就労移行支援プログラム


就労移行支援とは

 一般企業や在宅で就労を希望する方を対象に、障害者支援施設が提供するサービスのひとつです。就労に必要な知識や能力を高めるトレーニングや、利用者の適性に合った職場探しのほか、就労後の職場定着の支援などを行います。一般的には、次のような流れで進めます。



高次脳機能障害者のための就労移行支援

 高次脳機能障害者の職場での問題は、「一見何でもできそうなのに、仕事を任せると段取りが悪く、ミスが多い」といった、『外見』と『実際』のギャップによるものや、他者から能力を低く評価されたと感じたことから生じるトラブルのほか、周囲が気になって集中できない、作業が誤っていないかどうか常に不安になるなど、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害の症状が組み合わさって表れます。
 支援プログラムでは、利用者と家族、支援者が、本人の障害と生活上困難な部分を理解したうえで、どのような支援が必要であるかを明らかにし、代償手段の活用や環境調整などの可能性を検討します。以下に支援プログラムの要素をまとめます。

  1. 可能な業務、適応面など職業上の課題を明らかにすること
  2. 職業的な障害認識をすすめ、補償行動の獲得を図ること
  3. そのうえで、本人にとって適切な職務を選択し、職場の環境調整などを行い、安定した就労の実現を支援すること

初期面接と個別支援計画の策定

 安定して働くためには、まず基礎として生活リズムがあり、その上に毎日きちんと通勤できること、職場での人間関係などの適応能力、そして仕事が適切に行える作業遂行能力などの積み重ねが必要です。高次脳機能障害に限らず、支援者はこの積み重ねを押さえる必要があります。



図:安定して働くための積み重ね

(1) 初期面接

面接のポイントは、職業生活を支える積み重ねを踏まえたうえで、情報を把握・確認することです。
面接で収集すべき情報
 本人の就労への意欲、希望する職種、適性、就労経験と状況、支援の必要性、障害の状況などのほか、背景となる経歴、家庭状況、経済状況なども必要な情報です。
 就労移行支援のためのチェックリストを利用することも有効です。

(2) 個別支援計画の策定

  個別支援計画の策定では、本人・家族の同意のもと、面接で得た情報に基づいて目標と期間を決めます。高次脳機能障害のある方の希望は、初期の時点では必ずしも現実的でないこともあります。本人の合意が得られない場合は全面否定せず「長期目標」として聞き取り、実現可能な当面の「短期目標」を話し合って決めます。適切な支援内容を選定します。

 個別支援計画書は、多くの支援者が共有するので、できるだけわかりやすく作成します。定期的にカンファレンスを開いてモニタリングします。


職場体験

 職場体験とは、「模擬職場」=「職場」を意識して設定された環境で、復職もしくは新規就労するために、基本的な能力評価や能力開発を行うものです。一般的には、次のような流れで進めます。




作業場面

 職場体験や技能習得の作業場面では、作業内容、手順、難易度、適切な説明方法などを具体的に知ることが本人・支援者双方にとって重要です。


 支援者は、『できる仕事』『適した仕事』を探すとともに、どのような環境(周囲の対応や職場の配慮など)によって作業能力が改善し、安定した職業生活が可能になるかを把握します。


高次脳機能障害の症状から起こりやすい問題と対応

 高次脳機能障害の主症状として、記憶や注意のほか、判断力や遂行機能の低下がみられることがあります。以下は、よくみられる問題と対応方法です。

①    情報処理

  • 照合の課題などで注意ミスが減らない。
    定規を当てて確認し、1行ずつ「レ」チェックをつけるなどの方法により確実性を高めます。

  • 速度と正確さの双方を要求されるとミスが増えてしまう。
    仕事は速度と正確さの両方が必要であるという点を意識するようにします。そのうえで繰り返し作業することでどの程度改善するかを確認します。

  • 注意すべき所が複数あると間違える。
    ファイリングの際に穴あけのみに注意が向き、位置がずれる、複数の指示のあるコピー(拡大、両面印刷など)の際に何かひとつ忘れるなどの問題がよくみられます。その場合は、同時に複数のことに注意を払うのが苦手になったことを認識するようにし、事前に確認事項を書き出してひとつずつチェックしながら作業を進めるなどの対応方法を身につけます。

  • 効率が悪い・工夫や判断ができない。
    部品を取りやすい場所に置く、指示書を見やすい場所に置くなどの工夫が思いつかないことがあります。どの程度できるかの把握とともに、苦手であることを認識し、対応方法を一緒に検討します。

  • 複数の指示を一度に言われる、または複数の指示者から言われると混乱する。
    前者は「ひとつずつ言ってください」「メモを取るのでゆっくり言ってください」など指示者に言えるようにします。後者の場合、改善されなければ、同じ内容でも複数の人から言われるのは苦手なので指示者をひとりにしてもらうなどの配慮を頼めるようにします。

  • 優先順位や段取りがつけられない。
    手順が決まっていない業務は苦手になったことを認識してもらいます。そのうえで、手順の確認がしやすい方法を検討します。

② 記憶メモを書くだけで活用できない。

  •  仕事のメモには、必要なことを書く→必要時に確認する→適切に活用する、という能力が求められ、スケジュール帳に比べると高い能力が必要です。対応方法として、スケジュール用の手帳と訓練用の業務ノートを分けたり、業務ノートは「作業」「事務」「PC」など内容ごとにインデックスを貼って記載箇所を明確にしたりします。

