生活訓練プログラム

 生活訓練は、利用者が日常生活能力や社会活動能力を高め、日々の生活の安定と、より積極的な社会参加ができるようにすることを目的としています。
 高次脳機能障害のある方の場合、訓練をとおして障害に対する認識を高め、その代償手段を獲得することが大きな課題です。また、本人に対する直接的な訓練のみならず、家族への働きかけも含めた環境調整も重要です。


1.評価

 障害者ケアマネジメントの手法を用い、本人の生活状況や置かれている環境の状況を理解し、本人や家族の希望を引き出し、主訴から具体的な支援ニーズを探します。医学的評価や神経心理学的評価があれば、それらも参考にします。

【留意点】

  • 障害の認識が不十分で、主訴と現実にギャップがあることが多い。
  • 認知や行動の障害は、外見からわかりにくい。普通の対応が可能な場合もあり、本人と家族の双方から話を聞くことが必要である。
  • 生活ニーズを探す際には、支援ニーズ判定票をはじめ既存の標準化された判定票を用いる。
  • わかりにくいことや聞きにくいことは信頼関係ができてから聞く。

 評価は、得られた情報と個人の特質とを関連づけ、目標への到達度の把握や予測的な解釈に用います。個人の特性や問題を把握して、介入方法や行動変容の可能性等を検討し、社会生活力の向上や適応のためのリハビリテーション計画を策定するために必要なプロセスです。また、活動や社会参加の困難さについて、個人の価値観、障害の多様性、環境との相互作用性など、様々な状況を勘案して行います。訓練終了後の活動や参加の場を想定した模擬的な訓練環境を設定することや、現実的な社会環境との調整を通して実施されることが望まれます。
 評価は、訓練初期、中期、終期に行い、的確に解釈するための判断や重み付けにおいては、支援員の専門性が重要な役割を果たします。

2.計画

 評価で得られた情報をもとに、将来的な目標とそれに向けての課題を整理します。本人や家族の希望だけでなく、実際の生活状況もよく把握したうえで、本人にとって真の課題は何かを明らかにします。本人や家族と十分話し合ったうえで、具体的な課題とそれに対する訓練(支援)内容、支援の担当者、期間等を確認し訓練(支援)計画を立てます。

【留意点】

  • 計画を立てるに当たり、本人あるいは家族の希望と現実との間に大きなギャップがある場合、長期的な目標とともに短期目標を設定して支援を行い、その結果をフィードバックし、また新たな目標設定をしていく作業の中で、現実的な目標へと近づけていく。
  • 短期目標については、具体的で本人にわかりやすい内容と言葉で設定する。
  • 認知機能障害や行動障害の影響が大きい場合は、生活リズムの確立や生活管理能力の向上を目指す。
  • 日常生活活動に大きな支障がない場合は、実際の体験をとおして社会生活能力を高めるよう対応する。
  • 連続したサービスの観点から、その後のプログラムを用意する。

 3.実施

 明確な日課や生活の枠を用意し、実際の体験場面を多く持つことや、訓練や生活場面で起きた問題はその場で本人に返し行動の修正を促すリアルフィードバックの手法を重視した訓練・支援を行います。

① 生活リズムの確立

 記憶の問題や発動性、意欲の低下などから、自ら日課を組み立て生活することが難しく、ベッドで過ごす時間が多くなったり、昼夜逆転といった生活時間の乱れが生じたりすることも多くみられます。
 このような方に対しては、施設内での生活をとおして、規則正しい生活習慣を身につけてもらうことや日中の活動性を高めるための働きかけをします。
 感情や欲求のコントロールが難しく、日課の遂行や対人面で問題が生じやすい場合も、明確な生活の枠組みを提示することで安定へとつながることも多く、日課の流れに沿って生活できるよう、その都度、声かけ、誘導、確認などを行います。

【留意点】

  • 本人に不安や混乱を与えないために、一日の予定や週間スケジュールをわかりやすい形で提示する。
  • 日中は、活動性を高めるためにも様々な訓練や活動を用意する。ただし、その人に適した活動の量や内容を見極めつつスケジュールを組む。
  • 訓練と訓練の間の空き時間をできるだけなくし、連続した訓練スケジュールとすることで、本人も行動しやすく生活が安定する場合もある。
  • 施設での生活が大きなストレスとなっていないか観察する。
  • 精神的に落ち着かず訓練参加状況も日によって変化が激しい場合、スタッフ間で「連絡ノート」を記載し、定期的に(週単位くらいで)スタッフミーティングを開き、スタッフ間の情報の共有と対応の統一を図る。
        

