〔研究所情報〕
認知障害者を支援する
携帯電話アプリケーション
研究所 障害工学研究部 研究員 中山 剛


1.はじめに

 研究所障害工学研究部では平成14年度から高次脳機能障害など認知機能に障害のある人のための支援機器の研究を行っています。独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構国立職業リハビリテーションセンターおよび明電ソフトウエア株式会社とともに、三者で共同研究を実施しており、その成果はPDA(Personal Digital Assistant、携帯情報端末)用ソフトウェアとして市販化されています(参考文献(1))。開発したPDAソフトウェアの有効活用例も報告されていますが(参考文献(2)から(4))、その一方でPDAだけではなく携帯電話でも利用したいという要望が多く寄せられました。以上を背景に、高次脳機能障害者など認知機能に障害のある人を支援する携帯電話アプリケーションを研究開発しました。


2.開発した支援アプリの概要

 手順支援機能、スケジュール機能、アラーム機能の3つがメインとなる機能です。更にデータ編集できる機能もあります。図1が支援アプリを立ち上げた際の携帯電話の画面の例です。そのうち手順支援機能が本支援アプリの最大の特色です。高次脳機能障害者などの認知機能に障害のある人の中には、記憶障害、注意障害、遂行機能障害などが原因となって、作業の手順をなかなか覚えられなかったり、すぐに忘れてしまったり、作業の手順を飛ばしてしまったり、作業の最中に混乱してしまったりする人がいます。そのような認知機能に障害のある人に対して、支援アプリが手順を1ステップずつ表示することで作業の遂行を支援する機能が手順支援機能です。手順表示の際、認知機能に障害のある人に対して分かりやすいように、文字、メモ、写真、音声、動画などで表示することができます。また、操作がなるべく簡単になるように、決定ボタン(十字キーの真ん中のボタン)を押すだけで次の手順ステップに進むようになっています。支援アプリの最大の特徴はこの手順を携帯電話で編集ができるという点です。コピー機の操作の手順例を図2に示します。また、アラーム機能のオプション機能として、動作完了報告メール送信機能があります。アラーム機能で設定した時刻に支援アプリの利用者(認知機能に障害のある人)が支援アプリの手順支援機能を完了すると、登録したメールアドレス(ご家族などを想定)へ動作完了の報告メールが自動送信される機能です。
 なお、現時点ではNTTドコモ社の携帯電話のみに対応したアプリとなっています。すなわち、KDDI社(au)やソフトバンクモバイル社などの携帯電話には対応していません。データの保存にSDカードを利用していますのでSDカードに対応していない携帯電話では利用できません。また、いわゆるスマートフォンタイプの携帯電話にも対応していません。NTTドコモ社の903iシリーズあるいは704iシリーズ以降のスタンダードタイプの携帯電話の広い範囲で対応しています。


3.おわりに

 支援アプリの研究開発を更に推進し改良を行うため、認知機能に障害のある方に利用して頂いて更に多くのご意見を頂くため、無料でダウンロードできるホームページを開設しました(※注1)。平成22年6月現在、障害工学研究部のホームページから支援アプリのダウンロードサイトへ移動できるように準備しています(※注2)。
 本支援アプリの研究開発にあたり高次脳機能障害など認知機能に障害のある当事者やご家族、関係者から数多くのご意見やアドバイスを頂戴しました。ご協力を頂いた皆様に厚く御礼申し上げます。なお、本研究の一部は財団法人テクノエイド協会の福祉用具研究開発助成事業の助成を受けて行われました。

 ※注1:支援アプリをダウンロードする際のパケット料金は必要です
 ※注2:研究所障害工学研究部のURLは下記の通りです。
     http://www.rehab.go.jp/ri/rehabeng/renghomej.html


【参考文献】

(1) 明電ソフトウエア株式会社,高次脳機能障害者のリハビリ・生活・就労支援ソフト「メモリアシスト」,available from <http://talkassist.meidensoftware.co.jp/ma/index.html>(accessed 2010−06−25)
(2) 中川良尚ら,著明な記憶障害を呈したEBウイルス脳炎症例に対する認知リハビリテーション,認知リハビリテーション,新興医学出版,2006,p.113−119.
(3) 工藤則之,メモリアシストの活用−福祉機器・福祉用具の最新事情−,ノーマライゼーション障害者の福祉,28(8),2008,p.33.
(4) 中山剛,高次脳機能障害者の職業訓練や就労の支援機器,福祉介護機器technoプラス,日本工業出版,2(11),2009,p.7−11.


(図1)支援アプリの立ち上げた際の画面例
図1 支援アプリの立ち上げた際の画面例
 
(図2)手順支援機能を利用している際の携帯電話画面の例(コピー機の操作)
図2 手順支援機能を利用している際の携帯電話画面の例(コピー機の操作)