  • 思い込んで違うことをする。
    「中途半端な記憶は仕事に支障をきたすこと」を常時フィードバックし、「指示はしっかり聞くこと」「メモをとること」を徹底します。原則的に、指示は「簡潔に」「具体的に」しますが、それでも問題がある場合はメモを渡す、支援者がノートに記載するといった対応もあります。

  • 指示書を確認せずにミスをおこす
    「記憶に頼ると仕事に支障があること」「指示書は必ず見ること」を繰り返しフィードバックし、記憶障害の認識を促したうえで指示書を活用することを習慣化します。指示書自体に目が向かない場合は、作業手順を書いた表示プレートを置く、機械に直接手順書を貼るなどの設定もあります。

  • 途中で作業手順や内容が変わる
    その都度フィードバックして確認し、手順が確立するまで繰り返します。作業内容の複雑さが原因の場合は、指示書の利用や工程の細分化などを検討します。

  • 昼休みなどで間があくと再開すべき箇所がわからなくなる。実施済と実施中が混在する。
    前者の対応としては、メモを見て開始するように訓練する、メモの確認が定着しない場合は課題に「ここまで終了」と書いた付箋等を貼る、課題自体を忘れる場合は机など目に入りやすい所に「午後は名簿作成から」などを明記した紙を貼る、など工夫します。後者は「実施済」「実施中」を明記した表示プレートなどによりはっきりとわかるようにします。いずれも自分で対応できるのか、配慮が必要か、支援者が把握します。

適応行動

 高次脳機能障害の特徴のうち、社会的行動障害(依存性・退行、感情・欲求のコントロール低下等)によって、対人関係を円滑に保つことができないことがあります。また、記憶障害、注意力障害、遂行機能障害等によって、指示を受けても、忠実に業務を遂行したり、報告したりすることができず、結果として就労継続が困難なことがあります。

      
  1. 就労において環境への適応が重要であることを意識するようにします。
  2. 支援者が行動を分析して課題を把握します。
  3. 問題点を現実的に把握するため、直接指摘します。
  4. 課題に対して、原因や対応方法を話し合います。

技能習得

 就職するためにパソコンスキルの習得を希望する人はたくさんいます。技能習得は、障害の特性を理解していないと効果が上がらないことがあります。実際に、PCの専門学校を卒業したという理由で、PC関係の仕事に就職したものの仕事にならないという例もあります。
 求められる技能が希望者の能力を超えていれば、部分的に可能あるいは技能として習得できても、仕事として活用することが困難な場合もあります。とくにコンピュータ関連については、苦手になった能力を要求されることが多いので、作業課題の分析はより重要になります。


就労マッチング・復職支援

 就労移行支援の後半では、新規就労や元の職場への復帰のほか、一般就労が難しい場合は福祉的就労に向けて支援をします。

① 新規就労をめざす場合

 本人と家族の就職への意向を確認します。職場体験や実習中の状況を振り返り、めざす方向性を決定して、ハローワークで求職登録等を行います。そのほか、集団職業相談会への参加や、就職情報誌、新聞折り込みチラシ、インターネットなどからも可能性を探します。職場実習は体験が目的であり、雇用を前提としていませんが、実習中に事業所の理解が深まり、後日正式採用に至る事例もあります。以下は、確認すべき情報です。

  • 家族状況
  • 居住地域
  • 就労に関する本人の希望と実際の状況
  • 障害と必要な支援の状況(生活面、作業面)
  • 作業遂行の状況(適性内容、方法等)

② 元の職場に復帰する場合

 新規就労に加えて、復職に向けた具体的な確認項目は次のとおりです。


  • 職場情報の収集
    復職に関する事業所の意向
    復職調整を行う事業所窓口担当者および産業医(いる場合)
    休職期間、休業補償(傷病手当金、有給休暇)
    配置替えの可能性
    本人に合わせた業務創出の可能性
    職場の業務内容と本人の職務
    職場環境(物理的・心理的)
    事業所の職務を訓練用に提供される可能性
    職場実習の可能性

  • 職場への情報提供
    復職への本人・家族の意向
    本人の高次脳機能障害に関する説明
    障害理解と配慮、代償手段の必要性
    各種助成金制度    
    職場環境整備への助言
    アフターフォローに関する説明

  • 職場実習
    実習計画(期間、時間帯、場所、実習内容、キーパーソン、通勤経路)
    実習契約、保険
    職場実習評価表によるチェック
    実習のまとめと結果報告
    必要に応じた再実習

  • 復職と定着指導およびアフターフォロー
    問題解決方法と役割分担
    アフターフォローの期間の取り決め
  •         

③ 一般就労が難しい場合

 現状では一般就労が難しいと思われる場合には、就労継続支援事業所での福祉的就労を経て一般就労をめざすという選択肢もあります。

効果測定

 就労移行支援の効果測定は、トレーニングや支援を行うことにより、どのように改善・変化したかを測ることを目的としています。それと同時に、支援者の技術が適切であるかを測るという側面もあります。効果測定の結果に基づいて、支援者は個別支援計画の修正や次の段階に移行する場合の再計画の策定が可能になります。効果測定はモニタリングに不可欠であり、作業遂行能力や適応能力などの職業準備状況だけでなく、本人の障害認識の状況を明らかにする視点も重要です。

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