をしている私は、まさしく毎日似たような環境にいます。異国で日本語を聞いた時に安心感を得られるのと同様に、私も手話ができる方に会うと安心感が得られます。何気ない会話や相談ができる環境は、円滑に業務を進めていくことで大事なことです。そのため、手話ができる職員が一人でも多くいると心強いです。嬉しいことに今の課員の皆様からの申し出で、毎朝一文だけの手話の勉強会を実施しています。塵も積もれば山となる、半年も経過すると語彙が増えて、それが職場環境の改善につながっています。

 機器が発展しても利用するのは人間。人とのつながりを大事にし、今日も国リハのあちこちに顔を出しながら、業務に励んでいます。

毎朝一文の手話勉強会の写真