【支援のヒント】

 施設での入所生活では周囲の人たちと同調した行動が必要となるため、多くの場合は自然に生活のリズムがつきます。通所においてもそれ自体が生活の軸となるため、生活のリズムがつきます。個々の状況に応じて週1回から週5回の利用へと段階的に通所回数を増やすとよいでしょう。

    ② 生活管理能力の向上

    日課の管理

 日課に沿って自ら行動できるようにするために、スケジュール表の活用など、代償手段の獲得を図るとともに、わかりやすい目印や案内表示をつけるなどして生活しやすい環境を整えます。スケジュール表や手帳など本人に適した代償手段の定着を図ります。訓練開始前に「朝の打ち合わせ」の時間を設け、参加メンバー間でその日のスケジュールを確認します。訓練の終了後も「集まり」を設け一日のふりかえりを行って、記憶の呼び起こしや代償手段の必要性を認識してもらいます。


服薬管理

 毎回渡しから1日渡し、1週間渡しと段階的に自己管理の幅を広げます。チェック表を渡して服薬ごとにチェックしてもらいます。1回分ずつ分けて入れられ、服薬の確認がしやすいカレンダー型のポケットケースや薬ボックスを活用します。


金銭管理

 持っていればあるだけ使ってしまう場合もあり、計画的な使用ができるように、管理の方法について本人や家族と話し合い、期間と金額を決めて渡し小遣い帳をつけてもらいます。定期的に小遣い帳と残高の確認を行い、管理に対する意識化や習慣化を図ります。



【留意点】

スケジュール表

  • 見てわかりやすいシンプルなものにする。
  • 情報はできるだけひとつに集める。
  • 週間あるいは日ごとのスケジュール表にするかを決める。
  • 支援者が書いたものを用意するか、自記式にするかを決める。
  • 行ったことを自ら確認するために、一つの日課が終了するごとにスケジュール表にチェックや記録をしてもらう。
  • 本人の現在の能力に合ったものを選ぶ。関係スタッフとも連携して、時間ごとに確認の促しなどして定着を図る。
  • 持ち歩く時は取り出しやすく、すぐ目に入るように、またどこかに置き忘れないように、首から下げて携行するなど工夫する。

【支援のヒント】

 スケジュール管理では携帯電話、スマートフォン、タブレットが有効な場合もあります。シンプルに構造化されているものを選び代償手段として活用します。

③ 社会生活技能の向上

 地域での生活に向け、また本人の将来目標に合わせ、買物・市街地移動・一般交通機関利用などの外出訓練、調理訓練、あるいは一戸建ての建物を利用しての生活体験実習などを行います。実際場面で評価し、その問題点を本人にフィードバックして訓練を積み重ねます。身体機能面からくる障害と高次脳機能障害の双方の問題について評価し訓練します。


【留意点】

外出訓練

  • その場での状況判断や応用を求められる部分が多く、高次脳機能障害のある方にとっては苦手な部分でもある。まず目的やコースを限定して、ステップを踏んで実施する。趣味や文化活動を目的にすると生活の広がりも期待できる。
  • 決まった行程に沿って行動できても、途中で別の用件が入ったり変更があったりするとそれに対応できない場合があり、そうした状況も把握する。
  • 通勤や通所など、将来利用する場面が明確な場合は、実際に利用するコース・時間帯で訓練し、実用化を目指す。
  • 初めての場所や経路では単独での移動は困難でも、住み慣れた場所であればほとんど迷うことなく行動できる場合もあり、そうした状況についても把握する。

④ 対人技能の向上 

 施設での集団生活は「擬似社会」での生活体験の場でもあり、その中での日課の遂行や対人交流を通して得るものもあります。集団生活では対人トラブルも生じますが、その場で客観的な事実を本人にフィードバックすることで自らの障害に対する認識を深める機会ともなります。
 訓練場面や集団生活の中で問題が起きた場合は、その場で事実を説明し行動の修正や望ましい行動を指示します(リアルフィードバック)。また、対人技能の獲得などを目的に、グループプログラム(グループワーク)を行います。課題に対し、メンバー間の意見交換や役割分担、計画・実行・反省といった過程を通して対人技能の向上を図ります。内容としては、福祉制度や社会資源などを学ぶためのグループ、外出計画や新聞作りなど企画を達成するためのグループなどが考えられます。

【留意点】

グループ活動

  • まずグループが成立するよう、メンバー構成に配慮する。
  • できるだけ1回の活動の時間内で、実施した結果をメンバーに返す。
  • 継続して取り組む課題については、毎回、グループの目的、現在取り組んでいる内容、前回行ったことなどを確認しながら進める。

