訓練の計画をたてる

 高次脳機能障害に関する評価結果に基づいて目標を設定します。一般的には、当事者のニーズが考慮されますが、高次脳機能障害では本人の判断や認識が必ずしも適切でないこともあります。
 本人、家族、学校や職場と十分な話し合いを通じて、障害の程度にあった現実的な目標を定めることが重要です。目標としては、復職、復学などがあげられますが、高次脳機能障害の回復過程を考えると、医学的リハプログラムの期間には達成することができない場合もあります。
 従って、医学的リハプログラムの場面では、本人がイメージしやすく、短期間である程度実現が可能な目標を設定するのがよいでしょう。訓練には、関連職種の意思統一を図った上で実施します。連続したサービス構築の観点から、早期から支援コーディネーターも加えた訓練・支援体制を確立することも必要です。

具体的な目標を決める

 本人が容易にイメージできる現実感のある目標がよく、具体的には、身体面では、トイレ動作の自立、歩行の自立などはイメージしやすく訓練の必要性についての理解も得やすいものです。高次脳機能障害は、本人が自覚していないことも多く、訓練を実施することについて本人の納得が得られにくいことがあります。
 評価に基づいて、日常生活、職場、学校などでの問題点を明らかにし、この問題点を本人に理解してもらうことが大切です。カンファレンスを通じて関連職種の意思統一をあらかじめ図る必要があります。スケジュールを立ててそれに基づいて行動できる、小遣い帳をつけて金銭管理ができる、料理の献立を考えて必要なものを揃えることができる、パソコンの操作ができる、など実生活に即した目標で、能力に見合ったものを本人、家族等と相談して設定することになります。
 実施方法には、病院であれば入院訓練、外来訓練があり、障害者支援施設では入所あるいは通所により、その他の施設は通所により行います。

訓練を行う際の留意点

課題の選択

 本人の日常生活や職業に関連した現実的なものを採用します。
 できる限り本人の興味や関心に合致するものを選択します。
 達成感が得られるよう課題の難易度を調整します。

訓練の進め方

 訓練は段階的に進めます。
 訓練効果を本人にわかりやすくフィードバックし、訓練意欲が維持されるよう努めます。

環境の調整(本人が混乱しないための環境設定は、訓練を効率よく実施するために欠かせない)

 病室や訓練室の物理的環境の調整。
 環境の構造化:手がかりの提示、行動のパターン化など。

一般化の努力(訓練場面でできたことが日常生活に応用できるための対応が必要)

 病院内のさまざまな場所や状況で練習します。
 訓練環境を家庭生活や職場の環境に類似して設定します。
 家庭でも実行できるよう家族の協力を得ます。
 訓練の実施に当たって上記の点に注意する必要があります。

訓練に共通する考え方

 また、認知障害自体の改善が最も期待されるものの、必ずしも完治しない状況では、いずれの症状に対しても、次のように対応することが必要です。

  1. 認知障害に対する改善(狭義の認知リハビリテーション)
     高次脳機能障害者の注意障害、記憶障害といった特定の認知障害に対する訓練方法であり、狭義の認知リハビリテーションに当たります。
  2. 代償手段の獲得
     上記のような訓練が有効でない場合は、残された機能を用いた代償手段を訓練します。例えば、記憶障害があり、言語的記憶に比べて視覚的記憶が残されている場合に、絵で描かれた手がかりを活用することなどです。
  3. 障害の認識を高める
     本人が自らの機能障害を認識できると、種々の代償手段が活用しやすくなります。従って、実際の検査・実施結果をその場で提示あるいは、ビデオ記録を行い再生して本人にフィードバックするといった方法をとることがあります。
  4. 環境調整(家族へのアプローチを含む)
     障害による不都合が少しでも減るように周囲の環境を整える手段を講じることもあります。例えば、家族に障害を説明し理解してもらい、本人が混乱に陥る前に適切なタイミングで援助を依頼する、大切なものを見つけやすいように整理する、身に付けておくことなどです。

実際に標準的訓練プログラムを開始する場合

 これまで高次脳機能障害者の訓練を特別に実施していなかった病院・施設の方々にとっては、具体的にどのようにチームを運営するか不明な点が多いと思われます。日頃のリハビリテーションと比較して次のようなことについて特に注意が必要です。

多くの職種が連携して実施する
  1. できるだけ多くの職種の関与を促します。必ずしも全ての職種がそろっている必要はありませんが、評価・訓練を分担して実施する体制を作ります(特に、医学的リハプログラムは医師のリーダーシップが必要です)。
  2. 一人の当事者について各職種が評価します。
  3. カンファレンスを開いて、各当事者について目標の設定を行います。
  4. 訓練を実施します。
     従来行われている一日の訓練時間では不十分です。訓練室での訓練をさらに病棟で実行する工夫、宿題の実施により空き時間を少なくする、一日のスケジュールをわかりやすく作成するなどの工夫をします。
    現実的な訓練課題の選定、訓練の過程で生じる心理的問題への対応など、実際の経験を通じてチームの実力を高めていく必要があります。
  5. 結果を判定する。
     漫然と訓練を実施することは好ましくありません。定期的に評価を繰り返し、訓練プログラムの妥当性や、訓練実施体制を見直すことが必要です。当事者本人あるいは家族からの評価も大切です。
近くに生活訓練や就労移行支援を提供する施設があれば連携する

 訓練の早期から連携を図ります。高次脳機能障害では、短期間の訓練で完治することを期待するのでなく、得られる多くのサービスを導入して、高次脳機能障害が持続していても、本人や家族ができるだけ安心して生活できる状況を用意します。訓練のために利用する施設としては、病院(一般病院、リハビリテーション病院)、障害者支援施設、就労継続支援施設などがあり、これらの施設との連携が大切です。

 これらの過程を管理するために、次の順序で対応していくことが各専門職、本人、家族の共通認識を図るのに有効です。

  1. 基本的情報(年齢、病歴、社会的背景など)
  2. 問題点の抽出(機能障害、活動制限、参加制約など)
  3. 訓練目標の設定、具体的訓練内容の確認、各専門職の関与
  4. 訓練結果の評価、まとめ