半側空間無視や注意障害の定量的評価および、
症状改善のための新しいリハビリテーションの開発


2種類の選択反応課題

 PCディスプレイ上に配置したオブジェクトに対し、任意の順序で選択する能動探索課題と、点滅するオブジェクトを選択する受動探索課題の2条件にて実施した。この2つの課題は、探索対象であるオブジェクトの空間的配置は同じだが、両課題で動員される注意ネットワークが異なると考えられた。我々は特徴的な2症例を対比することで、損傷部位に応じた無視症状の特徴が課題成績に反映される可能性があることを明らかにした。


 

 また、無視症状を空間性注意の停滞として捉える視点に立てば、回復過程を考察する際に注意機能との関連を考慮することは重要である。この図は受動探索課題における反応時間の空間分布にて無視症状(反応時間の左右比:L/R ratio)と注意障害(反応時間の平均値:RTmean)の把握を試み、その経過を示した。重症度毎に6症例を並べ、さらに各症例のリハビリテーション経過に伴う変化を見ると、①全般的な注意機能の低下②右空間への注意の自動配向(左空間の反応低下)③左空間への注意再定位の障害(左空間への部分的な反応低下)という変化を示していることが分かる。


探索課題中の視線計測

USNの回復過程では、病識の定着に伴い、左空間への注意配分による代償戦略を採る症例がいる。点滅したオブジェクトを注視する課題では、USNが重度な症例では、明らかな非無視空間への視線偏向を認め、無視空間のオブジェクト点滅を追視できない。一方、軽微な無視症状を示す症例において、課題開始前に無視空間への意図的な視線偏向を行う傾向にあった。この意図的な無視空間への注意配分は前頭機能の過活動を伴う代償戦略であることを脳波計測にて明らかにした。日常生活を送る上では適度な代償戦略の活用は不可欠であるが、その反面今回の結果から、過剰な代償戦略により易疲労性や作業効率性の悪化に影響を及ぼす可能性も考えられた。
(Takamura Y, Imanishi M, Osaka M, Ohmatsu S, Tominaga T, Yamanaka K, Morioka S, Kawashima N: Intentional gaze shift to neglected space: a compensatory strategy during recovery after unilateral spatial neglect. Brain 139: 2970-2982, 2016)


画像や動画提示中の視線計測

 さらに実際的な視野探索の側面に焦点を充てた評価方法として、図に示すような左右反転画像や動画を用いた注視点分析を試みている。通常は、画像を左右反転させると注視対象の位置に応じて注視点も反転した分布を示めす(上段)。一方、無視症例(下段)では、右空間に注視対象が存在する場合には無視なし症例と類似した視線分布を示すものの、画像を左右反転することで注視対象が左空間に配置されても注視点は右空間に留まる。ただし、興味深いことに画像内容に応じて視線分布が異なるため、リハビリテーションに応用できる可能性が考えられた。


 その他、症例に好意的感情を誘発する情動喚起画像を提示することで全般性注意の惹起と左空間探索の手がかりを与えることを試み、良好な変化を認め症例報告を行った。


慢性化抑止を企図した経頭蓋直流電気刺激と視覚刺激併用介入の試み

 無視症状の慢性化には側頭葉深部白質損傷による腹側注意ネットワークの停滞が影響すると報告されている。そのような慢性化症例に対し、停滞経路の活動惹起(受動的注意の底上げ)を企図した視覚刺激と経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の併用介入を行い効果検証を実施している。