⑤ 障害の自己認識・現実検討

 障害の自己認識のためには、できるだけ実際の体験をしてもらい、そこで出された結果を本人にフィードバックしつつ、現実検討を進めます。それには次のような手段が考えられます。

  • 「対人技能」と同様に、訓練や生活場面を通してリアルフィードバックする
  • グループでのメンバー間のやり取りを通して、自らの課題を考える機会を作る
  • 地域で生活している当事者の話を聞く
  • 模擬職場的な訓練場面を活用しての作業体験を行う
  • 利用可能な社会資源について情報提供し、見学を行う
  • 就労継続支援事業所や一般企業などで実習する

【留意点】

  • 社会資源の見学や実習先は、利用者の将来の生活拠点を踏まえて選ぶ。
  • 実習の結果は、実習先の職員から直接本人に伝えてもらった方がよく、家族も同席できるようにする。

⑥ 必要とする支援の明確化

 障害の自己認識や現実検討が進む中で必要な支援の内容も明らかになりますが、障害の特性から本人にとって有効で現実的な生活設計を考えることが難しい場合もあります。その場合は、支援者が本人の状況に合わせて環境を調整し、今後の社会参加場面や支援の体制を整えます。
 本人の認識と客観的な評価との間に大きなギャップがある場合、そこに到達するまでの最初のステップとして、今何が必要かに重点を置き検討を進めます。
 支援者が考えた支援内容や今後の方向性について、本人が消極的であり拒否的であっても、実際に試してみると比較的スムーズに適応する場合もあります。ここでも体験が大切であると言えます。一方、結果的に適応しない場合もあり、その時の問題の整理や支援体制の再構築も含めた支援が必要です。

【支援のヒント】 

  • 支援体制を考えるに当たっては、友人や同僚、ボランティアなどのインフォーマルな社会資源の活用も考えます。事前に十分なオリエンテーションを行います。このような資源を活用することで、対人技能を身につけたり、話し相手を得て精神的安定が得られたり、生活意欲を高めるきっかけとなったりします。

⑦ 家族支援

 家族にとって、身内が障害を負ったことに対する精神的なショックは大きく、またその障害を理解し受け止めるまでには相当の時間を要します。このため本人同様、家族に対しても不安や負担の軽減を図る支援が必要です。
 また、本人だけでは生活を組み立てて遂行していくことは難しく、何かしら他者の支援が必要になります。そうした支援体制を作っていくうえでも、家族の障害理解と協力は不可欠です。
 家族からの相談に対する個別の支援とともに、社会資源についての情報提供、勉強会や家族懇談会の実施、地域の当事者団体の紹介などを継続的に行います。

【留意点】

  • 家族が孤立することのないように支援する。
  • 受傷してからの期間について考慮し対応する。

 高次脳機能障害のある方の家族には、本人の言動が受傷前と大きく変わってしまったことに対する戸惑い、受傷前と変わらない部分とうまく対処できなくなった部分が混在していることへの戸惑い、脳外傷者では年齢的に比較的若い方が多く、将来の不安がある一方、回復への大きな期待もあります。このような個々の家族の気持ちや立場をよく把握し、丁寧な対応を心がけます。

4.効果測定

 生活訓練の効果測定は、医学的リハビリテーションを経て、なお残存する障害の状態に基づき、日常生活や社会活動に必要な力を高め、社会生活への適応を図ることが重要な視点になります。すなわち、労働能力・日常生活能力・社会活動能力等の社会生活困難度(社会生活能力)が、訓練介入の前後でどのように改善されたかについて評価することによって、効果測定ができます。
 また、サービスの質について、終了時に利用者や家族の意見を聞くことも有効です。利用してよかったこと、悪かったことや問題点、利用目的の達成状況、訓練メニューの有効性、職員の対応等があげられます。
 さらに、成果の評価だけでなくプロセスの評価も重視すべき点です。社会生活困難度の改善、利用者の満足度に加え、サービス提供体制についても総括されることが求められます。サービス提供者の意識や専門性、的確なプロセスの評価などを含めて、総合的に評価します。

【留意点】

  • 利用者と家族による効果測定は、「満足度調査(アンケート)」などを実施するとよい。
  • サービス提供体制やプロセスの効果測定は、福祉サービス第三者評価ガイドラインなどを参考にするとよい。

5.その他

 高次脳機能障害のある方には、長期的かつ包括的な支援が求められます。地域への移行に際しては、関係機関に障害を理解し適切な対応をしてもらうため、本人や家族の同意を得たうえで、本人の障害特性や行動特性、支援方法等について、文書等にて情報提供を行います。また、関係スタッフ間で支援会議を持ち、今後の支援の方向性や内容を整理して、支援の連続性を図ります。