〔国際協力情報〕
第10回 障害統計に関する
ワシントン・グループ(WG)会議に
出席して
研究所 障害福祉研究部 北村弥生


 2010年11月3日から5日までルクセンブルグにおいて障害統計に関する第10回国連のワシントン・グループ(WG)会議が開催され、江藤文夫局長と共に出席いたしました。同会議には、第1回には佐藤徳太郎元総長、第7回には江藤文夫局長、第8回には寺島彰元研究所障害福祉部長が出席し、国リハが継続して情報収集を行っています。第10回には35カ国の統計部門と国際機関からの代表を含めて合計55名が参加しました。WGは2001年6月にニューヨークで行われた障害の計測に関する国連の国際セミナーの結果、国際比較に利用できる障害計測法開発の必要性が認識され、設立が計画されたものです。
  WGでは、ICF(国際生活機能分類)の概念に基づいて障害統計のツールを開発するための議論から始め、すでに6つの基本機能(見る、聴く、歩く、コミュニケーション、思い出したり集中したりする(認知)、上肢機能)に関する核となる各1個の質問群(短縮質問紙セット)と6つの基本機能に関する2個から9個の質問群(拡大質問紙セット)が策定され、ヨーロッパ6か国、ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)6か国、南米5か国で行われたフィールドスタディの結果が報告されました。拡大質問紙セットには上記の6つの基本機能に加えて、精神、痛み、疲労の機能も採用され、さらに、ICF−CY(国際生活機能分類 小児青年版)に基づいた小児・青年への対応、施設入所者への対応、環境アセスメント項目の追加など、まだまだ策定作業は続きそうです。環境アセスメントの中には災害避難への配慮も考慮されていました。
 質問項目だけでなく調査方法の統一も検討され、20例程度への質問項目と関連項目から成る半構造化面接調査(コグニティブ テスト)と1000例程度の面接調査(フィールド テスト)の方法を、国勢調査の整備が十分でないESCAP諸国に研修するプログラムの実施結果も報告されました。
 2006年12月の国連での障害者権利条約の採択に伴い、国際比較に耐える障害統計の必要が切実となり、国勢調査に採用される障害に関する質問項目を策定することが目標になっています。ESCAP諸国の障害統計への関心は、それに先立ち、2003年に「アジア太平洋障害者の十年(1993-2002)」で合意された「びわこミレニアム・フレームワーク」に基づくとのことでした。しかし、参加国により発表された質問項目の使い方は各国の事情に応じて多様で、回答の選択項目のどこからを「障害」と見なすかについても検討中でした。日本でも、全国障害児・者実態調査(仮称)の冒頭では、対象者の定義12項目のうち、WGの短縮質問紙セットから6問と拡大質問紙セットから3問が微修正して使われています。
 さて、今回の会議が催されたルクセンブルグはフランス、ドイツ、ベルギーの間に位置し、国名の由来も「小さな城」という神奈川県ほどの面積しかない小国で、人口50万人にすぎません(神奈川県の人口は870万人)。しかし、購買力平価ベースでは世界一位で、ヨーロッパにおける情報通信産業の中核だそうです。落ち着いたヨーロッパの田舎の風情を残し、住み心地のよさそうな印象でした。会議主催者はユーロスタットEuroStatという欧州連合の統計部門で、800人の職員がいるというオフィスは、街の中心からバスで10分程に位置する新興ショッピングセンターの2階から4階を占め、外観からは国際機関と思えなかったのにも驚きました。


<短縮質問紙セット私訳>

  1. 眼鏡を使用しても、見えにくい
  2. 補聴器を使用しても、聴きとりにくい
  3. 歩行や階段の上り下りがしにくい
  4. 通常の言語をつかってのコミュニケーションが難しい。たとえば、人の話を理解したり、人に話を理解されることが難しい (「通常の言語」は多民族国家における母国語を意味するが、手話も含めて考えられているかどうかは未確認。ただし、コミュニケーション項目の拡大セットには、「手話を使いますか?」の設問が別にある。)
  5. 思い出したり集中したりするのが難しい
  6. 入浴や衣服の着脱のような身の回りのことをするのが難しい


参考文献
第7回会議参加報告。江藤文夫、国リハニュースNo.289
http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/No289/3_story.html



(写真)休憩時間の会議室
休憩時間の会議室

(写真)ユーロスタットのオフィスから階下のショッピングモールを見る
ユーロスタットのオフィスから階下のショッピングモールを見る。