2.支援機器の分類

障害者の生活を支援する技術があり、それを製品化したものが支援機器であるが、ペースメーカーや人工内耳などの医療機器から、シャワー付き便座や低床バスなどのユニバーサル製品まで幅が広いことから、その考え方を整理するとともに、制度的なアプローチの仕方を考えていく必要がある。

 

(1)身体に対する密着度による分類

支援機器の分類にはいくつかの観点があると考えられるが、下図に示すように、身体に対する密着度による分類がある。

身体に一番近い機器として、義肢装具や入歯、人工肛門用のストーマ装具等が挙げられるが、ペースメーカーや人工内耳などの身体に埋め込む医療機器は更に同心円の中心部分に分類されるべきものかもしれない。

次の同心円には、車いすや補聴器、眼鏡、コミュニケーション機器、自助具などの障害者等が自ら使用する機器が分類されている。

その周囲には介助者が使用する介護用品の分類となっている。具体的には介護用の電動ベッドや移乗用リフト等が挙げられるであろう。

さらにその周囲に住環境があり、廊下の幅や扉の開口幅、スロープ、手すり、シャワー付き便座、ホームエレベーターなどが例として挙げられる。

最も外側には生活環境全体が取り巻いている。これは、道路や公共交通機関をはじめ各種施設、職場環境など、公設・民間を問わず社会的インフラ全体が含まれる。

 

身体に対する密着度による支援機器の分類
利用者に近い順番で、義肢・装具、車いす・シーティングエイド、コミュニケーションエイド、介助用具、介護用品、住環境、生活環境があげられる。
第6回勉強会資料(パンテーラ・ジャパン株式会社代表取締役 光野有次氏)より
「第6回勉強会資料(パンテーラ・ジャパン(株)代表取締役 光野有次氏)」より

 

(2)支援機器の機能による分類

次に、下図のように、支援機器の機能別の観点からも分類される。「情報・コミュニケーション支援機器」と「移動支援機器」に大別され、情報・コミュニケーション支援機器については感覚器障害、認知障害、高齢者などが対象となることからユニバーサルデザイン化による対応も有効である一方、移動支援機器については、障害の状況に個々に適合させる義肢装具のようなものから、福祉車両のようにある程度ユニバーサルデザイン化による対応が可能なもの(介護支援機器の一部)もあり幅広い。

また、視覚障害者の移動支援などは情報支援とも重なる部分がある。

 

身体に対する密着度による支援機器の分類
利用者に近い順番で、義肢・装具、車いす・シーティングエイド、コミュニケーションエイド、介助用具、介護用品、住環境、生活環境があげられる。
第6回勉強会資料(パンテーラ・ジャパン株式会社代表取締役 光野有次氏)より
図 福祉用具の分類(機能別)

 

(3)重症度別による分類

さらに、それぞれの支援機器の中でも障害の重症度に応じたカテゴリーが存在する。

例えば、視覚障害者であっても、弱視の方には眼鏡や拡大文字が有効な場合もあるし、網膜症状によっては画面のコントラストの調整により文字情報を得やすくなる場合もある。重症度が高くなれば音声や点字でしか情報が得られない場合もある。

下肢機能障害で車いす系の移動補助具を使用する場合でも、重症度によって手動で十分な場合もあれば電動車いすが必要な場合もある。重症度が高くなれば座位保持のための特別なシートが必要な場合や、その他にも障害状況に応じた様々な配慮が必要となってくる。

 

(4)生活環境による分類

最終的にどのような機器を選択するかを決める要素となるのが、その機器を使用する地域の生活環境である。

例えば、外出機会が多く、雪道などの悪路にも対応する必要がある場合と、温暖な気候の地域で主に会社内、自宅内の移動が多い場合とでは選択する機器に違いがあるのは当然であり、また、複数の機器をTPOに合わせて使い分けるのか、一台で兼ねるのかという選択も出てくる。

 

以上のように、支援機器のカテゴリー分類には様々な視点が存在するので、機器の選択に当たっては、これらを十分に把握するとともに、利用者の適切な選択が可能となるよう、生活環境や職場環境、生活スタイルなども十分に考慮されるべきである。

 

ISO9999「福祉用具の分類と用語」について

ISO(国際標準化機構)においては、ISO9999「福祉用具の分類と用語」を制定している。1992年に第1版が制定され、その後、改訂作業を進め、1998年に第2版、2002年に第3版が出版された。現在、第4版(2007年2月1日発行)が発行されたところであり、福祉用具の機能に基づいて、福祉用具を以下の11の大分類により分類している。

大分類の下には、中分類、小分類があり、分類を構成している。

 

今後、ユニバーサルデザイン製品や複合機能を有する機器の取扱いなど、複雑化する福祉用具にどのように対応するかが、大きな論点となっている。


 

「ユニバーサルデザイン」と「オーファンプロダクツ」

(早稲田大学人間科学学術院特任教授 山内 繁氏)

ユニバーサルデザインは「すべての人が、可能な限り、特別な改造や特殊な設計をせずに利用できるように配慮された製品や環境の設計」を指すと定義されている(ガイド71)。しかし、一つの設計で改造無しにすべての人に利用されうる設計というものを実現することは実際には不可能である。このことは、ユニバーサルデザインを提案したロンメイス氏自身気づいており、「ユニバーサル」は不可能なことを可能と思わせてしまうミスリーディングな命名であったかも知れないと言っている。

これに対し、アメリカ教育省の国立障害研究所(NIDRR)前所長のシールマン博士は「オーファンプロダクツ」を対比させて論じている。アメリカでは、1988年のリハビリテーション法のころからオーファンプロダクツが論じられており、「特定の障害に対応しており、少数の障害者によってのみ用いられる機器であって、身体機能の再建を目的として設計されているか、市販の機器を改造することによって障害者による使用を可能としたもの」と定義されている。アメリカでは、ユニバーサルデザインへの期待の高まりとともに、ユニバーサルデザインによってあらゆる問題が解決出来るとの極端な主張も見られるようになった。国連障害者の権利条約の第2条において、「ユニバーサルデザインは、障害のある人の特定集団のための福祉機器が必要とされる場合には、これを排除してはならない。」と断っているのは、このような傾向に対する警告である。ユニバーサルデザインとオーファンプロダクツを両極とする二元論の立場に立てば、このような極論に陥ることもない。(下図参照)

一方、ICFでは、福祉機器一般を指す項目は定義されていないが、「日常生活における個人用の支援的な生産品と機器」、「個人的な屋内外の移動と交通のための支援的な生産品と機器」等環境因子との関連の元に定義されている。いずれにせよ、「改造や特別な設計がされているもの」であると定義されており、汎用製品やユニバーサルデザインは含まれない整理となっている。

少なくとも当面はユニバーサルデザイン(共用品と言い換えるとわかりやすい)が給付制度に乗るとは考えられない。例えば、パソコンのOSが拡大文字などを取り入れたからといって給付の対象にはならない。給付制度に関連するのはICT分野の一部であろう。

 

ユニバーサルデザインとオーファンプロダクツの概念図
ユニバーサルデザインでは市場規模が大きく、オーファンプロダクツでは適合の必要性が大きくなることが特徴。支援機器(福祉機器)は医療機器、オーファンプロダクツ、ユニバーサルデザインを包含する概念。
ユニバーサルデザインとオーファンプロダクツ(概念図))